第一話 悪魔のクマ
お久しぶりです。これからの予定は活動報告に書いてありますので気になる方はご覧下さい。
「何時に取りに行くんだっけ?」
「夕方だよ。えーと17時だね。」
「じゃあ仕事終わったらそっちに行くからご飯でも食べようよ!」
「わかったー。受け取ったら店の中で待ってるから連絡してー。」
「はーい!」
いつも通りの朝。仕事が休みの俺は今日修理に出していた携帯電話を取りに行く。
仕事へ行く妻を見送った後、夕方まで何をしようかと思いながらトイレで用を足す。
あ、2階の電球が切れてたんだった。
かれこれ付かなくなってから2ヶ月は経つ。面倒くさがりな俺はとにかく後回しにする事が多かった。
やることも決まり早速着替えて外へ出る。今日はいい天気だ。
こんなところにクローバーなんてあったのか。
足元にあるクローバーに目が止まる。見つけるとついつい四つ葉がないか探してしまうのが大抵の人間だろう。この男も例外ではない。
あった。四つ葉のクローバー。
幸せを運ぶと言われる四つ葉のクローバー。きっと今日はいい事があるだろう。
道草を食いながらも目的地には到着した。近くの家電量販店である。
電球…電球……。あ、これだな。
メモしてあった大きさの電球を手に取り確認する。間違いないようだ。
レジで会計を済ませる時、早速ご利益があった。
「おめでとうございまーす!!お客様が100万人目の商品を買われたお客様です!!」
普通来店とかでやるんじゃないのか?とは思ったが少し変わっている店なのだろう。貰えるものは貰っておく。
店員から記念のティッシュ等のささやかな景品と、次回以降使えるこの店限定の商品券五万円分を受け取り店を出る。
これはあいつも喜ぶだろう。
妻の笑った顔を想像しながら歩き出した。
家に着き電球を交換した後、特にやることもなかった俺は映画を見ることにした。最近流行りの異世界転生系アニメの劇場版である。
実際こんなことは起きないんだけどな。でもどうせ次の人生を送るなら異世界へ行ってみたいものだ。……あっ。
時計の針は16時半を指していた。映画に夢中になっていて気が付かなかった。店へそろそろ行かないと。
「いらっしゃいませー。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あー、えーと携帯を修理に出してて今日取りに来る予約した南です。」
「南様…南様……一応下のお名前も伺って宜しいですか?」
「浩史です。」
「南浩史様……17時からのご予約でお間違いありませんか?」
「あ、そうですー。」
「お待ちしておりました。修理は終わっておりますのであちらでお待ちください。」
案内された場所で会計を済ませ携帯電話を受け取る。
コンクリートの上に落として画面バキバキにした時はもうダメかと思った。きっと職人さんが頑張ってくれたのだろう。
修理に出している間はと言うと、店からスマートフォンを貸し出して貰っていた。
使ってて思うことだが機能が多すぎて俺には向いていない。やはりこのガラケーがしっくりくる。
借りていたスマートフォンを返す前に妻へメールを送る。
携帯直ったよ。もう店にこれは返しちゃうから、連絡する時は前の携帯に連絡してね。……これで大丈夫だろ。
時刻は18時。思ったより手続きに時間がかかってしまった。
幸い妻も仕事が長引いたらしくまだメールは来ない。待たせることはなくてほっとした。
ピロン。いいタイミングだ。
ごめん!今終わった!ここから5分だしすぐ着くから待ってて!
わかったよー。気をつけておいで。
店内の新作スマートフォンを眺めている間に5分はあっという間に過ぎていった。
……そろそろかな。店を出ると丁度こっちへ走ってくる彼女が見えた。
「あ、いたいたー!あのね……。わ」
グシャッッッッ!!!!!
何かを言いかけた妻は俺の視界から姿を消した。
「はっ?え?志乃……?」
彼女を呼んでも返事はない。目に入る景色は……赤。赤、赤、赤赤赤赤。そして大きなトラック。
嗅覚が本来の仕事を再開した時俺は理解した。
志乃は俺の目の前でトラックに轢かれた。
そこからはよく覚えていない。叫んだのか泣いたのか怒ったのか。それすらも曖昧だった。
遠くから聞こえるサイレンの音。沢山の人、人、人。
「……か?……か?」
何かを聞かれている……だが聞こえない。
ポケットにいれた四つ葉のクローバーは地面に落ち、赤く染まっていた。
2013年 5月13日 18時8分 南志乃は死んだ。
落ち着きを取り戻し涙が溢れたのは葬式の後。
なぁ…どうして?どうして志乃なんだよ……。俺を、俺じゃだめだったのか?なぁ!!!
怒っても泣いても返事はない。いるのは男一人。
泣いて泣いて泣き疲れ涙が枯れた頃ふと思い出す。
志乃は最後に何か言いかけてた。何を言おうとしてたんだろう?
