第十一話 別れ
次回最終回予定です。番外編として1.2話書くかもしれませんが、本編は最後になりますのでどうなるか予想してからご覧頂くとより楽しめます。
「私達別れましょう?」
彼女の口から出た言葉に俺は耳を疑った。
「い、今なんて言ったの?」
「私達別れましょう?」
先程と何一つ変わらないトーン。あぁ…これは真剣だ。
「そこに書いて欲しいもの置いてあるから。」
そう言い残し彼女は家を出ていった。
テーブルの上に置いてあるのは○○市役所と書かれた封筒。もちろん俺達が住んでいる市のものだ。
「どうしてこんなことに……。」
一人声を漏らしても返事はない。一度状況を整理するためにも、原因かもしれない出来事を思い出して見よう。
最近喧嘩したことと言えば……あれか?
「浩史ー。」
「どしたー?」
「冷蔵庫にあったプリンしらない?」
「プリン……?」
「楽しみに取っておいたんだけど見当たらなくって……。」
「プリン……プリン……。あっ。昨日の夜デザートに食べちゃったかも。」
「食べたの?」
「お、おう。何か代わりにすぐ買ってくるよ。」
「私のプリン……。私の……。」
「な、泣くなって、、。」
「うわーん!!!!」
あの日は一日口聞いてくれなかったんだよな……。でも次の日からは忘れたのかいつも通りだったし。これは違うな。
あとは……あっ。あれかもしれない……。
「頼んでた買い物行ってきてくれた?」
「買い物?」
「仕事帰りに買ってきてってメールしてたんだけど。」
恐る恐るメールを確認すると確かに買い物してきて!と題名に書かれたメールがあった。
「……。」
「今日はカレーが食べたかったなぁ。」
「今から買ってきます!本当にごめんなさい。」
その後大慌てで買い物してカレー作ったんだよな……。でも食べた志乃の顔は幸せそうだったしこれも違うか。
あとは……あれか?
「おはよー!」
「うーん。」
「おはよー!」
「う、うーん。」
「おはよー!」
「あと三十分……。」
「今日は出かける約束の日だよ!」
「あと三十分……。」
「三十分経ったらちゃんと起きるって約束できる?」
「あと三十分……。」
「仕方ないなぁ。三十分経ったら起こしに来るね。」
「うん……。」
〜三十分後〜
「おはよー!」
「うーん。」
「おはよー!」
「うーん……。」
「おはよー!」
「あと三十分……。」
「もう経ったよ!ほら起きて!」
「あと三十分……。」
「……。」
「あと三十分……。」
「もういい!私一人で出かけてくる!!」
結局俺が起きたのは志乃が帰ってきてからだったんだよな、、。めちゃくちゃ怒ってたしこれが原因かもしれない。
とりあえず志乃を追いかけてこの事を謝ろう。
ガチャッ。さて、志乃はどっちに向かったんだろう……え?
ドアを開けた先に彼女は立っていた。
「志乃……よかった。俺謝りたいことがあって……。」
「書いてくれたの?」
「いや、その前に話を聞いてくれ!」
「……なに?」
「この前の休み俺が全然起きなかったのは悪かった!!もう二度と約束は破らないようにするから……。どうか機嫌を治してほしい!俺は志乃がいなきゃ生きていけないんだ!!頼む!別れましょうなんて悲しいこと言わないでくれ!!!!」
「浩史……。」
「この通りだ!」
頭を地面にゴリゴリ擦り付ける。
「ねえ浩史。」
「本当にすまなかった!」
「なんの話?」
「だから休みの日に……え?」
「私が怒ってるのはこの前プリン食べられたからだよ?」
「そっち?!」
「ほんとにプンプンなんだからね!」
「……冷蔵庫に食べちゃったプリンと同じやつ1ケース買ってあるけど食べるか?」
「食べるー!二つ食べてもいいかな?」
「おう!好きなだけ食え食え!ところであの封筒の中身って……。」
「封筒?見てみたら?」
恐る恐る中身を確認すると……。
エイプリルフール!!と大きな文字で書かれていた。
「……。」
「プリン美味し〜。」
「冷や汗止まらなかったよ、、。」
「私が浩史と別れる訳ないじゃーん!これからもよろしくね!」
「……ああ。本当に良かった。」
ゴミ箱には濡れた離婚届けが捨てられていた。
4月1日(月)
今日はエイプリルフールだったらしい。本当に焦ったが嘘で良かった。これからも仲良くしような。
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「やあ。」
「クマから話しかけれるのはなんだか久しぶりだな。」
「僕もいろいろ忙しいからねー。君に声をかけたのは他でもない。明日で契約が終わるからね。」
「もう一年だな……。」
「明日奥さんに何事も無ければ無事魂が体に定着したことになるからね。まあ十中八九大丈夫だよー。」
「良かった……。でも油断はできないな。最後までよろしく頼む。」
「僕もそうしたいのは山々なんだけどね……。僕と話せるのは今日までなんだよ。君に見えるのも今日まで。」
「なんで?!そんなこと言ってなかったよな?」
「うっかり忘れててね。まあ見えないだけで僕も見守ってるから何かあれば助けに入るよ。」
「そうか……それならいいが、、。」
「僕に聞きたいことがあったら今日聞いちゃってね。答えられることは答えてから消えるつもりだからさ。」
「助かる……。そうだな、結局失ったものは何だったんだ?明日が終われば戻ってくるのか?」
「何を失ったのかは今日教えられないよ。でも僕は気前がいいからね、明日起きた時に些細なもの二つは返してあげる。一番大切なものも明日が終わる時には返してあげるよ。」
「そうか。兎にも角にも明日を乗り切ればいいんだな。」
「これだけ長い間一緒にいたからね、僕も君達には幸せになって欲しい。」
「クマ……。」
「明日起きたら僕はいないけど、プレゼントを置いていくから元気を出して欲しい。」
「少し寂しくはなるが大丈夫だ。クマがいなくても幸せに暮らすよ。今まで本当にありがとな。」
「僕の方こそ楽しい一年だったよ。明日頑張ってね。」
「ああ。明日をなんとしても乗り越える。あの悪夢から目覚める時が来たんだ。」
トントントン……。階段を上がってくる音が聞こえる。
「奥さんが来たね。それじゃあそろそろ僕は行くよ。陰ながら見守っているからね。」
「ありがとう。またどこかで。」
日付が変わると同時にクマは消えてしまった。あとは明日を乗り切るだけ。志乃の命日となった5月13日。
「誰かと話してなかった?」
「いや独り言だよ。明日も仕事だろ?早く寝よう。」
「浩史はなんで有給休暇取ったの?何かあったっけ?」
「単純に結構貯まってたから消化しとこうと思っただけだよ。何があっても俺が守るから。」
「……?」
「なんでもない。さあ寝よう。」
「うん。おやすみ。」
お願い……。お願いだから……。




