第7話
「夜美川……?」
「思い出せないのは無理もないよ、私はそもそも、消滅するはずだったんだから。」
夜美川さんの連れられる形で、川辺を歩く。
「キミの、いや、キミの周り全体の意思に置いて、私はどうやら邪魔な存在だったらしいからね?」
話を聞いながら周囲を確認すると、石が勝手に積み上がっては勝手に崩れたりを繰り返す。
「あの、あの石はなんですか?」
「あぁ、その石は崩さない方がいい。」
「いくらキミが神性を持たない定形的な人間だったとしてもここは神域、下手に解釈を与えてしまえば鬼が出るか蛇が出るか、いや、むしろ鬼になると言った方がいいだろうね?」
足元で組み上がる石に意識を集中させながら避ける。
「話が逸れてしまったね、それで消えるはずだった私が何故ここにいるか、それも神様としてだったね。」
「まぁ、ただの偶然、元いた神様も名前に同じ漢字が含まれていた程度のほんの接点だけれど、世界自体が空いた穴を埋めるのには丁度よかったから私は消えずに済んだわけなんだ、大丈夫かい、着いてこれているかい?」
一瞬目を離した隙に繋がれていた手は離れ、距離も遠くなってしまう。
「あぁ、神様と聞いてつい心が離れちゃったみたいだね、ほら、ちゃんと手を握って。」
「その……」
「なんだい?」
「夜美川さんの前任者も、この神域で舟渡してたんですか?」
夜美川さんがクスリと口角を上げ、悪い笑みを浮かべる。
「いや、私の名前のせいでこんな神域で舟渡をしてるのさ。」
「夜美川 花蘭、この名前がこの神域で舟渡をするのにびったりな名前だったみたいだ……いや、むしろ、このポジションに収まるように名前を決められたのかもしれないね?」
川辺を進むと徐々に周囲が暗くなり、先程の川辺が対岸に現れる。
咲き乱れていた彼岸花も、ノイズのように乱れながら赤から青に色を反転させる。
「あれ、もしかして僕、このまま死ぬんですか……?」
「いいや、元同級生のよしみで、私としてはキミらか2人には幸せになって欲しくてね、ちょーっと手助けしてるだけさ?」
2人か。
さっきの話の通りだと、エイトとは同級生になったことは無いような気もするが、夜美川さんにとっては些細なことなのだろう。
そんなことを考えながら道を進むにつれて、周囲は完全に暗闇に飲まれてしまい、夜美川さんの背中以外の何も見えなくなる。
「さて、この先キミがどうしても苦しくなって、何かに負けてしまいそうな時は私を呼んでくれれば、きっと助けにはなると思うよ。」
夜美川さんがゆっくりと薄れ消えていく、いや、僕自身が暗闇に飲まれているのだろうか?
「大丈夫、ただの人間のキミなら、なんにだってなりたいものになれるよ。」
意識が溶けて撹拌される。
声を出そうにも空気を震わせるどころか、呼吸すらままならない。
「あと最後に、」
「江信には気をつけてね。」