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第百五話 『いただきます。』

予定通り更新。


木陰になる屋敷の一室。

緩やかな風が花の香りを室内に運び込む。

花の香りと共に食欲を誘う匂いが交じりだす。


「もうお昼かな?」


「はい。準備が出来ました。こちらでお食べになられますか?」


「いや。ダイニングルームに行くよ。皆と食べたいからね。」


「かしこまりました。ではダイニングルームに準備しておきますね。」


「うん。」


ジュンは目の前の資料から目を離して外を見る。

和風庭園が望める場所。

見晴しの良いこの部屋がジュンの執務室である。

考え事をするにはこの落ち着いた雰囲気が良いとジュンは思っている。

実際、庭を見るだけでも落ち着けるのは彼が日本人だからなのかもしれない。


10分程経ってからジュンはダイニングルームへと向かった。

ダイニングルームは一階に用意されている。

ジュンの部屋と同じく和風庭園を見る事が出来る場所だ。

もちろん高さが違う為、見え方も違ってくる。


ダイニングルームには大きなテーブルが用意されている。

そして座布団が並んでいる。

畳がひかれたダイニングルームは家族の為に用意されたモノである。


「もう少ししたら寒くなるかな?」


まだ暑さは残っているが、冬が近づいているのも間違いない。

海が近い都市国家オヒューカスは温暖な気候であるが冬は来る。

冬になると襖を開けっ放しとはいかないであろうなとジュンは思った。

いくら魔道具による空調が効いていても冷たい風は入って来る。


「雪見障子が必要かな?」


「ゆきみしょうじ?」


「ああ、ごめん。」


リリーの言葉で我に返ったジュンは目の前の机に食事が用意されており全員が席に着いている事に気がついた。


「では食事にしよう。いただきます。」


「「「「「「「「いただきます。」」」」」」」」


合掌をして『いただきます』の言葉を言うのは食事を始める合図となっている。

日本人スタイル。

日本人なら誰しもが、知っている。

教えられた事がある一連の作法である。


最初は皆が不思議そうにしていたが、『いただきます』を言う意味を知った者から始めて、今では皆でする事になっている。


ジュンが教えた何故『いただきます』というのかの理由として二つ上げた。

1つめは、食事に携わってくれた方々への感謝。

2つめは、食材への感謝。

つまり、『感謝する』という心を表わす挨拶であると教えたのである。

それを改めて思い出したジュンは目を見開く。


「そうだ。そうだよ。これを軸にしよう!」


「どうしたのですか?」


「あっ?!ごめん。学校の事を考えてしまってね。」


驚いた顔で見る皆に謝罪を言葉にして笑うジュンに、『仕方ないなぁ~。』という顔で反応するリリーやレイカ達や、クスクス笑う子供達を前にジュンは恥ずかしくなり頭を掻いた。


家族団欒。

食事を食べながら、雑談をしながら笑い声が絶えない。

流石に食事中に大騒ぎする様な子は居ない。

食事が美味しいのと食事に飢えた経験がある子達だからだ。


微笑ましくも感じながら、どこかやるせない気持ちがジュンの胸を占めていく。

同じ様な悲劇が起こらない様に、起こっても少なく済むようにしなければいけない。

そう考えながらジュンは美味しいコロッケを口に入れた。




食事を終えたジュンは一人で屋敷を出る。

そのままシャルマン商会女神交差(ゲッティンクロイツ)区支店へと向かった。


「リスターさん。今から指名する五人を順番に面接部屋に連れて来てください。お願い出来ますか?」


「ええ。構わないけど。」


「じゃあ、お願いします。」


ジュンはそのままズンズンと面接会場へと入ってしまった。

リスターは驚きを憶えたモノの、リスターの主であるラムザはいつも突然なので反応するのに時間は掛からなかった。


直ぐに、ジュンが指名したメンバーの名前を見てニヤリとした。

そして部下に指示を出してリスター自身は面接部屋に足を運んだ。



指名した五人の二次面接を終えたジュンは深く息を吐いた。

リスターは飲み物を用意して戻ってくるとジュンへと顔を向けた。


「で、どうだったのかな?」


「はい。決まりました。というか、突然のお願いだったのに対応して頂いてありがとうございました。」


ジュンは深々とリスターに頭を下げた。

リスターは『ふふふ。』と満足げに笑うと『良いのよ。』と答えた。


「で、誰にするの?」


「はい。スカニアさんに理事長をお願いしようと思います。」


「理事長?学園長ではないわよね?」


「そうですね。学園長ではないですね。その上から指示出来る立場ですね。」


「へぇ。そんな立場があるんだね。」


「はい。理事を他にもお願いするつもりですけど、基本的な運営を全て任せようと思います。」


「ふぅ~ん。ジュン君はしないの?」


「う~ん。理事ぐらいはするかもしれませんけど、理事長はしませんよ。」


ジュンは発案者であって経営者では無い。

自分は地球での知識を持っているだけに過ぎず、運営や経営が分かる訳では無いと思っているのである。


「出世はもう良いの?」


「いや。そもそも出世は要らないです。今も仕方なく受けているだけですから。」


「そうなんだね。」


「はい。ただ物事を動かそうと思えば、地位はあった方が良いのはよく分かりましたけどね。それでも忙しくなるのは嫌ですね。スローライフが良いですよ。」


「えっ。そうなの?生き急いでいる様に見えなくも無いんだけど?」


「そう見えています?」


「うん。見えているよ。」


苦笑いを浮かべるジュンは『それも今だけですよ。』とリスターに言った。

『そうは思えないよ。』とリスターは返した。

リスターは知っているのだ。

優秀な者に休む暇は来ない事を。

だから、その手助けをしてあげようと心に誓った。

この優しい男の手助けを。


次回更新は

明日、2021年10月24日(日曜日)20時

よろしくお願いします。

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