第八十六話 綺麗な夕日が差し込む場所で。
予定通り更新。
その日の都市国家オヒューカスは、凄かった。
私はこの日の事を一生忘れないだろう。
私は実行委員会の会長職という肩書だけの立場で迎えた夏祭in都市国家オヒューカスは、これまでに見た事が無い程の人が集まった。
どこを見ても人。
どこに居ても人。
見渡す限り人が居るのだ。
あの閑散とした空気感が抜けなかったこのオヒューカスが、こんな日を迎える事が出来るとは思ってもみなかった。
これお全て、彼のおかげだ。
少し女に甘く、少し頼りがいが無く、少し男らしく、優しい彼がこの都市国家オヒューカスに来てくれたおかげなのだ。
彼は今、実行委員長という立場で、忙しく動き回っている。
さっきも、迷子が出たとかで大騒ぎをしていた。
今も迷子を親の元へ届けるのに走り回っている事だろう。
「お疲れですか?」
考え事をしているたら、マリリン王女が声を掛けてくれた。
マリリン様は第三王女であっても、大国アスワン王国の王女だ。
私の様な小国の王女など、地方貴族の娘レベルでしかないのだけど、そういう風な接し方は一切されないし、とても丁寧な応対をしてくれる。
「いえ!大丈夫です!」
その対応が逆に緊張する。
私の対応がちゃんと出来ているか不安になるのだ。
「もしかして緊張しているのか?」
そしてもう一人、やはり同じく大国であるジェスター王国の第一王女であられるエリザネス様だ。
こちらは、第一王女であり、将来のジェスター王国の統治者になる予定の方だ。
ジェスター王国の歴代統治者は女王なのだ。
緊張しない方がおかしいというモノだろう。
「いえ!はい!いやその・・・。」
そんな二人はとても美しい容姿であり、スタイルも素晴らしい。
出る所は出ており、引っ込む所は引っ込んでいる。
ゆったりした感じのマリリン王女は色気も凄い。
アスワン王国でも人気の王女だそうで、離れたこの国にも伝わる程だ。
そしてエリザネス王女は気品高い感じなのだが、露出度も高い。
一人の武術家としても有名で、腹筋なんて割れまくりで、カッコいい。
「ちょっと、エリザネス!普通、この場面で緊張しているかって聞く?」
「なに?普通に聞いただけであろう?」
「そういう所が、デリカシーが無いって言うのよ。いつも私とザバるんの邪魔をするし。」
「はぁ?!ザバるんの事は今はかんけいないであろう?それにザバるんとの私の邪魔をするのは其方であろう!」
「何ですって?!黙って聞いてたら、エリちゃん調子に乗ってない?」
「ほぉ、マリちゃん。便乗してついて来た其方が言うか。」
「はぁ?便乗したのはエリちゃんでしょ!」
「いいや。私が先に招待されました!」
そう、この二人は揃って同じ人と婚約しているそうだ。
この実行委員会にも名を連ねるザバルティ様と。
しかも、小さい時からこの二人は仲良しだったらしく、気安く言葉を交わしている。
身分的につり合いが取れる関係なのかもしれない。
少し羨ましい。
「あのさ。二人とも、場所を弁えてくれないかな?」
そこに、噂のザバルティ様がやって来られた。
後ろには、メイド服を着た絶世の美女が、いや、この世の人とは思えない神々しさを持った女性がついて来ていた。
「「でも!」」
二人はリンクした。
同時に反論と向きを変えザバルティ様に顔を向ける。
その二人の耳元にザバルティ様が顔を近づけて何やら話をすると、二人は同じ様に顔を茹蛸の様に赤くして、顔を反らした。
「あら。私としたことが。おほほほほ。」
「おぉ。これは失礼した。あはははは。」
お二方が変な感じなのが、おかしく私は笑ってしまった。
「申し訳ない。二人が、アンジェラ王女殿下の手を煩わせる事になって。」
ザバルティ様が私に謝罪する。
その洗礼された行動は美しく、何か白い羽が舞っている様な感覚を憶えた。
「そ、そんな事はありません!」
私はハッとしてそう答えた。
「そうですか?それは良かった。ミーリア。少しここに残ってくれるかな?」
「かしこまりました。」
神々しさを持つミーリアさんがここに残る事になり、ザバルティ様はここを離れた。
何だろう?
ザバルティ様の後ろ姿がジュンの姿に被るのは?
「どうかなさいましたか?」
「あっ!いえ。ちょっと知り合いに似ているなぁ~と思いまして。」
少し、硬い表情をしていたミーリアさんが、一瞬目を大きく開いたあと、にこやかな笑顔になる。
「なるほど。そうかもしれませんね。ジュン殿に似ておられる所があるかもしれませんね。」
「えっ?!」
私は驚き、目を広げてしまった。
すると、ミーリア様は私の耳元で囁いた。
「ふふふ。顔に書いてありました。」
「えっ?嘘?!」
私は慌てて、顔を触り、手で顔を隠した。
「冗談です。」
ミーリアさんは悪戯っぽい顔を浮かべて私に微笑んだ。
「もう!ミーリアさん!!」
私は少しホッとし、顔を上げた。
「ふふふ。恋する乙女は可愛いですわね。」
ミーリアさんは私を見てそう言った。
そして、振り返り、マリリン王女とエリザネス王女に向きを変えた。
「ふふふ。お二方ともお分かりですわよね?」
「「はひっ!!」」
恐怖の顔を作った二人の王女は、変な返事と共に首を縦に振りまくっていた。
「次はありませんよ?」
「「はい!」」
私はどうも力関係を誤解していた様だ。
正確な力関係が分かった気がした。
それは、綺麗な夕日が差し込む夏祭初日の夕方だった。
次回更新は
2021年8月28日(土曜日)20時
よろしくお願いします。