第六十九話 鏡の世界へ
予定通り更新。
アンジェラ王女殿下はコツコツと歩くと、指をさした。
「これです。この剣です。」
その指の先には一振りの刀が置かれていた。
洋風の部屋において、ひと際目立つそれは日本刀と言って差し支えないモノだ。
「ジャパニーズソードとかいう剣で、名前を『水鏡時雨』と父がいつも嬉しそうに話してくれておりました。母が誕生日に贈ってくれた品物と聞いております。」
「抜いても構いませんか?」
「はい。」
ザバルティさんがアンジェラ王女殿下の許可を貰い引き抜くと日本刀独特の波紋が浮かび上がった刃先が出てきた。
「これは見事ですね。」
ザバルティさんの感想はこの時、この場所に居た人は皆思ったのではないだろうか?
皆は息を飲んでただ見つめるだけだ。
『水鏡時雨』は、日本刀の持つ独特の美しさをしっかりと備えている。
その上で、剣先の刃の部分は、鏡の様に綺麗に反射しており、見たモノの顔を写しだしている。
波紋は八雲肌と呼ばれる雲が立ち昇る感じになっており、沸出来で直刀。
水鏡の如き刃に八雲肌を時雨に見立てて命名したのではないか?と後でザバルティさんから教えてもらいました。
「うん。これだろうね。王様と王妃様の魔力を感じるよ。」
正直、驚きです。
王様と王妃様の魔力を感じるとは一体何なのでしょうか?
で、これも後で聞いた話ですが、個人の魔力には匂の様な物が着くそうです。
人によって、それは匂いであったり、感じるモノであったり感触であったりするそうですが、とにかくその人が持つ魔力の特徴があるそうです。
で、この時は王様と王妃様の魔力と同質のモノを感じたそうです。
「では、ここからはあくまで推論ですが、聞いて頂けますか?」
「はい。」
アンジェラ王女殿下へと優しい眼差しを崩さずにザバルティさんは推論をアンジェラ王女殿下に伝えました。
現在、王様と王妃様は魂と体とが離れている状態であり、生きている事。
そして、おそらく、魂はこの『水鏡時雨』の中にある世界にある事。
その世界は通称『鏡の世界』と言われる場所である事。
この状態を魔力で強制的に解除する事は出来るが、あまりお勧めできない事。
その他の方法としては、『鏡の世界』に入り込み、魂を連れ帰る事。
そしてそれをザバルティさんはおススメであるという事。
「もちろん、連れ出しに行く行為もリスクはあります。ですが、ただの失敗であるなら複数回の挑戦が出来るので、リスクが低いのです。アンジェラ王女殿下。いかがなさいますか?」
ザバルティさんの問いかけにアンジェラ王女は即答した。
「わかりました。鏡の世界に行く事に致します。」
「では、私が参りましょう。」
ビアンカ様が直ぐに反応した。
それに対してアンジェラ王女殿下は嬉しそうな顔になる。
「ビアンカ、ありがとう。でもこれは私の務めです。私が行きます。」
そうキッパリと言い切った。
大変すばらしい主従関係だと思う。
だけど、僕は考えた。
「あのザバルティさん。鏡の世界に行くのは一人じゃないとダメなんですか?」
「いいえ。複数でも大丈夫です。リスクは上がってしまいますけどね。」
「なら、僕も含めた三人で行く事は可能ですか?」
少し驚いた後に喜んでいる顔になったザバルティさん。
「ええ。可能です。三人で行かれますか?」
ザバルティさんは僕に返事をして直ぐにアンジェラ王女殿下に顔を向ける。
それを受けてアンジェラ王女殿下は一度、僕とビアンカ様の顔を見てから答えた。
「はい。それでお願いします。ジュン様、ビアンカ、ありがとう。」
アンジェラ王女殿下はニコッと笑った。
その顔は、とても綺麗だった。
◇◇◇◆◇◇◇
少しの準備の後、鏡の世界に行く為に横になった。
ザバルティさんの魔法によって魂を鏡の世界に送ってくれるというのだ。
「これから、三人が行く場所は精霊界の一部の様な場所になります。厳密に言うと精霊界では無い独自の空間となります。精霊界ではない精神世界です。皆さんに持ってもらっている鏡は私と繋ぐ道具だと思ってください。その道具のある所には私の力が発揮できます。しかし、逆にその道具が無くなると帰れなくなります。だから無くさないでください。最悪は誰かのが一個でもあれば何とかなりますが、全てを無くすと、貴方達も彷徨う事になってしまいます。なので、よほどの事が無い限りは手放さない様にしてください。あと、これから行く先は精神世界です。それも他人の構築した世界です。その世界の理はその世界を構築した者の理となります。そこをお忘れなく。」
ザバルティさんの説明を聞き終えて、僕等は顔を見合す。
「準備はよろしいですか?」
「「「はい。」」」
「では、目を閉じてください。数を三つ数えたら、目を開けてください。」
僕達は黙って頷く。
ゴクリと喉が鳴る。
アンジェラ王女殿下を中心に左右に僕とビアンカ様が横になっている。
ちなみに、ビアンカ様とアンジェラ王女殿下。
アンジェラ王女殿下と僕は手を繋いでいる。
僕等は言われるままに、目を閉じた。
「それでは数えます。」
「いーち。」
「にー。」
「さーん。」
『では目を開けてください。』
僕はその言葉に従って目を開けた。
「うっそ?!」
「凄い。」
僕は体を起こし、目の前に広がる光景に驚いた。
さっき迄いたハズの部屋では無く、青空が広がる草原の真ん中にいたのだ。
次回更新は
2021年7月10日(土曜日)20時
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