ルシェの訪れ
朝目覚めて窓を開ければ、少し肌寒くなった空気を感じた。
もうすぐ冬になるのかな。
こちらの冬はどんな感じになるのだろう。
雪とか積もるのかな、雪掻きとかあるのかな?出来ればやりたくないな・・・。
庭の木にも冬囲いやらなきゃなぁ。畑も越冬準備しなきゃな。
と、庭のテーブルに誰か座っている。
ルシェとミニチュアサイズの翁だ。
翁?・・・おきなぁぁぁぁぁ?! この世界に翁っているの?
老紳士とかじゃなくって?
いやどうみてもあの服装は翁よね?・・・烏帽子に狩衣・・・。
えー・・・。これも私の影響って事?でも翁なんかイメージしたっけ?・・・
してないと思うんだけど・・・。
で、ルシェもルシェでなんでこんな早朝から居るのよ?・・・
『おはよう、ロゼ。』
「おはよう?随分と早いのねルシェ。」
『今日は自由な日だからね。早くロゼに逢いたかったんだ。
父上と母上に許可は取ってあるから大丈夫だよ。』
「で、そちらの精霊は?」
『武の国より移ってまいった。』
「なるほど、いらっしゃいませ?」
うん、何で翁の格好なのかとか考えるのはやめよう。
翁って何?と聞かれても昔の言い回しでおじいさんの事としか説明できない!
着替えてご飯にしよう、そうしよう。
「で?どうしたの?何か用でもあったの?」
温かいジンジャーティを注いだカップをテーブルに置きながらルシェに問いかける。
『うん、そろそろ冬支度始めるだろうから人手が居るかなと思って。』
「そっか。確かに人手はあると嬉しいかも。ありがとう。
ねえルシェ。ここの冬はどんな感じなのかな?」
『どんな感じ・・・。そうだな凄く寒い?』
うん、そりゃ冬だからね? 寒いのは当然よね? そうじゃなくてね?
私の聞き方が悪かったかしら・・・。
「雪とか風とかどのくらいかな?」
『ああー。雪は10~20cmくらいかな。風はあまり吹かないけど時々強風が吹く。』
「なるほど、じゃあ雪掻きはあまりしなくて良さそうね。」
『うん、寒さが厳しいのは1~2ヵ月くらいかな。』
「じゃあその間は買い出しも厳しくなるのかな?」
『天候にもよるから備蓄はしておく方が良いと思う。』
「だよねぇ。問題はパンと牛乳かなぁ。」
『牛乳はさ。牧場から1頭借りればいいんじゃないかな?』
「え? 借りれるの?」
『冬場だけ借りれるよ。皆冬はあまり出掛けたがらないから。』
「なるほど・・・。」
となれば牛舎と干し草かぁ。
『心配ない。牛舎はすぐに用意しよう。』
『干し草なら僕らが集めるよ。青藍のも必要でしょ。』
『『『 うんうん 』』』
ディーヴァもマルスもヴィーも皆もありがとう。精霊軍団頼もしい。
『俺はストーブ用の薪でも準備するよ。』
「ありがとうルシェ。助かる。」
薪はいくらあってもいい。幸い森には倒木も割とあるしね。
枯れ枝も焚き付けで用意しなきゃだね。
よし、やりますかー!
ルシェと2人で薪を集めに森へ入る。
パト・・・じゃない虎徹も毎度おなじみ荷車を引いて付いて来てくれる。
赤毛の精霊ことクレハも一緒に付いて来た。なんでか翁も付いて来た。
いちいち赤毛の~って言うのもなぁと思って名前を聞いたらクレハだと名乗った上ディーヴァとは兄弟だと言うから驚いた。
なるほどね、兄弟だから助けを求めにきたのか。納得。
ルシェが倒木を運びやすい大きさに斧で割り、私が鉈で余計な枝を切り落とす。
もちろん落とした枝も持ち帰る。
翁はパタパタと飛び回って何かを集めているんだけど、その姿が可愛い。
だって両手を広げて扇でパタパタして飛ぶのよ?
その小さな扇で飛べるの?って思うけどそこは精霊だからキニシナイ・・・。
クレハは保存が利く木の実や果実を集めてくれていた。
虎徹の負担にならない程度の量になれば、一旦家に戻って荷を下ろしまた森へ戻る。
青藍は不満そうだったけど、次の機会にお願いするから。ね?
5往復もすればちょうどいい時間になっていた。
「ルシェそろそろ帰った方がいいんじゃない?」
『もうそんな時間? じゃあ少し休んでから帰るよ。』
「そうだね。今お茶をいれてくるから。」
レモンティと小振りのクッキーを持って戻ってくるとルシェは何やら考え事をしているようだ。
「ルシェ?」
『あ、ごめん。』
「大丈夫? 疲れたんじゃない?」
『いや大丈夫だよ。その・・・悩んだと言うか・・・。』
「ん? どうしたの?」
『ロゼ。あの話覚えてるか?』
あの話? どの話? はて?
「ごめん、どの話の事かな?」
『ロゼを幸せにするって、苦労はさせないって話。』
それかぁー! 忘れてくれてもいいんだけど?
「その話ね・・・。」
『俺は本気でそう思ってる。ロゼは俺の事嫌い?』
うぐっ・・・。
嫌いな訳ないじゃない。どっちかっていえば好きだよ?
でもその好きがLikeなのかLoveなのかはまだわからないんだよ・・・。
どうしよう。正直に言うのは恥ずかしい気がする。
でも下手に誤魔化しても傷付けてしまうよね。
・・・。
えぇい、女は度胸!
「嫌いじゃないよ? どっちかと言えば好きだよ。
でもね
でもね、その好きが 愛と言えるものかはまだ自分でも解らないんだ。
それにね
ここに呼んだ責任とか、裸を見た責任とかだったら気にしないで欲しいかな。」
自分で言っておきながら、顔が赤くなるのが解る。
『責任・・・だけじゃないんだ。
俺もまだ愛してるって言う自信はない。
だって今までこんな経験ないからさ。
でも凄く気になって、大切にしたくて 守りたいって思えて。
ずっとロゼの傍でその笑顔を見て見たいなって思うんだ。』
ゴフッ・・・
ルシェ・・・それすっごいセリフだと思うんだけど?
思い切り告白じゃないよぉ。
反応に困るのですが・・・。と思いながらも顔は素直に反応してるよね・・・。
『だからさ、ロゼ。
この冬、ここで一緒に過ごしてもいいかな?』
はいぃぃぃ?!
唐突じゃないかな?
だってそれ同棲って事よね? 部屋1つしかないのよ?
『心配ない、増築すればよい。』
ちょ。ディーヴァまで何言い出すのよ。
『父上も母上も賛成してくれてる。ロゼ一人じゃ心配だし。』
待って待って。バルドさん?アルテシアさん?
『お互いに自分の気持ちを確認するためにもさ、駄目かな?』
「ルシェ、まだ未成年だよね?」
『後3ヵ月で成人する。』
「冬の期間て3ヵ月だっけ?」
『うん。3ヵ月』
「うーん・・・。
じゃあ寝室は別々だよ?」
『うん、今はそれでもいい。』
「ラファやハイデルは知ってるの?」
『まだ知らない。ロゼがいいって言ってくれたら話そうかと思って。』
「そっか。解った。 じゃあ3ヵ月だけね?」
『うん! ありがとうロゼ。』
凄く嬉しそうだな。
まあ確かにこの好きがどっちの好きなのか、確認は必要よね。
ただ・・・ラファとハイデアが大人しくルシェを送り出すかは心配だけど・・・。
そこは頑張ってね?ルシェ。