脳内お花畑
『ねぇロゼ。あれってずっと見てなきゃ駄目かしら?』
フラウは若干疲れた溜息をつく。
うん、気持ちはわかるのよ?でもちゃんと見ておかないと・・・ね?
顔合わせのお茶会が始まって最初の30分は家族もいたのだけれど
後は2人でって事で残された王太子くんとハイデア。
お互いが時々チラッと顔を見ては頬を染めモジモジと俯いたまま1時間。
私達はいったい何を見せられているのだろうか。
会話はどうした・・・。
私に対して行け行けGoGoだったあの勢いはどうした・・・。
そのままじゃあ埒が明かないでしょー。
かと言って私が出て行って仕切る訳にもいかないし・・・。
バルドさんとアルテシアさんは・・・
ああ2人もじれったそうに・・・。
王太子くんのお姉さん、王女様もじれったそうだし。
お付きの人達や侍女さん達までどうしたものかと手をこまねいている。
そりゃそうよね。
あの2人 お互いが頬を染めているって事は第一印象は好ましいものだったんだと思う。
かと言って会話がないんだから、周りとしても下手に声をかけても余計に緊張させてしまうし・・・。
仕方が無いなぁ、ここは・・・。
「フラウ、栗鼠になれないかな?」
任せたフラウ!
私なの?!と言いたげにフラウは私を見ている。
ディーヴァに聞いて王太子くんは小動物が好きなのは知っている。
魔物が多く野生動物が少ないので、いつも本で姿を眺めているのだそう。
なので実物を見れば、会話のきっかけになるのではと思ったのだ。
『そうね、あれをこのまま見続けるよりはいいかもしれないわね。』
溜息を1つ吐いてやれやれと栗鼠の姿になったフラウは2人に向かって走って行った。
ひょいとテーブルに乗り王太子を見つめ小首をかしげている。
やるなフラウ。あざと可愛いじゃないか。
王太子くんは驚いて椅子かた立ち上がりかけていた。
それでも小さな姫の前でなんとか体裁を取り繕うと頑張っているようだった。
やがて落ち着きを取り戻し、一言二言言葉を交わした後には笑顔も出始めた。
栗鼠であるフラウの頭を撫でながら、なんとか会話も続くようになったようだった。
あの調子ならもう大丈夫かな。
フラウありがとう。
頃合いを見計らってクッキーを咥えたフラウが戻って来た。
『会話が・・・』
「ん?」
『甘ったるく感じたのは気のせいかしら。』
ん?どうゆうことかな?
『可愛いですね。』
『ええ、本当に愛らしい栗鼠ですわね。』
『私が言ったのは栗鼠ではなく・・・』
『え? 他にも何かいます?』
『ハイデア姫、あなたが可愛いと・・・』
『え? ええ?』
見たいな会話が続いたそうで・・・・。
あー、それは甘ったるいわね。まあいいけども・・・。
アルテシアさんもほっとしたみたいだし。
バルドさんは・・・ほっとしたのと複雑な表情と。
あーそうね。可愛い娘が王太子くんに頬を染めてるんだものね・・・。
親心も解るけどさ、ハイデアの気持ちを尊重してあげてね?
特に不穏な様子もなさそうだし、このままずっと見てても胸やけしそうだし?
私は森へと帰る事にした。
ハイデアも満更でもなさそうだったし。
ディーヴァ情報では国王と王妃にも問題はなさそうだし。
詳しい内部情勢までは聞かなかった。
ハイデアやこの国に害が無いなら、そんなのそっちで勝手にどうぞって感じだし。
ハイデアが巻き込まれなければそれでいい。
王太子くん達の滞在は5日間だった。
その間、最初のあのモジモジは何処へやら。
すっかり2人は仲良くなったらしい。
王女とハイデアも仲良くなり、王太子くんもルシェやラファとも仲良くなっていた。
『貴方のような可愛い妹が出来たらとても嬉しいわ。』
王太子くんと2人きりの兄弟で妹がずっと欲しかったのだと言っていたそうだ。
うん、この王女はハイデアの味方になってくれそうね。
一方のハイデアは
『落ち着いた雰囲気を持ってらっしゃるかと思えば時々幼さも見えて
子供の様に目をキラキラさせて栗鼠を撫でている時なんか愛らしい方なのよ。』
と早くもノロケを聞かされた。 はいはい、ご馳走様です?
