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毒舌メイドと朝

 太陽の光が窓の外から差した。

 カーテンの開閉の音。

 窓の鍵が ガチャンと音をたてて、窓が開けられた。



 僕は眠い目をこすって身体を起こすと……



「おはようございますご主人様。……朝からそんな辛気臭い顔しないでください」




 ――メイドがいた。




「……夢じゃなかったのか」

「何の話ですかご主人様。どうせご主人様の事ですから夢の中であんな事やこんな事をしてたのでしょう」

「ち、違うって! 」


 メイドさんはクローゼットを開けて、制服を取り出した。そして、ベッドの隅にそれを置く。


「どちらにしようと早く起きてください。出ないと……私がご主人様にあんな事やこんな事をしますよ」

「えっ」

「冗談です。いいから早く着替えてください」

「……はい」


 布団を退けて、僕は立ち上がる。言われた通り着替えようとして、パジャマのボタンを上から外して行った。


「……あの、メイドさん? 」

「藤花」

「えっと……? 」

「藤花と呼んでください」


 まるでお菓子を強請る子供みたいなジト目で見てくる。毒舌で我儘ってどんなメイドだ。メイドとはもっと従順な従者だと思っていたが、あれはやっぱり妄想の産物なのか。


「藤花……さん」

「駄目です。ご主人様の方が歳上なのですから。ご主人様が呼び捨てしてくれないのでしたら、私はご主人様の学校の隣の席の女子を豚野郎と呼びます」

「分かった、呼べば良いんでしょ……藤花」


 やばい。なんかめっちゃ恥ずかしい。

 これは慣れるまでに時間がかかりそうだな。


「顔を赤くしないで下さい。気持ち悪いです」


 藤花はそう言うと直ぐに後ろを向いてしまう。そして、「朝食の準備をしておくので、着替えたら来てください」とだけ言い残して、部屋を出ていった。


 制服に着替えて、パジャマを洗濯機に入れてから、僕は下の階のリビングへと向かう。

 リビングに入ると、珈琲の香りがして、テーブルには朝食の準備が成されていた。僕は朝食の並べられた席に座る。



「ご主人様? どうかなされましたか? もしかして珈琲は苦手……ですか? 」


 僕が食事に手を付けず止まっていたのを、藤花は少し心配そうな表情で、顔を覗き込んできた。意外と繊細さんなのかもしれないな。


「ううん、珈琲は好きだよ。……あのさ、藤花も一緒に食べない? 」

「はい? 」


 テーブルに置かれた朝食は1人用だ。藤花が何も食べない……って事は流石に無いだろうけど、どうせなら一緒に食べたい。


「私は曲がりなりにもメイドですので、ご主人様と一緒に食事はできません」

「契約上そうなっていたとしても、僕はご主人様なんて柄じゃないよ」

「……ダメです」

「じゃあ、藤花」

「はい」

「ご主人様からの命令。一緒にご飯食べて」

「……」


 すると藤花は何も言わずに、キッチンへと向かってしまった。しかし、少しすると朝食を乗せたプレートをもってまたやって来た。


「ご主人様は強情です。やっぱり鬼畜です」


 僕は目の前のテーブルの奥側にあるものを少し退けた。そして、椅子を引いてあげる。


「嫌です。ご主人様の顔を見ながら朝食を取る趣味は私にはありません。味噌汁が不味……コンソメスープになります」

「どういう原理なんだよそれ」


 藤花そう言うと、朝食の置かれたプレートをテーブルに置いた。だけどもその場所は、僕の隣である。藤花はそのまま、僕の隣の席にまで来た。しかも、椅子を持ち上げて僕の方へ寄せてから座った。

 距離は数cmで、ほぼ腕が当たる様な状態だ。


「いただきます」


 しかもそのまま普通に食べ始める!?


 ……まぁ、もういいや。僕も食べよう。


「昨日はよく眠れた? 」

「はい、お陰様で。……ですが、よくもう1台ベッドが隣の部屋にありましたね」

「隣は母さんの部屋なんだ」

「……勝手に使って良かったのでしょうか? 」

「元からあんまり家に帰ってこないから使って無かったし、そもそも今は海外にいるし……と、ともかく、あの部屋は自由に使っていいよ」


 たまに藤花の腕が当たる。ぶつかると別に痛いだけなんだが、そこには体温があって、何だか今までに無い感覚をおぼえた。


「ご主人様、1つ質問してもよろしいでしょうか? 」

「ん、いいよ」

「ご主人様は昔、私以外にメイドを雇った事はありますか? 」

「メイド? 無いけどどうして? 」

「この家は、平均値から見てもかなり大きな家だと思います。昨日掃除をしていて思いましたが、お母様とご主人様だけでは手に余り過ぎるのではと……」


 確かに、この家は大豪邸とまでは行かなくてもかなり広い部類だろう。


「ううん、これは母さんの趣味なだけで特に理由は無いと思うよ。大きなお風呂を作るのが夢だったとか」


 出張ばかりで、ホテルのシャワーばかり浴びているのが悲しいと嘆いていた。


「何か気になる事でも? 」

「いえ、……大丈夫です」


 それから、しばらくして朝食は食べ終わった。後片付けは藤花がやってくれるので、僕は自分の部屋で学校の準備を済ませる。

 そして、15分程度休憩して家を出る時間になった。


「じゃあ、行ってくる」

「くれぐれも馬鹿な行動は慎む様にしてください」

「……」

「いってらっしゃいませ。ご主人様」

「いってきます」


 僕はそうして学校へと向かった。




 ――同時刻、家では……、


「は、早く準備しないと学校に遅れちゃいますね。とりあえず、メイド服は帰ってから洗濯するとして……」


 時間が無い。時間が。


「ん、なんでしょうかこれは? ……お弁当? ……はぁ、全くご主人様はおっちょこちょい何ですから」


 忘れてったお弁当を学校用のバックに入れる。


「ほんとご主人様は、――私がいないと駄目みたいですね」

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