第六十話 会議という名の査問会の終わりに。
予定通り更新。
「で、もう用件は済みましたね?帰らせてもらいますね。」
さぁ、ここはカッコよく颯爽と帰る所だぞ。
そう思って言った言葉はアッサリと返された。
「待たれよ。たしかに貴殿は強くなったのであろう。少なくとも白羊宮の勇者よりは強いだろうが、ここに居る他の者より強いと言い切れるかな?」
「強い?僕は強さでどうのって話をしていませんけど?」
「ぬっ?!」
「強さなんて、よっぽど僕なんかより強い人は居ますよ。世の中には。」
僕はそう言って会場の端にいる人を見る。
鑑定スキル【超鑑定】によって、鑑定する。
この中では飛びぬけて高いレベル90。
ユリアナ・フォン・ラモーヌ(125歳)さん。
貴族の様だけど、色々とスキルを持っているし、例え黄道十二宮の勇者であっても絶対勝てるとは言い難い。レベル差40は大きいね。
僕の目線を追う黄道十二宮の勇者達。
「僕は、僕という一つの個として、恩返しを終えてから自由にすると言っているに過ぎない。あなた方に迷惑を掛けるつもりもないです。ですが、邪魔だけはしないでくださいね。」
ここで、威圧スキル【王者の威風(マジェスティ―)】を発動する。
ビシッという音が聞こえる様な気がするほどに、会場内の人達の姿勢や顔の表情が変わった。ちなみにマコトさんと僕の従者には発動させてない。
「くっ!」
「ふぐっ!」
「ひっ!!」
色々な声が漏れている。
「散々馬鹿にしてきた人達に、僕から手を差し伸べるほど、僕は寛容じゃない。都市国家オヒューカスの弱みに付け込み、暴利を貪る国に対しても同様だ。とは言え、それは僕個人の感情だ。だから、僕に関わるな。ただそれだけだ。」
先ほど迄、ギリギリで感情を押し殺していたであろう黄道十二宮の勇者達も今は余裕の無い顔になっている。
「では、他に話が無ければ失礼しますね。僕も忙しいので。」
反対する意見は上がらなかった。
もちろん、僕のスキル【王者の威風(マジェスティ―)】を発動してもレジストする人も居るし、抵抗力次第で反応は変わる。
しかし圧力を感じているのは間違いないので、良い顔はしないね。
僕はスタスタと会場を出て行く。
カッコイイと我ながら思っているとマコトさんから待ったがかかる。
「ジュン君。忘れ物だよ。」
「えっ?すいません。ありがとうございます。」
どうやら、僕はハンカチとティッシュを忘れていた様だ。
うん。締まらない。
◇◇◇◆◇◇◇
「カッコ悪。」
「本当にそうよね。」
「らしいって言えば、らしい。」
「流石、ジュン君。」
「・・・ダサ。」
今は評議会を後にして馬車で揺られている。
今回の護衛任務に就いてくれているのは、いつも通りビアンカ様率いる一隊だ。
散々な言われようだけど、まぁ仕方ない。
想像では、もっと平和的な会話が繰り広げられると思っていたのだけど、あんなだったから結果的にこの様な感じとなった。
ちなみに、ケンドラゴの洞窟については間違った事を言ってない。
女神テティス様から言われた事なのだから、間違えようもない。
それに女神テティス様は国樹神様と仲がいい様で、元々考えていた事の様だ。
ただ、それには体の良い言い訳が必要だった様で、僕の存在は願たりの状況だったそうだ。
どんな理由になるのかは不明だけどね。
「それにしても、少しだけスカッとしたわ。」
「そうそう。皆慌てた顔していたもんね。」
「我らを馬鹿にしていた者共の荒れようは嬉しかった。」
どうも、護衛の皆さまも彼らの対応には思う所があったようです。
「あれで、あのままカッコよく退出する事が出来て居れば、隊長のハートはもっとバクバクだったはずなのにね~。」
「なっ?」
「ほんと、ほんと。勿体ない。」
「貴様迄?!」
「まぁまぁ、隊長落ち着いて。本当の事なんだから怒らない。」
「お前迄・・・。ジュン。本気にするなよ?!」
そんなキャイキャイした話を繰り広げる護衛隊の皆さん。
「へいへい。」
「なんだ?その返事は?!そこになおれ!!」
矛先が僕へと向いてしまった様だ。
キャイキャイ感は収まらず、そのまま首都アテナイにある都市国家オヒューカスの屋敷へと着いた。
「さて、おふざけもここ迄。しっかり警護をするわよ。」
「「「「おぅ~!」」」」
喧嘩を売った感じでもあるので、襲撃があり得ると踏んでの対応だ。
そうそうあるとは思っていないけど、あり得るという結論に至ったのだ。
なんせ、貴族世界だからね。
政治が絡むと碌な事にならないね。
◇◇◇◆◇◇◇
「クッソ!糞がぁ!!」
「おい、ケンゴ。落ち着け。」
「これが落ち着いていられるかぁ!」
暴れる男ケンゴ。
それを冷たい目で見る者達。
「ふっ。お前が弱いだけだろう?」
「なに?!」
ケンゴは嘲る者に怨みのこもった眼を向ける。
「実際、私達の目の前でやられていたじゃない?」
「ぐっ!あれは偶々だ!」
一人の女が冷たい微笑をケンゴに向ける。
「まぁまぁ。それ位にしとこうよ。僕達は同じ場所から来たんだから。仲良くね。」
仲裁に入る子供。
「せっかく、彼も強くなったみたいだし、そろそろ本物のリーダーを決めようか?どうだい?」
子供は皆の顔を見渡す。
「うん。異議はなさそうだね。では準備を僕の方で進めるね。」
子供の宣言を聞き、皆は頷きその場を去っていく。
「ケンゴ君。」
「何だ?」
子供がケンゴを掴まえ話す。
「君。弱いね?」
「だから、そんな事はない!あれは」
「偶々だったね~。まぁいいや。次は無いよ。無様な姿を晒したら、わかっているよね?」
先ほどまで無邪気な顔をしていた子供の顔が、ニヤリとした醜悪な笑顔になる。
それをまともに見たケンゴはゴクリと唾を飲み込んだ。
「も、もちろんだ。」
「わかっているならそれで良いよ。それじゃ。」
子供はそのままスッと消える。
存在が無くなった後、ケンゴは力を無くしたかのように、その場に座る。
「くっそ!くっそ!くっそ!!」
何故こうなった?
どうしてこんな感じになった?
それは、アイツの所為だ。
アイツさえ居なければ、こんな事になってない。
そんな答えに辿り着くのにそんなに時間は掛からなかった。
「絶対殺す!アイツは俺が殺す!!」
徐々に、ケンゴの眼は狂気に彩られていく。
そんなに気にする事でも無い事。
ただ、勝手に突っかかって行って負けただけ。
なのに、人一倍プライドの高いケンゴは簡単に狂気の世界へと落ちて行った。
その様子を見ていた子供は醜悪な笑顔を更に深めた。
次回更新は、
明日、2021年6月27日(日曜日)20時
よろしくお願いします。