しかし10歳児に幼く見えると言われてどうなのよ。
王太子くんもまだ15歳だし仕方がないのかな?・・・
2人がそれでいいなら、まあいいかな。フフフ
やっぱり会って見てよかったじゃない。
このまま話が纏まるのかな?纏まるといいなぁ。
王太子くんたちが帰国して平穏な日々が戻って来た。
と思ってたのに平穏ではなくなった・・・。
ディーヴァとティータイムを楽しんでいるこの赤毛のイケメン、誰?
ディーヴァと一緒にいるんだから精霊なんだろうけどさ。
『ああ、彼は東に位置する武の国の精霊だ。』
なるほど? その武の国の精霊が何故ここにいるんだろう?
『助けてもらえないだろうか?』
はい?・・・。
『我が国の聖女は国王の娘、王女なのだが少々夢見がちでな。
精霊との対話も自然との触れ合いも怠っているのだ。』
なるほど? 夢見がちとは?・・・
そもそも精霊と対話しないとかなんでそれで聖女認定されてるんだろう。
『幼い頃は対話もしておった。自然との触れ合いもしておった。
だが成長と共にアレの母親が王女らしくないと辞めさせてしまったのだ。
王女である聖女はそこに居るだけでよいのだと。』
ん? 居るだけでいいの? チラッと目線をディーヴァに向ければ
ディーヴァは首を振っていた。そうだよね、対話が必要なんだよね?
『ロゼ、人が対話を必要としないと言うのであれば我らも力を貸さねばよいだけだ。
だか問題は別にある。』
と言うと?
『森があるから魔物が増えるのだと言う建前で伐採を始めた。
森を無くすと言っておった。』
ん? 森を無くす?・・・
生態系のバランス崩れるんじゃ?
って、森が無くなったら人間の生活にも影響出るよね?
森に棲んでいるのは魔獣だけじゃないでしょ。動物達だって精霊だって住んでるじゃない。
しかも森が無くなれば魔物が消えるの?
むしろ住処が無くなって町中にも出てくるんじゃないの?
『我らが警告しても あの聖女は聞く耳をもたぬのだ。』
森の伐採決めたの誰よ。どこの阿呆よ。
国王も止めようよ・・・。
『魔物が町に溢れたら・・・』
溢れたら?
『勇者様が現れて救ってくれるのだと。』
はい?
『その勇者様とやらが、自分の運命の相手なんだと。』
は?
まさかとは思うけど、思いたくはないけど
「言い出したのってその姫聖女?」
2人は無言で溜息を付いた。
なるほど、建前って言ったもんね。本命はそっちか。
夢見がちって言うか 脳内お花畑でしょ・・・。
だいたい魔物が溢れたからって勇者が現れるとは限らないでしょうに。
もし現れたとしても、勇者が姫聖女を好きになるかもわからないじゃない。
勇者がゴリマッチョで姫聖女の好みじゃなかったらどうするんだろう?
まあ知ったこっちゃないけどさ。
と言うかね、私にどうしろと?
物語に出てくるような特別な聖女の力とかないわよ?
癒しの力とか魔物撃退する力とか なーんもないわよ?
しかもその武の国を助ける理由が私にはないわよ?
まして脳内お花畑とは関わり合いたくもない。
『助けて欲しいのは 我ら精霊をだ。
森が無くなれば我ら森に住まう精霊の居場所は無くなりいずれ消えてしまう。』
消える・・・?
人間の身勝手で精霊が消える・・・?
向こうでも人間の自然破壊や乱獲により絶滅した種は多かったよね。
今も絶滅危惧種が増え続けていたはずだよね。
こっちでは精霊が被害にあうの?・・・
まって、森に棲んでた動物達はどうなるの?
隣国の森とかに逃げれるのかな?
『動物達は・・・すでにおらぬよ。
皆隣国へ逃げ出したか、魔物へと変異してしまった。』
魔物へ変異?・・・
それは憎しみで?それとも悲しみで?
まあ私も大切な家族や家を奪われたら憎悪に駆られるだろうけど。
なんだろうな。
あの脳内お花畑の姫聖女のせいで 家族を失い住処を追われ・・・
憎しみか悲しみかは解らないけど魔物に変異してしまって自分の命まで失う。
なんかすごく切なくない?
『ロゼ』
ふわりとディーヴァに抱きしめられた。
『魔物に身を落とした物達の為に泣いてくれるのか?
このような話を聞かせてしまってすまない。』
あれ?私泣いてた?・・・
ほんとだ、泣いてるや私・・・。
泣いたって解決しないじゃない。泣くな私。
そう思うのに、涙は止まらなかった。
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