テオくん
一言で言えば 町はすごかった。
たぶん、首都って感じの大きな町だったんだと思う。
お店がズラッと並んでた所がメインストリートなのだろう。
向こうで私が住んでた町よりも賑わっていたのよ。
まあそりゃそうか、あの町いわゆる僻地だったもんね・・・。
食材の店から洋品店、雑貨屋にアクセサリー店。
農機具の店まであったんだけど、種や苗を売っているお店は見つからなかった・・・。
食材店の人に聞いたら、農家さんそれぞれが種から作っているそうだ。
なるほど・・・。
南瓜や茄子・キュウリなんかは売り物から種を取り出せるけど・・・。
芋類も飼ったのを種イモにすればなんとかなるけど・・・。
人参大根トマトは・・・植えなおして花まで育てて種の採取?・・・
トマトの種ってどうするの?・・・
人参と大根は試したことがあるけど。収穫忘れてた訳じゃないよ?・・・
それとも諦めて葉物野菜のように買う事にしようかしら・・・。
うーん・・・
つんつん
ちょっと待って、今考えてるのよ。
つんつんっ
もぉ虎徹、待っててば。
と下を見れば虎徹じゃなかった・・・。あれ?
可愛い男の子、5歳くらい?
『お姉ちゃんどうしたの? お腹痛いの? 大丈夫?』
「あ、大丈夫。心配してくれたのね。ありがとう。
ちょっと考え事してたの。』
『そうなんだ。何を考えてたの?』
「うん、野菜をね、育ててみようと思ったんだけど種をどうしようかなって。」
『そっかあ。僕も悩んでたんだ。同じだね。』
「君も野菜の種を探しているの?」
『ううん、僕は種じゃなくて。どうしたら野菜が元気になるかなって。』
5歳児と野菜相談する私ってどうなのこれ・・・。
でも5歳で畑仕事してるのかな、こっちの子は逞しいねー。
『テオ、何してるの。お姉さんの邪魔したら駄目よ。』
『あ、お母さん!』
テオくんて言うのか。あの人がお母さんなのね。若いなあ。
ペコッと頭を下げられたので私も下げた。
『こんにちは。テオが邪魔したみたいでごめんなさいね。』
「こんにちは。いえ、相談に乗ってもらってたんです。」
『お姉ちゃん、野菜の種がなくて困ってるんだって。』
『あら・・・。』
「庭に小さな畑を作って育てようと思ったんですけど、種も苗も売って居なくて。
そうしようかなと考えていたらテオくんが声を掛けてくれたんです。」
『野菜作りは初めて? 種用のを残しておかなかったの?』
やっぱり皆種用に残して自分で育ててるのかあ。
「昔はやってた事もあるんですけど、新しく引っ越してきたのでまたやってみようかと思ったんです。
あ、商売用じゃなくて自分で食べる分だけなんですけどね。」
『そう。この町では商売で売る農家以外は育てる人いないのよ。
だから種も苗も売っていないの。自分ですべて作るから。』
「なるほど、教えていただきありがとうございます。
じゃあ畑は諦めます。農家さんの領分だもんね。」
そうだよね、そうやって役割分担してるのかな。
『お母さん、農家じゃないと作ったらだめなの?』
『駄目じゃないわよ? お花屋さんじゃなくても庭に花も植えてるでしょ?』
『じゃあ余ってる苗はあげたらだめなの?』
余ってる苗?!
『お母さんもね、自分が食べる用に少しだけ育てたいなら苗を上げてもいいかなと思ったのよ?
でもねぇ・・・。うちの苗は元気がないから育たないかもしれないじゃない。』
元気がないのかあ。 だからテオくんが心配してたのね。
「あの・・・」
『ああ、ごめんなさい。
父が急に亡くなってしまって、私が畑仕事を引き継ぐことになったんだけど。
苗が元気なくて・・・。
やだ、ごめんなさい。こんな話をして。
そうね、悩んでも仕方がないわね。
少し元気がないから無事育つかは解らないけど
それでもよかったら余っている苗持って行く?』
「え?いいんですか? ご迷惑じゃ?」
『いいのよ。 ここから少し離れた場所に農園があるのだけど、時間は大丈夫かしら?』
「はい! ありがとうございます。」
『よかったね、お姉ちゃん。』
「うん、テオくんありがとう。」
テオくんのお母さんはラダさん、23歳。若いなぁ。
お父さんが無くなってからはお母さんと従業員さんとの5人で頑張っているそうだ。
うわああああ、凄い! 広い! この広さを5人でやってるの?!
