第七十二話 鏡の世界 その3
予定通り更新です。
僕等は朝を迎えた。
特に何事もなく迎えた朝でしたが、お腹が空いている以外に問題はない。
二人はもう既に顔を洗い、水を飲んだ後の様です。
「では、僕も水を飲んできます。」
川に浸かり、顔を洗い、水を飲む。
かなり野性的な行動だね。
澄んでいる水はとても綺麗であり、カエルの様な両生類や魚の卵も見当たらないし、アメンボみたいなのも見当たらない?!
そうだ。
見当たらない。
こんなに人が居ないのにも関わらず、生き物が存在している気配が全くない。
生物がいない。
でも植物は存在しているから、そこに気がつかなかった。
さっそく、二人の元へ戻った僕は、気がついた事を話した。
「そうですね。たしかに、生物の営みは感じられませんね。それで変に感じた訳ですね。スッキリしました。」
「しかし、植物は居る気がするのだが、それはまだ謎か。」
「ええ。でも、そういう世界であるからこそ、何か起こりえるかもしれませんね。」
異界空間であるから、不思議な事があって当然。
だが、住人らしき人を見つけたが、あの人も精神世界の存在という事になるのだろう。
『ええ。その通りです。』
突然、ザバルティさんが声をかけて来た。
『ですから、彼が、この世界の創造者であると考える事が出来ます。彼が指示した場所に何があるのか、それは彼しか分かりません。』
「そうなると、より注意しておかないといけませんね。」
『はい。ですが、必ずそこに解決すべき事があるのは間違いないでしょう。』
「わかりました。じゃあ、早速向かいましょう。」
僕達はディエゴさんに教えて貰った集落を探して、向かう事にした。
本当に集落があるのか分からないが。
◇◇◇◆◇◇◇
あれから、この異界で二日の時間が経った。
かなり進んだ気がするのだが、まだ見つからない。
空腹感から、僕等は水を飲み続けた。
水だけは手に入るからだ。
「天気が良いので助かりますね。」
「そうですね。」
カラッと快晴が続いている。
それは本当に助かっている。
これで雨でも降っていたらと思うと恐ろしい。
「あれは?!」
前を歩いていたビアンカ様が声をあげた。
「もしかして集落じゃない?」
「そうですね。その可能性が高いですね!」
「急ぎましょう!」
遥か向こうに、建物らしきモノが見えたのだ。
僕達の気分が上がるのは想像に難くないだろう。
そう、はしゃいだ。
ようやく、目標物らしきものが見えたのだから仕方が無いだろう。
それから一時間掛けて、その場所に着いた。
「これは?!」
たしかに集落だった。
辺境の村という感じなのだが。
「人が居ない。」
そう、人が居ないのだ。
「やはりか。」
「想像通りでしたね。」
「ええ。」
生物が存在しない異界だと考えていたので、人が居ない事に驚きは無い。
だから驚きは少ない。
「人が居ないのに廃墟ではないですね。」
「魔力的な何かが影響を与えているのでしょう。」
僕等は集落の中にある建物にいくつか入ってみたが、結果、生物の存在は感じられなかった。
それなのに、埃の一つもなく綺麗なのだ。
「一番奥の大きな建物に行ってみましょう。」
この集落の中で一番大きな建物へと向かう。
「失礼します。」
誰も居ないとは思っていたけど、自分の所有する建物では無い為、つい声を掛ける。
そして中に入るとヌルッとした感覚を伴う。
「?!」
特に何もない。
見た目にも何かある感じがしなかった。
「どうしたのですか?」
「いえ。何かヌルっとした感じがしたもので。」
「えっ?」
「私が試そう。」
ビアンカさんはそう言って、中に一度入り、出てきた。
「たしかに、変な感じがするな。」
「何かがここにありそうですね。」
「はい。その可能性は高そうです。」
「どうしますか?」
「入るしかないでしょう。ですが、危険である可能性もあるので、順番を決めて入りましょう。」
「では、私が先頭で、二番目はアンジェラ王女殿下。ジュンは最後にしましょう。」
反対が出なかったので、ビアンカ様の意見通りに順番に入った。
「う~。ヌルっとした感覚は気持ち悪いですね。」
「ええ。」
「では、進みますよ。」
ヌルっとした感覚は気持ちが悪いという共通認識を持ったようだが、そこで立ち止まることはせず、警戒しながら先へと進んだ。
現在は玄関というか、土間と呼ばれる様な空間に居る。
目の前には引き戸があり、その先には部屋があるだろうと思えた。
スッと引き戸をビアンカ様は空けたが先は真っ暗で何も見えない。
すかさずアンジェラ王女殿下が『光』を魔法で作り、照らす。
すると、そこは洞窟の入口が向こうの壁に出来ていた。
おどろおどろしい感じの見た目で、人が一人通るのがやっとのサイズ感。
建物の中にある異質さよりも、その入り口から漂う不吉な雰囲気の方が、見る者に入る事を拒絶させるのではないだろうか?
異質より異様な空間がそこにあった。
「どうしますか?」
入口を監視したまま、ビアンカ様が聞いてくる。
「行きましょう。」
「わかりました。」
少し、戸惑いながらも、アンジェラ王女殿下が答えた。
僕もそれに反対するつもりは無い・・・のだが。
「その前に、一度この建物を出て、ザバルティさんと話ませんか?」
「えっと。そうですね。その方が良いかも知れませんね。」
「そうですわね。一度ひきましょう。」
そう言って振り返ろうとした瞬間だった。
『バタン!』
後ろにあったであろう引き戸が大きな音をたてて、閉まった。
閉まった扉を見たが、そこはただの壁になっていた。
「しまった!」
そう声を出したが、もう遅い。
「先に進むしかありませんね。」
その言葉に頷き、目の前のおどろおどろしい入口の中へと入った。
次回更新は
明日、2021年7月18日(日曜日)20時。
よろしくお願いします。