もちろん答えはわからない。でもあれが最後の言葉。どうしても知りたい…。
もちろん生きて帰ってきてくれるのが一番だ。でもそれが叶わないことはもうわかる。だから、声だけでも。最後の一言だけでも。それが無理なら今までの感謝だけでも伝えさせて欲しい。
祈っても願いは届かなかった。神が来るわけでも、ここから異世界へ飛ばされることもなかった。
「奥さん死んじゃったねー。」
ケタケタと笑いながら話しかけてくるやつがいる。
「誰だか知らないが志乃を笑うのは許されない。殺されても文句言うなよ?」
後ろからはそれでも笑い声が止まらない、
「いい加減に……!」
振り向いた俺はその不思議な生き物を見て唖然とした。どう見てもこの世のものではない。
「やっとこっち見たね。君は今世界の誰よりも不幸だ。」
「そんな不幸なやつを笑って面白いのか?」
「面白い。僕は人間の不幸と嘘をつく事が大好きな悪魔。悪魔のクマさ。あ、動物のクマじゃないよ?名前がクマなのさ。」
「クマじゃないことくらい見ればわかる。」
クマよりもまだネコの方が似ているくらいだ。
「僕は君から沢山の不幸を貰った。大満足さ!このまま帰ってもいいんだけどね。僕の二番目に好きなことは人助けなのさ。だから君のこと、助けてあげようか?」
「不幸好きなお前が人助けだと?ふざけるのもいい加減にしろよ!俺は一番大切な人を失った…。そんな俺をどうやって助けるって?あぁ?教えてみろよ!!」
「生き返らせようか?」
「……は?」
「だーかーら。奥さん生き返らせようか?」
何を言ってるんだこいつは…。志乃は死んだ。人は死んだら生き返らない。……あ、こいつは嘘をつく事が大好きな悪魔。そういうことか。
「……嘘か。」
「いや?嘘をつく事が大好きな悪魔なのは否定しないけど、生き返らせることはできるよ?ただし、それなりに対価は頂いちゃうけどねー。」
「お前の話が本当ならなんだってやるよ。妻を……志乃を生き返らせることができるなら俺の命だってくれてやるよ!」
「君の命はいらないかなー。欲しいのは君の一番大切なもの。後は些細なもの二つさ。合計三つ。どうかな?」
「一番大切なもの……志乃はもういない。そんな俺に一番大切なものがあるとでも?」
「うん。あるよ。だから大丈夫。君は奥さんを生き返らせるか、それともやめるか選ぶだけ。やめた場合僕は元いた場所へ帰るよ。」
「じゃあ生き返らせてくれ。」
「即答だね。後悔しない?僕は優しい悪魔だからもう一回確認しちゃうよ?」
「する訳ない。志乃に会えるなら、志乃とまた暮らせるなら俺は絶対に後悔しない。」
「……おっけー。じゃあちょっと目を閉じててね。僕が合図するまで開けちゃだめだよー?開けたら蘇生できなくなっちゃうからね。」
「わかった。」
クマに言われ長い間目を閉じた。それから時間が経っても経っても合図は来ず、いつの間にか意識を失っていた、、。
「もういいよ。」
「……もういいよ。」
「…………もういいってば!」
クマの声がする。
「やっと目が覚めたかー。お疲れだったみたいだね。無事蘇生は成功!良かったねー!」
「本当か?!志乃は?!」
「落ち着いて。ちゃんと隣にいるでしょ?」
横にはむにゃむにゃと寝言を言いながら気持ち良さそうに眠っている彼女がいた。
「良かった……。良かった、、。……ありがとな。」
「どういたしまして〜。奥さんが目覚める前にこれからの事を話しておくね。」
「これからの事?」
「僕は君から大切なものと些細なものを二つ貰った。これは約束通りだからいいね?」
「ああ。」
「そしてその三つのことは僕からは教えない。何を失ったか知りたければ自分で探してみるといいよ。」
「わかった。一つ質問していいか?」
「なんだい?」
「この志乃の頭の上に見える364って数字はなんだ?」
「あーそれは識別番号だね。」
「識別番号?」
「この人間は天国へ行くのか地獄へ行くのか判断するために死んだ時に番号が振られるんだ。」
「おい!じゃあ志乃はまだ死んで……」
「慌てない慌てない。蘇生されたばかりの人間はたまーに残っちゃうだけ。もう少ししたら消えるかな。……ほら。」
頭の上の数字が薄くなりやがて消えていった。
「よかった……。」
「他に聞きたいことはない……?まああったらいつでも僕は近くにいるから聞くといいよ。」
「お前他のやつに見られて平気なのか?」
「君にしか見えないよ。あとお前じゃなくてクマって呼んでよね。一年間は蘇生がちゃんと成功してるか見てないといけないからこれからよろしくねー。」
そう言って悪魔……クマは見えなくなった。呼ぶまでは姿を消すのだろうか。
「んー……おはよー。」
この声……。
「んー?だいじょーぶ?怖い夢でも見た?」
志乃だ。確かに志乃の声だ。
「今日も一日頑張ろうね。」
「……あぁ。」
枯れていたと思っていた涙が目からこぼれ落ちた。
「大丈夫?!本当に悪夢でも見たの?!」
「……そうだな。酷い悪夢だった。でももう大丈夫だ。君がいればそれでいい。」
「……?変なのー。ほら朝ごはん食べよ?」
またいつも通りの日常へ戻れるのがこんなにも嬉しいとは思わなかった。




