第十二話 不幸と嘘が大好きな悪魔
チュンチュン、チュン。小鳥の囀る音がする。
もう朝か……志乃の姿は無い。既に仕事へ出かけたようだ。いつもなら必ず俺のことを起こすが、今日は休むことを伝えているから気を利かせてくれたのだろう。
「クマー。」
……。
「クマー?」
……。
クマが言っていた通りもう話せないようだ。一応家中探してみたがクマの姿は見えなかった。
さて、今日何をするか。何事も起きないとは思っているが念には念を。志乃の仕事終わりには迎えに行った方がいいだろうな。
そういえば電球を変えておいてくれと頼まれていたな……。時間もある事だしやってしまうか。
今日はいい天気だ。心配事など吹き飛んでしまいそうなほど雲一つない空。
こんなところにクローバーなんてあったのか。
足元にあるクローバーに目が止まる。四葉のクローバーをせっかくだし探して……ズキッ。頭が痛む。
拾うのは止めておくか。
過ぎ去った彼の後には一本の葉がないクローバーが生えていた。
電球…電球……。あ、これだな。
メモしてあった大きさの電球を手に取り確認する。間違いないようだ。
「おめでとうございまーす!!お客様が100万人目の商品を買われた記念すべき方です!!」
「……はぁ。」
普通来店した時にやるんじゃないのか?とは思ったが少し変わっている店なのだろう。貰えるものは貰っておく。
店員から記念のティッシュ等のささやかな景品と、次回以降使えるこの店限定の商品券五万円分を受け取り店を出る。
この商品券に書かれたキャラどこかで見たような?
家につき電球を交換した後ベッドへダイブする。疲れたし少し休憩するか……ん?
なんだか枕が固い、下に物があるみたいだ。これは……?
出てきたのは携帯電話だった。
そういえばクマが今日起きた時には些細なものを返すと言っていたな。年号は後で確かめるとして、もう一つはやはり携帯電話だったのか?あいつは違うと断言していたが、、。
とりあえず中を確認しようと電源ボタンを長押ししてみるが付く気配は無い。
充電切れかと思い三十分程充電してみるがやはり付くことは無かった。
壊れているのか?無くす前に修理に出していたから直っているとは思うのだが……。一応店に連絡してみるか。
「もしもし?」
「お電話ありがとうございます。携帯ショップ○○です。」
「以前修理してもらった携帯が直っていないようでして……。」
「お客様のお名前を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
「南です。南浩史という名で一年程前に修理したのですが……。」
「少々お待ちください。……お調べ致しましたが見つかりませんでした。携帯の修理でしたら店頭へお持ち頂いた方が状態もすぐわかると思います。」
「あ、そうですか。えーと16時に予約してもいいですか?」
「16時、16時……はい!空いておりますので予約受付させて頂きます。ご来店お待ちしております。」
「よろしくお願いします。」
とりあえず16時までは休憩しよう。
前回予約したのが17時なのは覚えていた。あの事故を少しでも忘れるために同じ行動はなるべく避けるべきだが、携帯の中身は気になる。
今の携帯電話は事故の起きた時とは別の柄にしたはずだが、見つかったものは今と同じ柄だから尚更だ。
そうだ、年号を確認しとかないとな。確か昨日のうちにカレンダーをすぐ分かるところに用意して……あれ?
カレンダーが無い。それどころか家の中に年号が分かるものがない。
携帯のカレンダーはまだ○○年と書かれているし……。クマが嫌がらせで持っていったのか?
バタバタしている間に時間は15時半になっていた。少し早いけど店へ行くか。
「いらっしゃいませー。」
「予約していた南です。少し早いけど大丈夫ですか?」
「丁度前の時間のお客様が終わりましたので大丈夫です。こちらへどうぞ。」
「この携帯なんだけど……直りますかね?」
「接触不良のようですね。十、二十分程お時間頂ければすぐに直るかと。」
「よかった……。それじゃあお願いします。」
「かしこまりました。お席でお待ち頂くか、店内をご覧になってお待ちください。」
クマが嫌がらせで壊したのかと思ったがそうではないのか。単純に長い間放置してしまったからなのか?