『精霊さんがね、時々手伝ってくれるの!』
「そっかぁ。精霊と仲良しなんだね。」
『うん。おじぃちゃんがね。言葉は解らなくても気持ちは通じるんだって言ってたから!』
「うんうん。そうだね。」
おじいさん、いい人だったんだろうなぁ。
畑の作物に隠れて 何人か居るもんねぇ。 見えてるけど・・・。
隠れてるつもりだろうから、気付かないふりしとこうかな。ふふっ
でも・・・
精霊も居るのになんで苗が元気ないんだろう?
「テオくん、ここの作物は元気だよね?
元気がないのはどれだろう?」
『こっち!キュウリが植えてあるんだけど元気がないんだ。』
キュウリ・・・。育てやすいと思うんだけどなあ。
あれ?・・・
タイム・ミント・ローズマリー・・・
近くにハーブが生えてる・・・。 これ相性悪いやつじゃん・・・。
もしかして育苗たってる場所にもハーブがあったり?・・・
「もしかして育苗場所の近くにもこのハーブって生えてたりします?」
『生えてるかも・・・。もしかしてそれが原因ですか?』
「だと思います。 作物同士で相性の良い物悪い物があるのはご存じですか?」
『はい、父から教わりました。』
「ハーブの中にも作物と相性が悪い物もあるんですよ。」
『そうなんですか?! 料理にも使うしと思って放置してました・・・。』
「ハーブは根が強くて増えやすいので、根止めの板でハーブの場所だけ囲うとよいですよぉ。
畑と離れた場所の方がよいですね。」
『そっか、だから父はハーブを庭に植えていたのね。』
「ハーブの生命力は強いです。葉が伸びるのも早いですよ。
だからどんどん収穫しちゃって使い切れないのは乾燥させておくとよいですよぉ。」
『乾燥・・・。もしかして父が残しておいたのって・・・』
「乾燥させてあったんですか? それならきっとお茶にしたり料理に使ったりしてたんでしょうね。」
『あぁぁぁ、使い忘れて枯らしたのだと思って捨てちゃったぁぁぁ・・・。』
なるほど?・・・この世界ではフレッシュハーブの方が一般的なのかな?
『もぉお父さんそれも教えておいてよぉー!』
ふふっ、それっておじいさんからの宿題だったんじゃないかな?
自分で考えて工夫してごらんって。
あら? 小さな精霊がこっちにやってくる。どうしたんだろう?
『おじじはラダなら大丈夫。諦めないで頑張れる。って言ってた。』
そっか、やっぱり。
おじいさんは全部を教えるんじゃなくて自分なりに頑張れって
試行錯誤して乗り越えろって言いたかったのかな。
『おじじはこの畑が好きだった。農園が好きだった。
おじじはラダもテオも好きで心配してた。
おじじは僕らの声が聞こえなくてもいつも話かけてくれてた。
だから僕達、こっそり見守ってコッソリ手伝う。』
そっかそっか。君達は優しいね。でもコッソリにはなってないんじゃないかな。
テオくんは気付いてたし。
『テオおやつくれる。 一緒に遊んでくれる。』
そっか、テオくんも優しいんだよね。だから精霊とも仲良しなんだね。
ラダさんとテオくんに伝えてもいいかなぁ?
『いいけど、隠れるまで待って。恥ずかしい。』
ぶっ・・・ そっか、恥ずかしいのかぁ。恥ずかしいのは仕方がないよね。
この照屋さんめ、可愛いじゃないか。
精霊が隠れるのを待って、ラダさんとテオくんに
内緒なんだけどね
と精霊の言葉を伝えてあげた。
ラダさんは泣きそうになって お父さん と呟いていた。
テオくんは凄く嬉しそうに笑って精霊に一直線だった。
ほらね、やっぱり隠れられてないじゃない。
その後は苗を少し分けて貰って次の目的地牧場へ向かった。
二人は私が聖女だったと驚いてたけど、内緒だからね。と念を押しておいた。
さあ牧場よ!牛さんよ!牛乳よ!