第七十七話 『色気より食い気』。
予定通り更新です。
都市国家オヒューカスの王宮内は大騒ぎとなった。
長らく起きる事が無かった王様と王妃様が目を覚ましたからだ。
城の中にいた貴族は、我先に王と王妃に面会を求める。
城の外にいた貴族は、従者から連絡を受けると、我先にと城へ押しかける。
異様な空気感はそのまま都市内へと伝播していく。
緊急事態が起こったのではないか?と勘繰る者が多数出た。
「凄い騒ぎですね。」
「ああ。王と王妃が目覚められたのだ。こんなもんだろう。」
黒髪の青年ジュンは、銀髪の青年ザバルティと向かい合って座って居る。
外の喧騒と比べると、二人が居るこの執務室は異空間なのではないかと思う程落ち着いているのだが、喧騒はこの執務室にもしっかり伝わって来ている。
「これで、僕は摂政という立場から解放されますね。」
「うん?そう簡単にいくかな?」
ジュンの言葉に返すザバルティの言葉が意外なのか、ジュンは驚きを顔に浮かべた。
「どういう事です?」
「今回の事は英雄譚として後世に伝わる事になる出来事だ。まして、王と王妃からしたら、君は恩人だ。そんな恩人を落とす様な真似は出来まい。」
「でも、摂政は成人する前の王族の代わりに立てる存在ですよ。王と王妃が生存している今は必要無いでしょう?」
「たしかに。だが、関白という役もあるぞ?」
「あっ!」
「それに、摂政は期限付きのモノなのだろ?」
「はい。」
「その期限までは、そのままにすると思うぞ。王と王妃の復帰を期限に合わせると思う。反対する貴族は居るだろうが、他国への心証も考えて、即解任とはいかないよ。」
「たしかに。」
ザバルティの正論によってジュンは頷くしか出来なかった。
事実、ザバルティの推測通りに事は運ぶだろうと誰しもが想像できる事だからだ。
「はぁ。そうなると、まだまだ解放されませんね~。」
ぐったっ。と座って居るソファに倒れ込むジュンをザバルティは優しい微笑を顔に浮かべて見守る。
「新しい区画の整備もまだまだする必要があるので、そちらに集中すれば良いか。」
「ああ。それで良いだろう。表向きは君が国を見ている事になるが、内々では王と王妃に丸投げしとけば大丈夫だろうさ。」
「そうですよね。その方向性でいこう。」
がばっ。とジュンは起き上がり、ザバルティのアドバイスに乗っかり動く事を決め宣言する。
「では、私はこれで失礼するよ。」
「はい。本当にありがとうございました。ホント助かりました!」
元気な様子を見せたジュンにザバルティは帰る事を告げる。
ジュンは頭を思いっ切り下げて感謝を表す。
この動きはいかにも地球・日本人であると思わせるスムーズで綺麗な礼だ。
「ああ。また何かあれば言ってくれ。」
ザバルティはそう言うと、ジュンの執務室から出て行った。
「お腹が空いたな。リク君。」
ジュンはリクという自分の従者を呼ぶ。
「はい。」
「悪いんだけど、何か食べ物を用意してもらえるかな?」
「わかりました。」
従者リクは嫌がる素振りを見せずに王城の食堂へ向かう為に部屋を出て行こうとすると、ビアンカが部屋へ入って来た。
「あれ?もう良いの?」
「ああ。それよりお腹が空かないか?」
「そうだね。だからリクに頼んだよ。」
「じゃあ、私もお願い出来るか?」
「わかりました。では行ってきます。」
リクはビアンカの分の食事の用意も請負うと部屋を出て行った。
それを見送るとビアンカはジュンの前にあるソファに身を預ける。
「疲れた。」
「そうだね。疲れた。」
ビアンカの言葉に同意を示すジュンを、ヌッとした顔で睨みつけるビアンカ。
「あの後、直ぐに逃げたくせに。」
「いや。家族水入らず?っという状況を作った方が良いと思っただけだよ。」
悪びれた様子のないままに応えるジュンを見てビアンカは諦めたのか深い溜め息をつく。
「もう良いわ。でも貴方もまた呼ばれる事になるわよ。」
「えっ?もう感謝の言葉は貰ったよ?」
「馬鹿ね。言葉だけじゃなく、形を渡されるに決まっているじゃない。」
貴族や王族の対応。
誇りと見栄を重視する存在がする事は、どれもこれも大掛りであり大袈裟だと見られる事をする、形式を重用する者達の集まりである。
「ああ。そうだね。面倒だな。」
それを、さほど気にしないジュンにとっては想定外になりがちである。
が、今回は慣れていないだけであった様だ。
だが、それを聞いたビアンカにとってはカチンと来たようで口調がちょっと荒くなる。
「ちょっと、アンタねぇ。王様がわざわざ形にするのはちゃんと理由があるのよ?それにこの国にいる限りはそういうのを貰っておいた方が、貴方にとっても都合が良いハズよ?」
「そうかもしれないけど、面倒なものは面倒だよ。それに僕は他にもやらなきゃいけない事があるんだかね。暇じゃないんだよ?」
駄目だこりゃとでも言いたげにリアクションを起こすビアンカ。
しかし、リアクションの割には、ビアンカの顔は優しさに彩られている。
「ジュン様。戻りました。」
そこへ従者のリクが食事の乗ったワゴンを押して戻って来た。
後ろにはこの城のメイドがついて来ている。
部屋に入るとメイドが直ぐに配膳を始める。
「これは、美味しそうだな。」
「本当ね。美味しそう。」
ビアンカの指導は終了し、ジュンと揃って目の前に置かれた食事に目を輝かせる。
「「いただきます!」」
二人はリンクして、食べ始めた。
その様子を見ている従者のリクとメイドは同じくリンクしている。
何がリンクしたのか?
『色気より食い気』を優先する美男美女。同類だ!
同じ感想を抱いた事だった。
次回更新は
2021年7月31日(土曜日)20時
よろしくお願いします。