第四話 【永遠の二番】
『平常心回復』
ファフニール王女の後ろに控えていた巫女さんみたいな女性がそう唱えると、一瞬だけど僕の周りが輝くと僕の心は落ち着いた。が、僕の口は開いた。
「ま、魔法?!」
「はい。心を落ち着かせる魔法です。」
き、来たぁ~!異世界転移で魔法のある世界。
あっいけない。平常心平常心。また魔法を使わせるとか失礼だよね?
・・・夢なのだろうか?
「マコトさん!僕を叩いてくれませんか?」
「なんで?」
驚きながらも、僕を優しい目で見てくれるマコトさんは、一度頷いて僕の頬をひっぱたいてくれた。
「あっ!」
「いてぇっ!」
痛い!物凄く痛い!これは現実だ。
魔法が使えるかも知れない。・・・あっ、どうやってたら帰れるんだろう?
僕が喜んだ顔になったり、疑問顔になったり、動揺した顔になっていたのかもしれない。
「ふふふ。ジュン様は面白い方ですね。」
「ははは、本当に。」
「えっ?」
僕の様子を見ていたらしいファフニール王女とマコトさんが笑いながら、僕への感想を述べた。
ファフニール王女の後ろいた男の人と女の人も声には出してないが、笑っていた。
「ところで、称号はどうなっていますか?」
えっと、称号称号っと・・・なんだ?これ?
「あの間違いなく称号の所に出るんですよね?」
「はい。」
だよね。つうかさ、この世界に来てまでこれは無いんじゃないかな?
「で、どの黄道十二宮の名前がありますか?」
「えっと、称号は、はぁ。」
「ん?」
「【永遠の二番】という称号です。」
僕の発言を聞いて皆が、一端えっ?という顔になった後に噴き出す。
「そんなバカな?」
「ありえません。」
「冗談は止めてくれよ?」
「面白すぎます。」
笑い声が、巻き起こる部屋。
しかし、僕の顔が泣きそうになっている事に気づいたマコトさんは急に真顔になった。
「ジュン君。もしかして冗談ではなく?本当の事かい?」
「・・・はい。」
「うそ!」
「マジか?」
「本当なんですか?」
先ほど迄、笑っていた面々がそれぞれ真顔に変わる。
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称号:【永遠の二番】
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「今までそんな事は一度もありませんでした。複数の召喚があっても必ず何処かの黄道十二宮の称号がありました。これはどうした事でしょうか?」
「わかりません。アテナ神様に伺いに行ってきます。」
ファフニール王女にそう告げると、巫女さんらしき女性はバタバタと走って部屋を出て行った。
その後、鎧を着た男の人がファフニール王女に何かしら耳打ちした。
「そうですね。先ずは王に報告をしておきましょう。バディ団長、お願いしても良いかしら?」
「かしこまりました。」
こうして、バディ団長と呼ばれた男の人も部屋を出て行った。
残されたファフニール王女とマコトさんと僕の間には気まずい空気が流れた。
「【永遠の二番】って何ですかね?」
頑張って明るく振舞おうと僕は笑いながら切り出した。
二人も気まずいと思っているのかもしれない。その反応に苦笑いになってしまった僕も黙る。
「ジュン君。ちょっと気になる事があるんだけど、聞いても良いかな?」
「はい。」
マコトさんが思案顔で僕の方へ顔を向けてきた。
うっ!イケメンは思案した顔はさらにカッコいい。あっ、ファフニール王女の目がキラキラしてる。
「君の加護が知りたいんだが、どんな加護がついている?」
「えっと、加護ですね?加護、加護っと。」
自分のステータスを見ると、加護というのは無かった。
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称号:【???の寵愛】
【???の??】
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「加護って言うのはありません。なんか、【???の寵愛】と【???の??】というのがあるだけですね。つうか、これって何ですかね?」
「寵愛ですか?ですがクエッションマークじゃわかりませんね。」
ファフニール王女が反応したのだが、質問してきたマコトさんは険しい顔になる。
「マコトさんどうしました?」
「いや、僕には【アテナ神の加護】というモノが称号にあるんだ。たぶん他の国で召喚された人にも在る筈なんだ。現実に僕がお会いしたアテナ神様がそうおっしゃっておられた。」
「そうでした。歴代の勇者召喚の儀式により召喚された方々は皆【アテナ神の加護】持ちです。」
「って事は?」
「君はアテナ神様にお会いしていないという事になる。」
「まぁ!」
ファフニール王女は口を押えてしまう。
マコトさんも険しい顔のままだ。
「アテナ神?」
「そうだ。アテナ神様にお会いしてここに来るというのが普通のはずなんだ。」
「じゃあ、僕は誰に呼ばれて、何の為にここに来たんですか?どうしたら良いんです?!」
二人は黙りこんでしまった。
そりゃあ、そうなるよね。でも、その時の僕は混乱するばかりだ。
「ファフニール王女!どうにかしてください!僕を元の世界に戻してください!!」
「ごめんなさい。それは出来ないのよ。」
「何でですか?!」
「ごめんなさい。」
どうも、勝手に呼び出しておいて、こちらの都合は聞いてもらえないらしい。
「ジュン君。落ち着け。必ず何とかしてくれるさ。」
マコトさんが優しく僕を宥めてくれる。
一体、僕は何故、この世界に来てしまったのだろうか?
アテナ神様の失敗なのだろうか?
「とにかく、今日はお二人をお迎えできたパーティーを開く事になってます。送還については、私の方からアテナ神殿の方へ責任もって問い合わせますから、少し待ってください。」
「わかりました。」
僕は少し落ち着いた。
どちらにせよ、異世界に来てしまった以上、今すぐにどうにかなる訳じゃない。
そう自分に言い聞かせて理性で落ち着かせた。
僕はこの時、まだ帰れると思っていたんだ。でも現実は厳しい。