第十一話 異世界の百貨店。
あっ!キランって眼鏡が光った。
「ふふふ。やはりあなた方は転移者・・・いや、巷で有名な勇者召喚された方々ですね?」
「なっ!」
僕が驚きを表すと、マコトさんが僕の口を手で塞いで、キッとした視線を店員さんに向ける。
「ふふふ。正直な方ですね。あぁ、安心してください。あなた方の邪魔をしようとしている訳ではありませんから。困った事があれば、私共、シャルマン商会へとお越しください。どこの支店でもかまいませんわ。自身が転移してきた者である事を店員に伝えて頂き、会長をとご指名頂ければ、お助け致します。会長の名は、ラムザでございます。では、ごゆっくり。」
そう、眼鏡を外してその綺麗な顔を見せつける様にウインクをして、マコトさんと僕を置いて離れる。
「そうそう忘れてたは、私の名はリスターよ。マコトさんとジュンさん。」
少し離れた所でふと立ち止まった店員さんはこちらに振り返るとそう言って、立ち去った。
「かなり出来る人だ。」
「えっ?!」
マコトさんは険しい顔している。額に汗がにじんでいるのが分かった。
「そうなんですか?そんな出来る人が味方になってくれるかもしれないなんて、少し気が楽になりますね。」
「えっ?そうか。そうだね。そう思うと嬉しい事だね。あははは。」
あれ?僕とマコトさんは感じた事が違ったのだろうか?
「いや。そうだね。ジュン君の言う通りだ。うん。」
先ほどの険しい顔が落ち着き、愉快という言葉が似合う笑顔になったマコトさん。
綺麗だ。うん。やっぱこの人は、明るい顔の方が良い。あれ?綺麗な顔?
・・・いやいやいや。僕は自分の頭を強く振る。男に興味は無い!!と心で強く叫ぶ。
「さぁ、緊張が解けたら、少しお腹が空いたよ。上の階に行って何か食べようか?どうだいジュン君。」
「良いですよ。何がありますかね?」
「どうだろうね。期待して良いんじゃないかな?」
僕達は少しウキウキな気分で三階へと上がった。
そこは僕の予想超えた場所だった。
「うそ?!これはホテルのレストランみたいな所になってませんか?」
「そ、そうだね。凄く品が良い場所だね。」
幾つかのお店があるのだけども、何処も上品な感じな造りで高そうな場所だ。
お金が足りるのだろうか?そこが心配になる。
すると、ツカツカと音をさせて、秘書らしき人が僕らに近寄って来た。
「いらっしゃいませ。マコト様とジュン様でございますね?」
「は、はい。」
秘書らしき方がニコッと笑う。
「本日は、お二方は会長からのプレゼントとして、好きな場所でお食事をして頂ける券を預かっております。どうぞ、お納めください。」
「いや。僕らは特に縁があるとかじゃないんですけど?」
「そうだとも。何かを貰う様な事はしていない。」
秘書さんらしき人はキョトンとした。
そして、笑い出す。
「まぁ、リスター様がおっしゃられた通りの方々ですね。ふふふ。気になさらなくて大丈夫ですよ。会長からの指示ですから。『同郷のよしみ』だとおっしゃられてました。」
そう言って、秘書さんらしき人は僕の手にチケットを二枚握らせた。
ここでもウインクされてしまった。ぼっそっと、『可愛い♪』という言葉が聞こえてきた気がするが気のせいだろうか?
「では失礼します。」
そう言って去ろうとする。
「ちょっと!?」
声をかけても、うふふと言ってわっらって去って行く。
「どうします?これ。」
「う~ん。貰った物は使う方が良いかもしれないね。ただ、ちょっと怖いね。」
「ですよね~。」
貰ったチケットを見ながら悩む僕達。押し付けられたとも言うかな?
「まぁ、折角だし使っちゃいましょうか?それに何かあれば、逃げれば良いでしょう?」
「くっくっく。やっぱりジュン君は面白いね。OK。使っちゃおう。」
ちなみに、チケットをよく見ると。
≪シャルマン商会・ガリレオ支店内の飲食に限り、数量・注文数関係なく無料。≫
と書かれていた。うん。やっぱヤバいんじゃね?と思ったが、マコトさんはもう店選びに入っていたので、僕も気にしない事にした。
「やっぱ、和食があるみたいだね。それにフレンチやイタリアンもあるね。」
「あそこを見てください。中華もありますよ?!」
「本当だね。」
「あっ?!あそこはラーメン屋ってありますけど、もしかして?ラーメンが?!」
「ジュン君。あっちは鉄板焼きって書いてあるぞ?!しかもその向こうは寿司専門店?!しかもその向こうは蕎麦屋さん?!」
僕達は興奮しすぎて、会話がおかしくなっていた。
それに気づいた僕らはお互いを見て笑った。
「くくく。ジュン君。これなら、この世界でも何とかなりそうだね。」
「そうですね。」
高級店の並びにラーメン屋や蕎麦屋があるのは何か変な感じだけど、食という事を考えたらありなのかもしれない。あくまでも日本人向けだけどね。
「どうしようか?」
「そうですね。久々の和食系もいいですけど、こういう所のフレンチとかイタリアンって食べてみたいですよね?」
「そうだね。折角貰った無料チケットだから、高級そうな店にしようか?」
「なら、高級と言うなら、寿司でも良いんじゃないですか?」
「じゃあ、どうする?お互いに行きたい店をとりあえず言ってみるのはどうだい?」
「良いですね。折角なら同時に言いませんか?」
僕らは周りを気にせずはしゃいだ。一か月とは言え、慣れ親しんだ料理や景観から離れた時間は長く感じていたのだろう。今は慣れ親しんだ空間に戻ってきているかのような気持ちになっている。
「じゃあ、一緒にせぇの。」
「「寿司!」」
意見は一致していたようだ。
こうして僕らのランチは寿司になった。
久々の本格的な寿司は本当に美味しかった。涙が出る程に。
「また来よう。」
「はい。また来ましょう。」
そんな約束までしたよ。
その後、デパートの様なこの建物内を隈なく歩いてみて回り、まだある時間を使ってイタリア風の街並みを堪能した。ようやく城に帰ったのは日が沈んだ後だった。
楽しかった一日の終わりは、僕ら専属のメイドさん方からの長い小言だったけどね。
あ~楽しかった。
次回は2021年1月30日土曜日更新予定です。
よろしくお願いいたします。