僕の幼馴染がエスパーな理由
今日の昼休み、クラスのイケメン――茂川くんが、彼女の作った弁当で舌鼓を打っていた。
正直言って羨ましい。茂川くんの彼女は美人、僕もあんな美人にあーんとかしてもらいたいものだ。
「いいなぁ……。僕も彼女にお弁当を作ってもらえたらなぁ」
何気ない独り言。誰に聞かせる訳でもなく、ただ1人自分の部屋で愚痴る。それが僕の日課だ。
僕――鷲津康孝に彼女はいない。だから嘆いたところで僕の願いは叶わない。だけど次の日――。
「ヤスくん、お弁当作ってきたの。ヤスくんに食べてほしいな」
幼馴染の上沢神無が僕のために、お弁当を作ってきてくれた。
彼女はいつもそうだ。愚痴を溢した次の日には、どういう訳か僕が望むことをしてくれる。
まるでエスパー。心の中を覗き込んでいるんじゃないかと思えるくらい、僕の気持ちを見透かしてくる。
「茂川くんは土曜日に彼女とデートか……。いいなぁ、僕も女の子とデートしてみたいよ」
こうして部屋で1人ぼやくと、また次の日には――。
「ヤスくん、親戚の人から水族館のチケット貰ったの。今度の土曜日一緒に行かない?」
長い付き合いの幼馴染だからこその阿吽の呼吸―――とも言えなくもないけど、流石に正確すぎるような……。
まあ、いいか。別に害がある訳でもないし、むしろ神無のおかけで僕は毎日が充実してる。
…………。
でもやっぱりちょっと気になる。
独り言を言うと、必ず幼馴染が願いを叶えてくれる。なら、彼女が叶えられないような望みを言ってみたらどうなるのか。
「ああ……神無のことが好きなんだけど、告白するのが恥ずかしいよ。神無の方から告白してくれたりしないかな? アハハハ、そんなことある訳ないよね」
つい僕は言ってしまった。もしかしたら次の日、神無が僕に告白してくれるのではないかと思って。
そして、案の定――。
「ヤスくん、あのね。私、ヤスくんのことがずっと好きだったの。だから私と付き合って下さい」
またしても僕の願いは叶った。
しかしどうやって、幼馴染は僕の気持ちを察しているのだろう?
彼女は僕の身振りや手振りで、僕が何を考えているのか分かると言っていたけれど、本当にそうなのだろうか?
――パタン
部屋で考え事をしていると、本棚の上に立て掛けていた写真立てが不意に倒れた。
「?」
立て直そうと写真立てに近づくと、写真立ての足の部分に黒いコードが伸びていることに気付く。
そして写真立ての裏の部分を見てみると、そこにはビニールテープで小さなマイクが張り付けられていた。
ああ……そういうことか。
神無は僕の心を読んでいたのではなく、僕の独り言を盗聴していた。
いつ盗聴器が仕掛けられたのかは分からない。でもそこまでして、願いを叶えてくれる幼馴染に僕は胸が熱くなった。
僕は意外と変わった女の子が好きなのかもしれない
最後まで読んでいただきありがとうございました。