第五十一話 あんたは待機。
予定通り更新。
「今日は調子が良いわ。」
とか言っている隊長ビアンカ様に相槌を送る隊員達。
「そうなんですよね。いつもより体が軽いというか、何と言うか。」
「貴女もそうなの?私もそう思うのよ。」
そんな会話をしている。
不思議DAYなのだろうか?
まぁ、不調よりは断然良いから問題は無いだろうし、そもそも彼女達が強いのだろう。
正直、いつもより凄いという感想は無いし、それほど見ている訳でも無いから分からない。
「よし。この調子で進んでいきましょう。」
隊長ビアンカ様の指揮の元、ドンドン進んでいく。
洞窟に出てくる魔物を蹴散らしながら・・・。
あっという間に目的地へ着いたようだ。
僕はやっぱり何もしていない。する必要が無かったよ。本当だよ?
で、目の前には大きな扉がド~ンと設置されている。赤い色のそれは豪華という訳では無いが、立派な装いだ。有名な建築家が意匠を凝らした感じのデザイン。
僕には何を表わしているのかは分からないけど、少し圧倒される感じがする。
「立派な扉だね。」
「そうか?確かにそう言われるとそうだな。いつも通り過ぎるだけだからな~。」
どうやらフレヤさんは気にした事が無かった様だ。
どうせ脳筋と呼ばれる種族なのだろうから、この先のボスにしか興味が無かったのだろう。
「さぁ、ここから捜索を始めるわ。フレヤは東、私は西を、キャスとパルルは北、シャルとベスは南ね。終わり次第ここへ戻ってきて。」
「「「「はい!」」」」
「あれ?僕は?」
ジトっと見られた。
「あんたは、ここで待機よ。」
「え~。」
「え~。じゃない。アンタはこの洞窟が初めてでしょう?だから待機よ。」
これは、ダメだ。
はなからそのつもりだったんだろう。
「いい、絶対に余計な事はしないで、ここで大人しくしていてよ?ペリー、頼むわね。」
「はっ!」
「じゃ、散開!」
隊長ビアンカ様に言われて皆が散っていく。
フレヤ様も「じゃ、行ってくる。」とか言って持ち場の東を目指して行った。
「本当に置いて行かれた。」
「ははははは。」
ペリーさんが笑っている。
苦笑いの様な、愛想笑いの様な、よくわからない笑いだ。
ペリーさんは騎馬に乗って来た人だ。
イケメンとはいかないが、整った顔立ちの優男だ。
貴族なのだろう、優雅な立ち振る舞いをする。
「ジュン様も大変ですね。」
「わかる?ペリーさん。」
苦笑いを押し殺した感じでうんうんと頷くペリーさん。
「ええ。見ていれば。」
「昔からあんな感じなんですか?」
やっぱりそう思いますか?と答えた後、ペリーさんは遠い目をする。
どうやら、昔からの知り合いの様だ。
まぁ、小国である都市国家オヒューカスの内部。知り合いであっても何も不思議じゃない。
ベリーさんが言うには、ビアンカ様はお淑やかな淑女を目指し貴族の子女として日々を過ごしていたそうだ。父も母も優しくビアンカ様を見守っており、健やかに成長されていたらしい。そんなある日、事件が起こった。
たまたま、その日のその時にビアンカ様は外出中で屋敷に居なかった。
ビアンカ様が用事を終えて屋敷に戻ると、そこは血に彩られた場所へと変化していた。
その時に屋敷に居た者は全員死んでいたのだ。
優しく見守ってくれていた両親も、二人の優しい兄も、カワイイ弟と妹も死んでいたのだ。
その時ビアンカ様は八歳。
その事件はまだ解決していない。真相は闇の中。
「その事件以降から、彼女は剣を持つ様になったのです。そこからの彼女の研鑽は凄いモノでした。最年少での騎士団入りをし、最年少での隊長就任など、歴史を塗り替えているのです。今では近衛の一人となって王族を護衛する身分になりました。」
ベリーさんは悲痛な感情を表わした顔でそう語ったが、誇らしさも伺えた。
「私は彼女を古くから知っています。ですが、彼女の助けになれた事は一度もありません。」
この時のベリーさんの顔は、純粋な友を思う事からくる感情なのか、恋愛からくる感情なのか、ちょっと分からなかった。
「まぁ、今では彼女を慕う部下は多くあれでも近寄り難い隊長の一人なのです。ジュン様の前ではどうも様子が違いますけどね。」
「えっ?皆の前では、あんな感じじゃないの?」
「ええ。違います。冷酷という訳では無いですが、感情の無い受け答えをする方です。」
「はぁ~?」
新たな事実に僕は驚愕する。
あんなに感情豊かなビアンカが?
あり得ん。そんな事あり得んだろ?!
僕が驚いた顔をしていたのだろう。ベリーさんが微笑みながら、僕に言う。
「ふふふ。私達も驚いているんです。ジュン様が驚かれるのは当たり前ですね。」
「う~ん。納得できないなぁ~。」
「まぁ、そうですよね。私も信じられませんから。けど、今のジュン様に見せる姿が本来のビアンカ様の姿なんです。ジュン様に甘えているのでしょう。」
「うそ?!」
「これからも隊長を、ビアンカ様を宜しくお願い致します。」
そう言って、ベリーさんが頭を下げた。
僕はなんと答えて良いか分からなかった。
ただ、少しだけ、少しだけだが、彼女のビアンカ様のツンに対して優しく見る事が出来る様な気がした。
「でも、置いてきぼりは無いなぁ~。」
「ふふふ。待機も立派な任務ですよ。」
悲痛な表情が消えたベリーさんは優しく笑った。
次回更新は
2021年5月29日(土曜日)20時
よろしくお願いします。