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【100話記念】ナリは皆を訝しむ

永遠の時を過ごすナリ(3歳)の世界線です。

本編とは少し違うパラレルワールドでのお話をお楽しみください!

 最近、零の様子がおかしい。


「零ー、入るにゃー」


「うぇっ!?ちょ、ちょっと待てナリ!」


 そんな素っ頓狂な声を上げ、しばらく物音がしてから扉が開く。いつも一汗かいたみたいなスッキリした顔をしていた。


「で?何の用だ?」


「掃除機かけに来たにゃ。あのさ、毎回思うんだけど……何か私に隠してるのかにゃ?」


 零の後ろにあるパソコンをちらりと見た。毎回パソコンは電源が落ちている。そうやって覗くと、零は遮って「何も!」と叫んだ。


「何にもない訳ないと思うんだけど……」


 コンセントにプラグを差し込み、掃除機の電源を入れた。そこまでやると、零はいつも「俺がやるよ」と声をかける。零に掃除機を渡すと、彼は鼻歌交じりに掃除機をかけた。


「はい、終わり。ナリ、たまにはお前の部屋の奥もやっとけよ」


 掃除機をかけ終わった零が、プラグを抜いて返してきた。ボタンを押すとプラグが素早く中に収納されるので、中々掃除も楽しい。

 零が言っているのは、私の部屋の奥にある倉庫のことだ。埃が舞っているものの古い椅子しかないので、ほとんど私の日光浴スポットになっている。


「やっとくって。そうだ、美波と詩乃に連絡取れるかにゃ?中ヶ丘のショッピングモールに2人と行きたいなって思ってて……」


「い、いや……あの2人も忙しいから遊べないと思う……ぞ?」


 あからさまに目が泳いだのが、何とも怪しい。


「なんで2人が忙しいって零知ってんだにゃ」


「いや、この前聞いたし……」


「じゃあ参華は?」


「あいつは今日はバイトだ。遊べないってよ」


 参華は焼き鳥屋でバイトをしているらしい。実際に行ったことは無いが、遊びに行った陽斗曰く「酒が美味いからここに決めたんだろうね」とのことだ。


「じゃあ亥李と陽斗は?」


「亥李は今日は配信、陽斗は会社に行ってる。2人とも忙しいだろうな」


「じゃあ千里は?」


「千里は……宿題するって言ってたかな」


 それなら遊びに行っても問題は無さそうだが……犬に遊んでもらうのは腹が立つ。


「じゃあ零は?」


「俺か?俺は課題やらないと夏休みにならないんだ。悪いな。ほら、暇なら散歩でもしてこいよ」


 それは結局、今日遊んでくれる人は誰もいないということではないだろうか。私は1人、落胆のため息をついた。

 でも、なんだかとても怪しい。普通に忙しそうな参華と陽斗、亥李はともかく、詩乃と美波の理由は誤魔化されたように思える。それに零と千里に関しては今日じゃなくても大丈夫な用事だ。そもそも零がなんで全員分の今日のスケジュールを知っているのかが謎だ。今の態度も、私を追い出そうとしているようにも見える。


「零……なんか私に嘘ついてる?」


「え?そんな訳ねーだろ。ほら、散歩好きだって言ってただろ?行ってこいよ。今日は課題に集中したいんだ」


 零はそう言って、大学に行く時のリュックからプリントを取り出した。とても怪しいが、課題に集中したいのなら仕方ない。私は掃除機を持って部屋を出た。

 散歩か……そうだ。散歩っていう体で、少し調査してみよう。そうしたら、何かこの違和感の正体が掴めるかもしれない。

 そう思い、私は自分の部屋に戻った。最近買った新しいシャツワンピースを棚から取り出し、出かける支度を整え始めた。



 夏の暑さにもそろそろ慣れてきたが、今日は一段とまた暑かった。大手雑貨屋で秋ぐらいに気に入って買った白いスニーカーも、色褪せてきたのが今日は分かりやすい。もうほとんど1年使っているからだろう。


「きゃー!来ないでー!」


「いぇーい!今度はお前を鬼にしてやるー!」


 公園ではそんな暑さにも負けず、近所の小学生だろうか、何人かが鬼ごっこをしている。昔私もよくやったなあ、と懐かしくなった。


 その公園のすぐ近くにある、この家。表札には「虎前」の文字が堂々と書いてある。そう、千里の家だ。

 2階の窓を見ると、千里が窓際の机で勉強をしていた。これはチャンスと、被っていたキャスケット帽を被り直した。獣人族の姿から戻れなかった時に朝日に貰ったキャスケット帽だが、未だに返していない。催促されないからこれで大丈夫……と思いたいが、朝日のことだから不安しかない。


