第七十話 鏡の世界 その1
予定通り更新。
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「これが鏡の世界?」
僕は蒼天を見て、草原を見て、隣を見て呟く。
僕の隣にはアンジェラ王女殿下とビアンカ様が居る。
『上手く行ったみたいだね。では、王様と王妃様の捜索を始めてくれるかな?』
頭の中に響くような感じで、ザバルティさんの声が聞えた。
僕だけではなく、アンジェラ王女殿下もビアンカ様も聞こえたみたいだ。
『私の感覚では、君達の目の前に見える山の麓に王様と王妃様の魔力を感じる。先ずはそこを目指してみてくれないか?』
ザバルティさんの言葉に従い真っすぐに山へと向かって歩き出した。
緊張の為か、僕等は無駄話をせずに無言のまま進んでいく。
僕の『鏡の世界』のイメージは現世とは反対になった世界という風に思っていた。
しかし、ここは『鏡の世界』と呼ばれる世界でも、少し造りが違うらしい事がわかる。
なので、精神世界と呼ぶ方がシックリくる。
自然豊かな場所。
しかし、何か変だ。
何かが違う。
違和感を憶えつつも僕達三人は進む。
危機感はあまりなく、三人横並びに進んでいく。
さほど遠くないと思っていた山の麓。
それでも時間の経過は感じた。
「遠いな。」
「そうですね。」
「精神世界でも疲労は感じますね。」
思い思いの感想を述べあいながら、進んだ。
違和感は拭えないまま、山も麓へと辿り着いた。
「あそこに、山小屋が見えます。」
「そうですね。あそこでしょうか?」
僕達の目の前には、山小屋と呼ぶに相応しい建物がある。
その建物の奥は森と山になっている様子で、奥には川が流れている。
「すいません。誰かいらっしゃいますか?」
「ちょっと。何馬鹿丁寧に挨拶しているのよ?」
「えっ?別に普通じゃない?」
僕が挨拶をしたら、ビアンカ様が驚き怒った。
僕にとっては普通の行為なのだが、ビアンカ様にとっては様子を見るという行為が出来なくなった事が気に入らないらしい。
すると山小屋の扉が開いた。
そして中から、鋭い顔つきをした男?女?の人が出てきた。
その人は鋭い顔付きのまま、僕等を睨みつける。
外見は黒髪・黒目・黄色肌で日本人の様な姿をしているが、こちらの世界の人であるからなのか服装は洋服だ。
「お前達は何者だ?何の様で来た?」
「随分と不躾な質問ね。そういう貴方はこんな所で何をしているの?」
相手の質問に答えずに、質問で返すビアンカ様。
アンジェラ王女殿下がいらっしゃるから当然の反応かもしれない。
「ふん。お前達に説明してやる義理は無い。」
相手のおっしゃる通りです。
「私はロックフェラ連合国の都市国家オヒューカスの王女アンジェラと申します。あちらの女性はビアンカ。そしてこちらの男性がジュン様です。二人に共をしてもらい父と母を探しにここへ参りました。」
超ド・ストレートに嘘偽りなく話してしまわれた。
僕もビアンカ様も止めるタイミングも無く淀みなく答えられた。
「ふむ。まともな者も居るか。よかろう。私はディエゴだ。しかし、その方の探しているという父君にも母君にも覚えはない。」
凄くまともに返事してくれている。
あれ?
「そうですか。ディエゴ様、ここに人が来たと言う話は聞いておられませんか?」
「人か・・・。」
「はい。」
「ふむ。ここよりあの川を下った先に集落がある。行ってみると良いだろう。」
「ディエゴ様、ありがとうございます。」
アンジェラ王女殿下に倣い、僕達は頭を下げてその場を後にした。
少し離れてから僕はアンジェラ王女殿下に質問をした。
「何故、素直に話したの?」
「ジュン様。人は鏡なのですよ。」
「鏡?」
「ああ。そういう事か。」
「はい。」
人は鏡。
これは、心理学に分類されるモノだろうか。
“人は鏡”という言葉は、人の「反応」を指すものだそうで、ある人を見て、嫌悪感や好感が湧いてきた時、その人の持つ何かに“自分の感情”が反応をしているという意味です。
「でも、なぜそれを?」
「昔、母上に教わった記憶があるのです。」
「へぇ。」
「それに、ここは鏡の世界と伺っていますから、効果があるかと思いまして。」
「なるほどね。」
アンジェラ王女殿下の言葉を黙って聞いていたビアンカ様はアンジェラ王女殿下の前に立って頭を下げた。
「申し訳ありません!」
「どうしたのです?」
「配慮は私がするべき事でございました。アンジェラ王女殿下にさせてしまい誠に申し訳ございません。」
ふふふ。と笑ったアンジェラ王女殿下は優しい顔でビアンカ様を見た。
「良いのですよ。ビアンカは、私が王族であるからこそあの様な態度をとったのでしょう?ですから、謝る必要はありません。それにビアンカが取った態度で私は気づいたのですから。だから、謝る必要はありません。今回の事は三人で力を合わせてクリアするべき事です。だから、もう頭を上げてください。」
「はっ!ありがとうございます。」
僕は、良い主従関係なのだなと思った。
お互いがお互いの事を信用している。
信用が無ければ、今のこの場面は無いだろう。
「さぁ、正しい情報を頂けたのか分かりませんが、教わった場所へ行ってみましょう。」
アンジェラ王女殿下に促されて、僕達は川を下って集落を探す事にした。
向かう先は、僕達がこの世界に来た場所とは逆方向。
奥へと進む事になったのだ。
◇◇◇◆◇◇◇
突然訪問してきた者達が去った後。
小屋から出てきた者は外に設置されているテーブルに黄金色した液体の入った瓶と氷の入った透明なコップを置くと、ロッキングチェアに座る。
「さて、ようやく迎えが来たか。かの娘は越えられるだろうか?」
「そうですね。あの二人の子供であるならば、大丈夫でしょう。」
もう一つのロッキングチェアにいつの間にか座って居た者が答えた。
そしてグラスに黄金色の液体が注がれる。
グラスの中にある氷が解けてカランという音が鳴る。
「そうだな。」
「ええ。そうです。」
二人は同時にグラスを持つとグラスを持ち上げる。
「「良い結果を祝って、乾杯。」」
カチンとガラスとガラスが重なる音は祝福の福音へと昇華した。
次回更新は
明日、2021年7月11日(日曜日)20時
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