第三十七話 価値あるモノ。
予定通り更新。
情報の重要性は地球においては古の時代から戦略的価値の高いモノである。
価値としては、最上位といっても過言ではない。
それは、戦争以外においてもその価値は変わらない。
如何に正確な情報を早く手に入れるのか?それが色々な場面で勝敗を決めている。
【敵を知り己を知れば百戦危うからず】
向かう相手の実情と自分の実力を正しく知ることで、負けない戦い方ができる。という意味。
有名は言葉だ。紀元前500年頃とされる中国春秋時代の軍事思想家が作ったとされる『孫子の兵法書』の一節である。その『孫子の兵法書』とは古今東西の軍事理論書の中でも有名な書物である。つまり紀元前500年頃には、情報というモノの重要性と価値を見出していた事になる。
そして現在でも、その情報の正確性とスピードの重要性は変わらず、情報の価値は更に増していると言っても過言ではない。
正しい情報を如何にして人より早く手に入れる事ができるのか?
正確さと鮮度によっては、莫大な富や利益を得る事が出来るのである。
それを体現できるツールが、この中世ヨーロッパよりも低そうな文明レベルで、現代地球と同程度のモノがある事がどれだけ有利なのか?
あながち、噂でしかないと思っていたが、『シャルマン商会が世界を牛耳る』というのも間違いでは無いのかもしれない。そんな商会長とこれから会うというのだから、緊張してしまうのも仕方がない事だろう。
結果的にその装置は見せてもらう事は出来なかったが、あの上空に見えるモノが近づいてきている所を見ても、間違いないのだろう事は想像に難くない。
「後、30分という所でしょうか?」
「あの箱みたいなモノに乗っているんですか?」
「ええ。そうでございます。」
リスターさんとアンジェラ王女殿下が交わした言葉だ。
僕とマコトさんはお互いの顔を見てしまう。
「あれは、飛行船ですよね?空を飛んでいますもんね?」
「うん。間違いないと思うよ。」
僕とマコトさんの意見は一致した。
僕達は飛行船が見える場所であり、迎える事が出来る広い場所へと来ている。
災害がこの都市国家オヒューカスを襲った時に出来た開けた場所。
元々は家屋があったらしいが、今は更地だ。
飛行機であれば、発着の場所を選んでしまうが、飛行船であれば、広ささえある程度あれば、発着できる。滑走路が無くても問題ない所が長所だ。短所は飛行機より遅いスピードしか出せない事ではないだろうか?まぁ、この世界には魔法がある事から、魔法で解決する部分が大きい気がするけど。
「大きいですね~。」
「はい。全長は180メートルですからね。それなりの大きさですね。」
「えぇ~?!そんなに大きなモノが空に浮かぶなんて?!あっ?すいません。」
驚きすぎている自覚があるのか恥ずかしそうにしたアンジェラ王女殿下に優しい笑顔を向けるリスターさん。
「私も初めて見た時は、驚きましたよ。」
「本当ですか?」
「はい。私はもっと酷くて腰が抜けてしまいました。ふふふ。」
「あら、まぁ?!」
アンジェラ王女殿下への気遣いをしつつ受け答えするリスターさんは、不思議な女から出来る女へと変わっていた。女は女優と良く言うけど、相手によって見せ方を変える事が出来る存在であるリスターさんは少なくとも頭が良いのだろうなと思う。
「乗ってみたいなぁ~。」
目を輝かせて願望を言うアンジェラ王女殿下。
高い所とか怖くないのかな?僕は苦手だな。
落ちてしまったらとかを、どうしても考えてしまう。
簡単に落ちるとは思ってないけど、想像は膨らんでしまう。
ましてや、自分でどうにか出来るレベルを越えていると余計に考えてしまう。
「気持ち良いだろうね。僕も乗ってみたいなぁ~。」
何と?!マコトさんも乗りたいですと?!
マコトさんの眼は眩しいモノを見ている様な感じになっている。
「ええ。気持ち良いですよ。」
ふふふ。と笑うリスターさんは僕を見る。そして近づいてくる。
息が掛かる掛からないぐらいの近さで、僕にささやく。
「ジュン様はどうですか?」
「えっ?僕は乗りたくはないかな?」
「あら?どうしてですか?」
「正直、高い所は苦手なので。」
「そうでしたか。それは残念ですね。空の上の解放感はとても気持ち良いんですけどね~。」
リスターさんの眼が、獣が獲物を狙う目になっている気がする。
「あははは。そうなんですね~。」
僕はそっと、リスターさんから距離をとる。
そうこうしている内に、飛行船はグングンこちらへ近づいていて気付き始めた住民が窓から顔を出してみている。外を歩いている人も空を眺めている。
そして飛行船は僕等の目の前まで来て、着陸した。
ゆっくりと、ふわりという感じでの着陸だ。
魔力反応があった事から、魔法の力も使っているのだと思う。
昨日も思ったけど、魔力の高まりとか、魔力の動きが前よりも感じやすくなっている。
朧気に見えていたモノが今はハッキリと見えるという感じになっている。
僕は少しずつ成長しているみたいだ。
飛行船のハッチが開く。
その中から、黒髪の男の人が出てくる。そしてその少し後ろから、真っ赤な髪の美女も降りて来た。リスターさんはいつの間にかその黒髪の男の人の所へ行っている。あの銀髪銀眼の男の人も同じく一緒に居る。少しして、黒髪の男の人が僕へと視線を移すと、スタスタとこちらへ来る。
「初めまして。アンタが、ジュン様だね?俺がシャルマン商会、会長のラムザだ。よろしく。」
ニカっと笑顔になると握手を求めてきた。
男らしさが滲み出る人って感じだ。
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
僕はその男らしいゴツゴツした手を笑顔で握り返した。
次回更新は
2021年4月24日(土曜日)20時
よろしくお願いします。