「○○年〜」
ふとテレビを見てしまう。今アナウンサーは何と言っていた?
「昨年2012年は激動の年でしたね〜。」
おお!年数が聞こえる!昨年2012年ということは今年は2013年か。……2013年?
「南様〜お待たせ致しました。」
返ってきた携帯電話を開くと日記と書かれたフォルダがあった。
……俺が日記を書き始めたのはあの事故があってからだ。この日記とは一体誰が書いたものなんだ?
恐る恐る中身を覗いてみる。
7月29日(日)
今日は志乃と海でBBQ。今年のリクエストはチャラい漁師。なんだよそれ!!って感じだよな。
来年もまた来れるといいな。いや絶対来ような!
8月19日(日)
今日は志乃とプールへ行った。乗り物酔いが酷い俺もウォータースライダーは平気だった。
帰り道気お互いにクイズを出したが外れてしまった。
9月22日(日)
今日は志乃と月見をした。買い出しの時買いすぎていたお菓子類は案の定残ってしまい、これからコツコツ食べていくのだろう。
やっぱり俺の一番大切な人は志乃だと再確認できた。志乃の気持ちも。
なんだよ……これ。
10月31日(水)
今日はハロウィン。志乃はプリン星人、俺は伯爵のコスプレをした。近所の子供達から水鉄砲で水をかけられてビショビショになった。来年は濡れてもいいように包帯男にでもするか。
志乃は何をしてくれるのだろう。
11月15日(木)
今日は志乃の誕生日。大きなクマのぬいぐるみをあげたらとても喜んでいた。今年から命令権を一つ使えるらしい。
「今日のことを絶対忘れないように」と頭をなでなでされた。
こんなの忘れたくても忘れられないな。
俺の誕生日には何を命令しようか今から楽しみだ。
12月30日(月)
クリスマス。いつもは29日にクリスマスだが今年は新たな取り組みらしい。プレゼントにはパズルをあげた。完成が楽しみだ。来年も楽しく過ごそうな志乃。
所々俺が書いたものとは違うが……いや文章の内容からしてこれも俺が書いたものなのだろう。書いた記憶は全くない。
1月1日(火)
明けましておめでとう。俺も志乃も何事もなく年を越せてよかった。ゲームに負けた志乃が今年も泣きそうになっていたな。来年はどんなゲームにしようか今から楽しみだ。
2月3日(日)
今日は節分。志乃と楽しく?豆まきをした後初めてお金をばらまいたことを伝えてみた。とても驚いてくれて仕掛けた甲斐があったというものだ。
来年はどんな仕掛けをしようか今から考えておかないとな。
3月23日(土)
今日は珍しく一人でテレビを見た。志乃と食べたピッツァはとても美味しかった。テレビで言っていた通りピッツァと言うとお洒落な感じがしてとてもいいな。志乃にも教えておこう。
ピロン。メールが届いたようだが今はそれどころではない。
何が起きているのか整理するんだ……。
この日記は?書いている日付と曜日が今まで書いてきたものと同じだから……。きっと同じ年の日記なのだろう。
じゃあ誰が書いている?俺の書いている文とほぼ同じなのだから俺が書いているのだろう。
さっきのテレビで言っていた昨年が2012年……。
他に何か引っかかることは無かったか?
無くなっていた携帯電話
失った些細なものの一つは年数の認識能力
お互いに欲しい傘の色がわかる
プールに行った時楽しさの評価点が当たる
死体の識別番号
切れた電球
……まさか!?
てっきり事故から時が進んでいると思っていたが、繰り返しているのか?
志乃が事故にあったのは2013年5月13日。つまり今日になる。
これまで過ごしてきた一年はテレビの情報で2012年だとわかった。
決定的だったのは電球が三月に切れたことだろう。変えて一年もせずにまた切れるとは今考えたらおかしい。
だが、まるで新しい年が来たかのように俺には2012年の記憶が残っていない。ということは失ったものの一つは一年間の記憶?
