第十六話 同じ様な体験。
「で、オヒューカスはこれから、どうするのですか?」
「そ、それは・・・。どうしましょうか?」
「はぃ~?」
真正面から聞かれた。僕の質問を質問で返された。
「ですよね?それを考えるのが王族ですよね?わかっていますよ?わかっていますから!」
逆ギレか?
でも本当にどうしたら良いのか、悩んでいるのだろう。
顔が100面相の如く、変化している。あれ?それも、おかしくないか?
少しの間、沈黙が支配する空間。
気まずい。これは、話題を変える必要がある気がする。
僕は一度、咳払いする。
「で、僕の支援をするって思ったのですか?」
「前日に夢で見たのです。」
「はぃ~?」
本日二度目のはぃ~。
で、そこから詳しく話を聴く事になったのだが、夢の中でアンジェラ王女は、イチョウの木の下で綺麗な女性と出会ったらしい。
その時にその女性から、イチョウの木が好きな殿方の手助けをしなさい。
と言われたらしい。そしてその場で頷いた。
それが、何処で誰なのか聞いても答えず、ただ笑っていたらしい。
凄くアバウトな夢。
確かに、あの時聞かれた事を思い出す。
『ジュン様は、イチョウの木は好きですか?』
確かに、聞かれた。そして『好きです。』と答えた。
「それで、あの時に聞かれたのですね?」
「はい。何かピンときまして聞きました。」
なるほど、夢ね。
やっぱ、この王女様はヤバいんじゃないか?と思う。
だってそうだろう?
夢で知らない人に言われたからと言って、普通、現実でその通りに行動するか?
あり得ないだろ?
「やっぱ、変ですよね?そうですよね。」
「えっ?変だと思っているのですか?」
少し睨まれた。
「当り前じゃないですか?私だって普通ならしませんよ。だけど、あの時は後ろからこの人って言われた気がしたんですよ?本当ですよ?嘘じゃありません!」
「あっ、はい。」
「何ですか?その目は?信じてないでしょう?」
「いやいや。信じていますよ?」
いやいや。どう考えてもおかしいだろ?
あれか、あれなのか?この王女様は残念な子か?
初めは凄い王女かと思ったけど、違うのか?
「怪しいですね?まぁ良いです。どうせ、もう支援する事は決まっちゃいましたから。」
何か、自暴自棄に陥っているのではなかろうか?
目が据わっていらっしゃる。やだ、怖い。
と、ふざけるのは止めにしよう。
「その、夢の中に現れた女性ってどんな感じだったのですか?」
「とても綺麗な色白の人だったわ。」
「なるほど。」
あの夢に出てきた人みたいだ。
僕はあれを夢だと思っている。不思議な体験の事だ。
たしか、あの時もイチョウの木の下であったはずだ。
「どうしたの?そんなに気になる?」
「ええ。はい。まぁ僕も変な夢?を見たので。」
「どんな夢?」
と聞かれて、僕は素直に覚えている事を話した。
城をフラフラしていたら、名前を呼ばれて、呼ばれた方へと行くとイチョウの木の下で、真っ白な女性に会った事。謝罪をされた事も伝えた。
「凄く不思議な体験ね。」
「はい。そうですね。僕は夢を見たのだと思っています。」
「夢ね?そうかもしれないけど、本当に夢なのかしら?私の夢と伝えたけど、不思議な体験だと思ったの。だってイチョウの木の前に居たと思ったら、次にはベットで横になって居て、メイドに起こされていたのですもの。」
「はぁ?それ、全く一緒じゃないですか?」
「でしょう?不思議な繋がりね。」
「いやいや、偶然にしてはオカシイでしょう?」
「確かにそうよねぇ。神様か何かかしら?」
「それ、霊的なモノを言っています?」
「ええ。そうよ?」
不思議そうな顔で僕を見るアンジェラ王女。
あれ?あぁそうか。こっちの世界は神様が存在するのが当たり前だったな。
まだ、それには慣れないな。
僕は会った事ないからな。マコトさんは会ったと言っていたっけ?
「すいません。そうですね。神様かもしれませんね。僕はその後にこの手の甲に紋章みたいなのが出来ましたからね。」
「えっ?」
僕は左手の手袋を外して甲を見せた。
「これは?!」
「どうしたのですか?」
「いえ。国に着いたら、見せたいモノがあります。それまではその甲にある紋章は隠しておいてください。」
「ええ。はい。」
「これは、凄い事になるかもしれません。」
「ど、どうしたんですか?」
「いえ。独り言です。ごめんなさい。」
凄く真剣な顔で考え事を始めるアンジェラ王女。
この後、次の街に着くまでは会話が出来なかった。
いや、何を聞いても「うわの空」で聞いていないって感じだった。
この紋章を見せた後から変だった。
この左手の紋章には何かあるのだろうか?
僕が手袋をする様になったのは、この紋章を見た人が刺青だと勘違いされるのが嫌で隠すために手袋をする様になったのだ。
やっぱ、見せるべきじゃなかったかな?
刺青していると思われたのかも?
この世界の常識がまだちゃんとわかってないから嫌われたのかな?
まぁ考えても仕方ないか。
有るモノは消えないから。
そう考えていたのだけど、次の街に入って一泊した。
次の日からは、普通だった。ここまで変な様子はない。あの時だけだった。
もしかしたら、そういう態度はダメだと思ったから普通に接してくれているだけかもしれないけど。
まぁ、こればかりは他人の頭の中の事だ。
考えても仕方ない。
僕は、そう思う事にした。
そして、僕等を乗せた馬車は都市国家オヒューカスへとついたのだった。
次回更新日
2021年2月13日土曜日です。
よろしくお願い致します。