「さて、と……やるか」


 ボソリと呟き、近くの茂みに隠れた。そしていつものようにイメージを思い浮かべる。

 もう何回もやって慣れたものだが、最初にやった時はとても苦労した。初めて成功した時の感動と、零の驚いたような顔は今でも忘れられない。

 撫でやすいと美波に言われた額に、ピコピコと動く耳。白い口に、最近少し太ってきた白いお腹。手の先は靴下を履いているように白く、背中は肌触りの良い黒い毛並み。そして、細長いシルエットの尻尾。

 今だ。


「《異形》」


 私がそう呟くと、すぐに目線が低くなる。スキル発動の成功だ。私は私が思い描いた猫の姿になる。元々猫で転生してはいるのだが。

 そのまま、私は屋根を登り、千里のいる窓まで近付いた。どうせなら驚かしてやろうと、2階の屋根まで登り、足を軸にしてだらんとぶら下がった。ちょうど窓に腹が当たった。少しひんやりして気持ちいい。


「せーんりー!」


 人間の声で話しかけると、シャーペンを握っていた千里が顔を上げた。そして、私の方を見て口をあんぐりと開け、ペンを落とした。


「ね、猫!?」


 そろそろ足がきつくなってきた。ぷるぷると震える体を頑張って支えるが、もう限界だ。


「そうだにゃ!ちょっと聞きたいことが……にゃっ!?」


 ついに足が屋根から離れた。咄嗟に着地しても、足は少しじんじんするだけで痛くない。人間と比べて肉球がある分、怪我はしにくい。

 千里は呆れた様子で窓を開けた。夏の風と冷房の風が混じり合い、微妙な温度になっていた。


「び、びっくりしたにゃ……」

 

「また危ないことを……何しに来たのさ」


「いや、最近みんにゃが変だから、調査しにきたにゃ」


「それで僕?猫にしては変な人選だね。どうせ遊び相手が欲しいだけでしょ」


「ち、違うにゃ」


「ふーん。まあ少し疲れてきたから、話し相手にはなってもいいけど」


 そう言いつつ千里はシャーペンを拾い、また宿題を解き始めた。中学校三年生の数学だ。


「ありがとうにゃ!あ、そこxが4だにゃ」


「今すぐ帰れ」


「まっまっまま、待つだにゃ!」


 顔も上げずに窓を閉めるのを、全身で必死に止めた。千里が力を込め無くなったのを見て、ようやく私も窓枠に座った。


「せっかく宿題解くの手伝ってあげたのに。酷くにゃいかにゃ?」


「答えが分かった連立方程式なんて力にならないでしょ。で?何が聞きたいのさ」


「あー、零が最近私に隠し事しててにゃ……」


「隠し事?」


 千里が消しゴムで式を消している。書き写し間違えていた。


「最近いつ聞いても忙しいって言うんだにゃ。みんにゃの事も」


「それはそうなんでしょ。もう7月の中旬なんだし。僕だって忙しい」


「中学生は期末終わって今は楽しい日々にゃはずにゃ……みんにゃが遊べにゃい理由も全部知ってるし、怪しいと思ってにゃ」


「ふーん」


「参華や陽斗が忙しい理由は分かるにゃ。参華は頑張り屋だし、奨学金返さにゃきゃとかでバイトしてるし……部屋にいつ行っても暗いのは困りものだけどにゃ。陽斗も、最近また仕事復活したって言ってたし、売り込みとか取引で忙しいんだと思うにゃ。ノート、結構売れてるらしいからにゃ」


「日下部陽斗が作ったノート、クラスメイトで使ってる人いた。テイルズナイトのテイルズノート。最初からノートが左から4行目くらいで区切ってあって、問題書くのとかに便利って」


「そうだにゃ。亥李もまだ分からにゃくはにゃいにゃ。配信で忙しいって……それで一応稼いではいるらしいし。最近、サイバー系で仕事探してるらしいから、もっと収入上がりそうだけどにゃ。亥李だし、すぐ軌道に乗るにゃ」


「すぐに辞めないか心配だけどね」


「確かに。でも、その3人はともかく、他の人達がにゃんで忙しいのか分からにゃいんだよにゃ……」


「僕はご覧の通り忙しいけど。というかなんで僕のところに来たのさ」


「それは、忙しいけどはにゃし相手ににゃりそうな人他にいにゃかったし……千里とは気は合わないし喧嘩もするし話してて煽るから嫌いだけど、はにゃしはしやすいんだにゃ。あ、その問題はyから求めるにゃ」


「そりゃどうも。月島零は暇じゃなかったの?」


「零は今日は課題するって。普段から割と真面目にゃんだけど、大学ではおちゃらけたキャラで通ってるらしいにゃ。普段から苦労してそうだにゃ」


「半分くらいの原因は猫にありそうだけどね」


「そ、それを言われるとそうかもしれにゃい……」


「それで?詩乃と土屋美波は忙しかったの?」


「らしいにゃ。にゃんでにゃのかは分からにゃいけど……せっかく遊ぼうと思ったのににゃ。詩乃はオシャレで私に似合う服選んでくれるし、美波(みにゃみ)は可愛いって言ってくれるから楽しいんだよにゃ。まあ、詩乃は突然フラフラ自分の好きにゃの買いに行っちゃうし、美波(みにゃみ)は可愛い服しか持ってこにゃいけどにゃ……」


