第四十話 料理ってやつは。
予定通り更新。
美味しい。美味しい。
そう言って、マコトさんや僕達は出された食事を食べて、出された飲み物を飲んだ。
どれもこれもが、とても美味しく夢中になって食べた。
シャルマン商会のあのデパートの様な所で食べた食事よりも美味しい。
「やっぱ、お前の所のはうめぇな!食い飽きねぇ!」
ラムザさんのそんな声も聞こえてくる。
えっと、ザバルティさんの所の料理って事だろうか?
この飛行船に連れてきているという事だろうか?
「ジュン君。これは本当に異世界なのだろうか?」
サーモンらしい見た目の刺身を口に入れてから、マコトさんが僕に聞いてくる。
「そうですね。そう思う程の完成度ですね。」
「あぁ。本当に美味しい。」
マコトさんの眼には光るモノが見える。
「泣いているんですか?」
目を軽くこすったマコトさんは自分の涙を確認してから、僕を見る。
「うん?どうやらその様だ。ってジュン君もじゃないか?」
「えっ?」
僕自身も涙を貯めていた様だ。
思い当たる節はある。お袋が作ってくれた日本の味。独身男性の胃袋を掴むならこれだ!と言われるあの料理【肉じゃが】。それを食べた時に、母親の顔がちらつき。そしてそこから父親を思い出し、兄弟を思い出した。つまり、家族の顔を思い出したからだ。
「そうみたいです。あははは。」
僕は右手を頭の後ろに回して後ろ頭を掻く。
「僕達にとっては故郷の味。やっぱり良い物だね。」
「はい。」
僕とマコトさんは、その後も美味しく食事を頂いた。
ちなみに、アンジェラ王女殿下の護衛で乗り込んできた人達にも食事は振舞われている。
皆、夢中になって食べていた。
「あの、この黄色の豆みたいな物は何ですか?大きい大豆じゃないですよね?」
「それは銀杏です。」
「銀杏?!」
「ええ。そうです。」
茶碗蒸しには銀杏だろ?銀杏?
「あんなに臭いモノが?」
驚きの顔だ。
後で聞いた事だが、都市国家オヒューカスにおいては銀杏を食べる習慣が無かった。
そもそも、落ちてくるモノは直ぐに処分されるらしい。
あれだけ綺麗な街並みを保つためには掃除は徹底的だそうだ。
「これだったら、捨てずに食べる様に出来ますね。」
そうだ。食として輸出すれば金になる!
「いや、それは止めた方が良いかも知れないな。」
ザバルティさんが待ったをかけた。意外だ。ここまで無口と言って良いぐらいだったのに。
「銀杏には中毒性があると言われている。食べ過ぎは死の危険すらある。」
「なっ?!」
「小さい子供には特に危険だ。あぁ、大人の体であれば問題はない。それでも一気に何十個も食べればどうなるかは、わからん。」
そうだ。聞いた事がある。危険を孕んだ食材なんだ。
「なっ?!」
アンジェラ王女殿下の護衛がいきり立ちそうになる。
「アンジェラ王女殿下に毒物を食べさせたのか?!」
「まぁ、そんなにいきり立つな。毒物じゃねぇよ。毒性を持っていると言うだけだ。あのジャガイモにもそういうのはあるんだぜ?」
「えっ?!」
ラムザさんの言う通りだ。ジャガイモの芽にも毒はある。
「量を間違えなければ良いだけだ。うめぇ!」
そう言って、ラムザさんはパクリと銀杏串を口に入れた。
串に刺して素揚げして塩を振るだけの簡単料理だ。これがまた絶品だ。
「まぁ、そういう事だ。だから国の輸出品とするには、少しばかり危険だ。」
「あっ、はい。」
そうだな。国の輸出品とするには危ないかも知れない。
「プロの料理人に売るとか、高級食材にしてしまうっていうのはアリだな。まぁ、なかなか難しい課題が多いのは間違いないな。」
渋い顔で締めるラムザさん。
僕とアンジェラ王女殿下も下を向いたのだった。
◇◇◇◆◇◇◇
「ふぅ~。」
あの後、静まり返った空間をラムザさんが賑やかにしてくれた。
踊り子たちが入ってきたのだ。そこからは難しい話は一切なく、皆は今も談笑している。
そんな中、僕はトイレに行く。案内してくれたのはザバルティさんだった。
用を足して、トイレから出るとザバルティさんは待ってくれていた。
「すいません。お待たせしました。」
ザバルティさんは無言で頷くと歩き出した。
しかし、元の場所に戻る感じではなく、奥へ向かっている様な気がする。
「話がある。良いかなジュン殿。」
「ええ。かまいません。」
僕はザバルティさんに誘われるがまま、後をついて部屋に入る。
中にはメイドさんらしき人が立っていた。
「どうぞ、こちらへ。」
部屋の中央にあるソファを勧められた。
僕がそのまま座ると、ザバルティさんはテーブルを挟んだ対面に座った。
目の前にはメイドさん飲み物を用意しておいてくれた。
「ジュン殿。単刀直入に言う。」
「はい。」
「すまない。」
「えっ?」
急な謝罪。意味がわからない。どうしたのだろう。
「ザバルティ様。それでは伝わりませんよ。」
ザバルティさんの少し後ろに立った女性が諫める。
改めてメイドさんを見たのだが、透明感のある美女だった。
しかもスタイルが良い。上品な服に包まれているが、それ以上にその人自身から放たれる雰囲気に気品が感じさせられる。神々しさまで感じさせられる。
「そうだな。君の能力を勝手に見させてもらった。」
「えっ?!」
鑑定持ち?でもいつの間に?
鑑定されると、なんかこうゾワッっとするというか、見られているとわかるんだけど、そんな瞬間は何処にもなかったハズ!
「すまない。」
そう言ってザバルティさんは深く頭を下げたのだった。
次回更新は、
2021年5月1日(土曜日)20時
よろしくお願いします。