いや、仕事や人間関係で困ったことは無かった。普通一年も記憶が無かったらおかしな部分が出てくるはずだ。
ということはもっと部分的な……志乃の考えていることがわかる、志乃は俺の考えていることがわかる……。
そうか?!わかるのではなく一度経験したことがある……?!それなら辻褄が合う。
つまり俺が失ったものは志乃との一年間の思い出か。
これが一番大切なもの……?いや志乃より大切なものは俺には無いから、これは恐らく些細なものの二つ目だろう。
あとは死体の識別番号の数字が変わっていたのが気になるな……。クマは気にするなと言っていたがあれには意味が?
なぜ一年時を戻したんだ?蘇生したならそのまま時を進めてくれればいいはずなのに……。
初日で364、、あの時に233……。
数字が減っている。……カウントダウンか?識別するだけなら番号は普通変わらない気がする。コロコロ変わっていては誰がどうなるか見分けがつかないだろう。
カウントダウンだとすると0になるのは……今日だ。何かが起こる?背中に悪寒が走る。
クマは何故一年も一緒にいたんだ?
不幸が好きなやつの二番目に好きなことが人助け?
あ……ああ……あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
全てを理解した。俺がここにいるとまずい。早く移動しないと!!時間っ!時間は?!
18時。
あまりにも考えている時間が長すぎた。
俺が移動できないのならせめて志乃に伝えなくては。ここに来てはいけないと。
携帯を開くと一通のメールが届いている。
「今日近くの携帯ショップにいる?仕事中入るの見えた気がして……仕事終わったら私も行くねー!」
だめだ!来ては行けない!電話をかけても繋がらない。くそ!どうしたら……。
店の外から合図を送れば引き返すかもしれない!
店を出るとちょうどこっちへ走ってくる彼女が見えた。
手を振りながら大声で叫ぶ。
「志乃ー!!!!!来るな!!!!!!」
「あ、いたいたー!あのね……」
志乃に俺の声は届いていない。
「志乃ー!!!!!!」
「わ……」
あの時と同じ言葉を言ってあの時と同じように志乃は目の前から消えた。
2013年5月13日 18時8分 南志乃は死んだ。
「君の一番大切なものは確かに貰ったよ。」
それからのことはよく覚えていない。
悲しみ、怒り、自分を責め、泣いて泣いて泣き疲れ枯れた頃ふと思い出す。
志乃は最後に何か言いかけていた。何を言おうとしてたのだろう?
もちろん答えはわからない。でもあれが最後の言葉。どうしても知りたい……。
生きて帰ってきてくれるのが一番だがそれはもう叶わない。だから声だけでも。最後の一言だけでも、それが無理なら今までの感謝だけでも伝えさせて欲しい。
祈っても願いは届かなかった。神が来るわけでも、ここから異世界へ飛ばされることもなかった。
「奥さん死んじゃったねー。」
ケタケタと笑いながら話しかけてくるやつがいる。
「僕は人間の不幸と嘘をつく事が大好きな悪魔。悪魔のクマさ。あ、動物のクマじゃないよ?名前がクマなのさ。」
そう言ってそのクマは一つの提案をしてきた。
「僕は君から沢山の不幸を貰った。大満足さ!このまま帰ってもいいんだけどね。僕の二番目に好きなことは人助けなのさ。だから君のこと、助けてあげようか?」
俺はその悪魔と……。
ここまで読んで頂きありがとうございました!結末は予想通りだったでしょうか?
本編はここで終了となりますが、番外編を書くため次回で完結とさせていただきます。
番外編は読んでも読まなくてもエンディングは変わりませんが気持ちは変わるかもしれません。
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番外編が終わり新作の案が完成次第新作投稿の予定です。過去作品も続きを執筆中ですので、よろしければ作者ページから読んでみてください。




