第八十四話 先王と商会長。
予定通り更新です。
「なに?!そんな事を考えているのか?!」
初老という感じでありながら、躍動感のある体を震わせるが、威厳を護りつつも驚きを顕わにするという器用なご老体。
アンディス先王である。
「ジュンの奴は本当に測りしえない奴じゃ。」
ジュンが【夏祭】の開催をするという。
その開催内容を聞いて驚愕したアンディス先王は、再度のジュンへの評価を改めた。
新エリアから海へと簡単に移動できる手段を用意したという話や、一斉に街の発展を進める行動力は計り知れないと考えたのだ。
「うむ。それにしてもシャルマン商会長ラムザという人物も、噂以上の奴だな。それと友誼を結ぶジュンもまた傑物じゃ。」
報告を聞き、アンディスはより深く思考を深める。
彼には、自身の子供が意識なく横たわっていたあの現状から、景気が上がると思える現在と孫であるアンジェラの現在と過去を思い浮かべた。
彼にとって、この都市国家オヒューカスにとって、ジュンという存在は、恩恵でしかない。
国樹神によって与えられた恩恵である。
そんな彼がロックフェラ連合国内において、当初の冷遇とも言える各都市の長達の対応が、今の都市国家オヒューカスの根底にある事が、皮肉にもありがたい事であり、愚鈍な長達にも今は感謝を贈りたいと思っているのも事実である。
あの冷遇があったからこそ、今の都市国家オヒューカスの姿があるのだから当然であろう。
「では儂は息子夫婦を焚きつけて、新エリアだけでなく、中央部も開発をすすめさせるかのぉ。」
うひひひひ。という笑い声と共に立ち上がったアンディスはパンパンと手を叩く。
すると、部屋の扉が開き、従者が顔を出す。
「息子夫婦に話がある。前触れを出せ。」
「かしこまりました。何か用意致しますか?」
「いや。よい。」
「わかりました。」
短いやり取りで意志が通じる長い関係である。
従者はすぐさま行動に移す。
それを知っているので、アンディスも準備を始める。
少ししてメイドが顔を出し、アンディスの手伝いを始めると、従者が戻ってくる。
「お待ちしています。との事です。」
「うむ。ご苦労。」
こうしてフットワーク軽くアンディスは動くのだ。
かのご老体の長所はこの軽いフットワークと素早いレスポンスが王であった時からの長所であった。
その二つによって彼は王という立場をこなし、多数の功績と多くの支持を得ていたのだ。
そんなご老体が自身の長所を使う時とは即ち、利があるという事である。
それを貴族たちが、気がつかないハズは無い。
気がつかない輩は貴族として劣等である事を自ら言っている様なモノである。
それ程にアンディス先王への信頼は高いのである。
それが、現王には迷惑な事であってもだ。
「かしこまりました。父上がそうおっしゃるなら間違いは無いでしょう。開発を急ピッチで進めましょう。」
「うむ。皆も聞いたな?」
「「「「はっ!」」」」
「王が決められた。迅速なる対応をせよ。」
こうして、都市国家オヒューカスは未曽有の建設ラッシュが始まったのである。
そして、ジュンが開いたエリアだけではなく、更にエリアの拡大をおこなっていくのである。
◇◇◇◆◇◇◇
「ほぉ。あのご老体が動いたか?」
「はい。その様な報告が上がっております。」
ラムザは部下からの報告に感心した。
小国の先王アンディスの先見の明に感心したのである。
「小国でなかったら、覇を競う傑物だったんだろうな。」
『治世の能臣、乱世の奸雄』と評された三国志の主人公の一人である男を思い浮かべたラムザ。
果たしてそんなに似ているかは別として、有能な人物であると思ったのである。
「この世界も、まだまだ知らない事が沢山ありそうだな。」
「ああ。まだまだ優秀な人物は多く居るのかもしれないな。」
それに同調したのはザバルティであった。
彼もまた、ラムザと一緒に報告を聞いていた一人だ。
「たしかにそうだな。こりゃ楽しみが増えたぜ。」
「おいおい。あんまり無茶な事はするなよ?」
「もちろんだ。無茶をしてお前の所の飯が食えないのでは意味が無いからな。」
花より団子。
この言葉が良く似合うラムザの発言である。
彼は自分の息子の魂を探す為に創設したシャルマン商会を一代でここまで世界のシャルマン商会に仕立てた人物だ。
なのに、『花より団子』であり、何より食事に対する欲求が高い。
そんな高い欲求に応えるザバルティの屋敷の食堂。
社員食堂の様な立場の食堂の出す料理が、圧倒的にクオリティが高い。
世界のどんな王族が食する料理より、ザバルティ邸の食堂が出す料理の方が美味い。
そう断言出来る程に、ラムザは気に入っている。
その食事を食べないくらいなら、無茶はしないと言うのだが、それはあまり正しくない。
実際には、食べそこなう事は無くても、ラムザは無茶をする。
あくまでも本人は無茶だとは思っていない所が凄いのだが、他人から見ると無茶であるのだ。
その無茶が、彼の成功を支えてきたのは間違いなく事実である。
そして、今回も小国とは言え、その小国の負債を全額出すという無茶をおこなった。
しかしそれも、ジュンという者を見込んだ無茶である。
ラムザは人を見る。
人に投資をするのだ。
それが彼の商人としての、人としての矜持なのだ。
「さて、そろそろ夕飯じゃないか?」
「うん?」
「今日の夕飯は何かな?」
「それはウチの食堂の事か?」
「当り前だろ?!他にあるか?」
それを聞いたラムザの部下が溜息をつくのは仕方がない事ではないだろうか?
次回更新は、
2021年8月21日(土曜日)20時
よろしくお願いします。