「自分で選べばいいじゃん」


「いや選んでるけど、黒と白ばっかりににゃっちゃってにゃ。カッコイイのとかいいと思うんだけどにゃ……」


「まあ、あの2人はかなりマイペースだからね」


「私達のにゃかでマイペースじゃにゃい方が珍しいにゃ」


 そんな他愛のない話をしているうちに、烏が鳴いているのに気付いた。周りを見ると、もうすでに日が傾いていた。


「あにゃ、もう帰った方がいいかにゃ。結局、零が怪しい原因は分からにゃかったにゃ……」


「帰るの?」


 千里が顔を上げた。かなり宿題は進んだみたいだ。


「にゃ。もう帰らないと夕飯の買い物行けにゃいし」


「なら、僕も行く。表で待ってて」


 千里がそんなことを言うなんて珍しい。また謎が増えてしまったが、とりあえず「分かったにゃ」と伝えておいた。

 そうやって先程と同じ要領で《異形》して人間の姿で待っていると、やがて千里がやってきた。そのまま2人で零の家に帰ったけど、正直会話は弾まなかった。千里だし。



 家に帰ると、なんだか家の中が少し騒がしいような気がして聞き耳を立てた。《異形》で獣人族の姿になる。私としては、この姿が一番好みだ。


「にゃんか……うるさいような……」


「気のせいでしょ。ほら、入るよ」


 千里が扉を開け、私に先に入るよう促した。なんだかとても怪しいが、中に入る。

 すると。


「ハッピーバースデー!ナリ!」


 パンパンと鳴るクラッカーの音が、玄関の中で鳴り響いた。零だけじゃない。皆がいた。


「誕生日おめでとう、ナリ」


 零が楽しそうに笑った。今日忙しいはずの他の皆も「おめでとう!」とお祝いしてくる。よく分からなくて千里を見ると、扉にもたれかかって呆れたように言った。


「今日の日付くらいちゃんと覚えなよ、猫」


「きょ、今日?今日は……7月16日?それが一体……」


 そこまで言って、やっと思い出した。この日は私が転生し、零と出会った日。


「そうだ……誕生日だにゃ」


 もしかして、皆が忙しかったのは、これを用意する為だろうか。亥李の誕生日を祝った時のように。


「ほら、こっち来いよナリ!お前の好きな食べ物いっぱいあるんだぜ!」


 奥で亥李が笑い、リビングへ向かった。彼に着いていくと、そこには唐揚げにマグロの刺身、そして……


「し、しらすのおろしポン酢茶漬け……!」


 私の大好きなお茶漬けが大盛りで置いてあった。


「これ、本当に美味しいの?零に言われて作ったけど……」


 参華が不安そうにお茶漬けを指さした。


「う、美味いんだにゃ!」


「一番好きなんだよね。お茶漬けが一番好きなんて可愛い!」


 美波が私の頭を撫でた。今日はいつもより優しく撫でてくれる。


「零。いい加減、あれ、渡したら?」


 陽斗が椅子に座り、ニヤけるように笑った。零も頷き、キッチンに向かう。なんだろう、プレゼントだろうか。

 他の皆に椅子に座るよう勧められたから座り、零を待った。しばらくして、零がキッチンから出てきた。手にはプレゼント箱があった。


「ナリ。これ、開けてみろよ」


 零に言われてプレゼント箱を開けると、そこには。


「わ!可愛いマグカップ……!」


 私そっくりな猫の形のマグカップだった。尻尾が取っ手になっていて、正面に猫の顔が着いていた。


「それ、零くんが選んだんだよ。可愛いな、これって」


 隣で美波が教えてくれた。見ると、零が恥ずかしそうに目を逸らしていた。


 料理は美味しかったし、お茶漬けの味はいつものように最高だった。流石零、ちゃんと味を分かってる。

 そのあと零と亥李が持ってきたケーキは、大きなショートケーキだった。山門有の時も食べたことの無い甘いケーキ。


 忘れてたけど、にゃんと楽しい誕生日であることか!

 私にとってこの日は、もう忘れられない日になるだろう。


それぞれのキャラは、1人につき3人ずつ仲の良いキャラを設定しています。

基本的にはプロフィールで点数が高い3人ですが、普段一緒にいるキャラ、「小さな少年の武器屋」においてペアになったキャラが当てはまります。ナリは、零、千里、美波です。

それでは、お読みいただきありがとうございました!

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