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仮称「四季」  作者: 赤原 藤尾
開戦
16/19

第2章「承ー2010年5月」 3 雄介の到着

 三             雄介の到着


               一


 ロビーのソファに腰掛け、山崎と雄介の到着を待つ源太と遠藤。少し前に連絡があったのだろう、二人とも玄関の方へ視線を向けている。ヘッドライトの光がガラス扉に反射した瞬間、二人は同時に立ち上がった。


「来たな」


 外に出ると、照明に照らされた黒のマークXが静かに停まった。やはり、この手のホテルの玄関には黒いセダンがよく似合う。エンジンが止まり、助手席のドアが開くと、雄介が元気よく降りてきた。


「よく来たな、雄介」


 源太は完全に“おじいちゃんの顔”になっていた。雄介は上機嫌で大きく頷くと、源太と手をつないでホテルの中へ入っていく。少し遅れて運転席から山崎が降りてきた。トランクを開ける山崎。遠藤は係員へ部屋番号を伝え、荷物を運ぶよう指示する。


「お疲れさん」


遠藤が声をかける。少し酒が入っているのか、どこか柔らかい口調だ。


「もう飯は食ったのか?」

「ええ、言われたとおり、途中のファミレスで済ませてきました。

 もうこの時間ですからね」

「そうか、悪かったな」

「いえ、お腹空いてましたし……車、駐車場に回してきます」

「ああ、頼む。あ、これ、部屋の鍵……」

 

鍵を渡し、山崎が車に戻るのを見届けてから、遠藤もホテルの中へ戻った。

 


 中に入ると、源太と雄介が待っていた。


「山崎は?」

「ああ、地下の駐車場に車を止めに行った。

 部屋の鍵を渡しておいたから、直接行くだろう」

「そうか」


三人はエレベーターへ向かって歩き出す。


「沼田は呼ばなかったのか?」

「ああ、今日は洋子に捕まってるみたいでね。

 多分、買い物か何かに付き合わされてるんだろう。

『雄介なら山崎君一人で十分でしょ』って……」


遠藤が鼻で笑う。


「よほど沼田が気に入ったみたいだな。あの二人、デキてるのか?」

「多分()()だけど、時間の問題じゃないかな?

 完全にロックオンされてる感じ……」

「お気の毒に……」


二人は同時に念仏を唱える仕草をして笑った。エレベーターの扉が開く。


「洋子にしては珍しいな、これほどまでに男に積極的なのは……」


源太が雄介の手を握ったまま、遠藤に視線を向ける。


「確かにな……。ただ、何となく解るような気がする」

「何となく?」

「ああ。洋子は男に追いかけ回されるのが嫌なんだ。学生時代、キャンパスで苦労したらしい」

「モテすぎて?」

「ああ。大変だったそうだ。

 ただ、少なくとも沼田は洋子を追いかけていない。

 どっちかと言うと、その逆かな?」

「確かにそうだな」

「洋子は追いかけられるより、追いかけたいんだよ。

 ”惚れられる”より”惚れたい”んだろうな……」


遠藤は少しニヤけながら言った。エレベーターが目的の階に到着し、扉が開く。源太は雄介の手を引き、部屋へ向かって歩き出した。遠藤はその後ろをゆっくりと追いかける。


               二


 三人は部屋に入ると、まず荷物を置き、テレビをつけて着替えを済ませた。源太はすぐに釣り道具へ手を伸ばす。遠藤はソファに座り、ニュース番組を眺めていた。


「雄介、こっち来い」


ゲームに夢中だった雄介は電源を切り、源太のそばへ行く。よく見ると雄介の顔も真っ赤に日焼けしている。


「今から糸の結び方、教えてやる。

 これが出来ないと釣りどころじゃないからな」


老眼鏡をかけ、何度も教え込む源太。だが説明が下手なのか、なかなか進まない……


――和夫は雄介に”釣り”を教えていないのか?――


この時、遠藤は疑問を持った。普通に考えれば、あれほど釣りの得意な和夫が雄介に釣りを教えていないはずはない。だが見る限り、糸の結び方に関しては完全に初心者だ。和夫は雄介を釣りに連れて行かなかったのか?


――そう言えば遺品整理の時、

  雄介用のカメラは勿論、竿とかも一切無かったな――


それともう一つ……源太は最初から雄介が糸の結び方を知らない事を前提に教えていた……。と言う事はその事をあらかじめ知っていた事になる……どういう事なんだ?


 遠藤はその疑問を抱きながらも、ついに割って入り、結局、遠藤が教えることで雄介はすぐに覚えた。


「上手い。上手いな……」


源太は嬉しそうに褒めちぎる。雄介が結び方を完全にマスターしたのを確認すると、源太はタックルボックスから一つのルアーを取り出した。


「こいつはな……“ビッグバド”って言って、

 酒飲みのバスには目の無いルアーなんだ」


 手に取ったルアーは、バドワイザーの缶ラベルが印刷された愛嬌のある形。知らない人なら「こんなので釣れるはずがない」と思うだろう。雄介は当然のように笑って疑った。


「嘘じゃない。琵琶湖は酒飲みのバスが多いから明日は絶対釣れるよ」


雄介はまだ疑っているのか、遠藤の方を見た。


「本当さ。明日はこれでたっぷり釣れるよ」


遠藤の言葉に雄介は嬉しそうに包装を破り、興味深く触り始めた。


「ビッグバドを使うって事は、明日はトップウォーター?」


遠藤が源太に目を向ける。


「ああ、朝早いから今日は早く寝よう。

 トップウォーターの釣れ時は夜明け前後と決まっている」

「この時期、あまりトップのイメージ無いんだけど……」


遠藤がトボける。


「何言ってんだ、お前も素人だな。釣れるよ。

 ま、釣れなければ釣れないで、普段通り赤野井まで足を伸ばせば良い」


遠藤は黙ってニヤけながら頷いた。話が一段落すると源太は道具を片付け、雄介に声をかけた。


「雄介、じいちゃんと風呂に入るか?」


そう言って、風呂の準備を始めた……



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