第八十話 屋敷 その1
予定通り更新です。
「うん。やっぱり家は良いね。」
ジュンは都市国家オヒューカスに大きな家を建てた。
和風建築で、あくまでも和風である。
日本人にとっては違和感がある建物に仕上がってしまったのは、資材が地球・日本と違うので仕方がない事だろう。
「落ち着く。」
ジュンは縁側のある庭を望める部屋で横になっている。
畳っぽい何かである床は畳の様な硬度であり、クッション性もある為、横になると気持ちが良いのであろう。
ジュンの顔を見れば明らかである。
遠くの方でドタバタと走る音が複数ある。
このジュンの所有する屋敷で住込みとして働いている元スラムの子供達である。
子供たちはジュンの屋敷でメイド見習いや執事見習いとして教育されているのだが、今は休みの者が走り回っているのであろう。
「平和だね~。」
そんな感想がこぼれる程に、ゆっくりとした時間が流れている。
和風建築であるが、地下も完備されており、地下三階まである。
そして地上部分は同じく三階建てになっており、合計で六階層ある。
敷地面積を摂り過ぎない様にと設計された為に、この母屋以外に人の住める建物は置いてない。
馬車が置ける倉庫と、厩舎があるだけである。
他は全て日本庭園の装いである。
敷地を囲う様にして壁が設置されているので、その敷地一杯に広がる庭園は都市国家オヒューカスのシンボルであるイチョウの木をメインに仕上げられており、日本人なら誰しも見惚れる景観である。
「さて、少し挨拶してくるね。」
「いってらっしゃいませ。」
ジュンが一言伝えると何処に行くのか分かっている様子で、メアリーが答える。
メアリーとグロリアの二人は、摂政時代に引き続いて、カンザキ家のメイドとして働いているのは都市国家オヒューカスの名誉公爵として任命されたジュンに対して派遣された形のままである。
ジュンはそのまま縁側から下駄を履いて庭を進んでいく。
飛び石が敷き詰められており、その上を歩いていくジュンは、どこか楽しげである。
そのまま、ジュンは飛び石に従って歩いていくと、敷地内で一番大きなイチョウの木の前まで来る。
ジュンの目の前に人が一人通れる程の大きさの鳥居がある。
鳥居の神額には縦書きで【国樹神】と漢字で彫られて墨入れされている。
その先には祠が立っており、祠の中には大きな石が置かれていた。
その大きな石の中央には縦書きで【豊玉姫命】という漢字が彫られて墨入れがされている。
ジュンは鳥居の柱にある目線より低い場所にある蛇使い座のマークに手をかざし、そして鳥居を潜り大きな石の裏に回り、同じ様に石の裏側にある蛇使い座のマークを触れると蛇使い座のマークを中心に魔方陣が浮かび上がった。
ジュンのかざしている右手を魔方陣が突き進んでいくと同時に飲み込まれたジュンの身体は消えていく。
ジュンの背中が魔方陣に飲み込まれると、魔方陣は光の粒子となり消えたのだった。
◇◇◇◆◇◇◇
『あら、そんな事があったの?大変でしたね。』
「はい。大変でした。」
心底大変だったのか、ジュンの双肩は下がっている。
それを見ている国樹神は優しい眼差しをジュンへと向けている。
ここ最近のジュンは、こうして屋敷の敷地に新たに設置された転移魔方陣を使って頻繁に訪れては愚痴を吐いている。
その転移魔方陣は、蛇使い座のマークを持つ国樹神に認められし者しか利用できないモノである。
つまり、セキュリティーが高い代物であるが、ジュン以外の者が利用できない事からジュンにだけ有効な代物であり、ジュンに独占された代物である。
現在は、アンジェラ王女も国樹神の加護を持っているので、城からこの場所へ来る事もある様で、今の様に、同席する事もある様だ。
「ですが、私に領地経営をさせるとか、あんまりだと思うのです!」
小さい双肩を持ち上げて更に、目の端も釣り上げて、怒りを表わしているアンジェラ王女に国樹神は宥める様に諭していく。
『それも、将来に渡った時にはこの国にとってはとても有効な手段でしょう。それにジュンは渋々貴族籍を承諾してくれたのですから、後はこの国の王族がやるしか無いでしょう。』
「それは、わかっているのです。わかっているのですが、もう少しゆっくりさせて欲しいと思うのです。」
「そうだね。本当にごめんね。けど、他に出来る者は居ないと思うよ。それに他の貴族では不相応な財力と権力を手にしてしまうだろうし、そうなると王族の権威が下がってしまう。それを回避する手段を思いつかなかったんだ。後、僕も自由になりたかった。本当にごめん。何かあれば、僕も手を貸すから。」
「本当ですね?言質は取りましたよ?」
「あっ?!」
ニカっと晴れ晴れとした顔になったアンジェラ王女。
流石、王族でありあの先王アンディスの孫である。
目的はジュンの協力を得る事であり、その言質をとる事であった様子である。
やられた方のジュンは「ああ。僕の自由が・・・。」と遠い目をしているので、協力をするといい事自体は見とめている様だ。
諦めているとでも言うのかもしれない。
国樹神は、そんな自身の加護を与えた二人のやり取りを優しい目で見守り、微笑ましく思っているのか、笑顔を湛えている。
「ジュン様にはしっかりと私に協力して頂きますね。」
サムズアップするアンジェラ王女を見たジュンは断るタイミングを見失ったのである。
『屋敷が領地内にあるから仕方ないね。』
ジュンは心の中でそう思ったのであろうか?
苦笑いを浮かべて、アンジェラ王女を暖かい目で見つめていた。
次回更新は
明日、2021年8月8日20時
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