第百話 欠損奴隷。
予定通り更新。
「そうか。改めて挨拶は必要か?」
「いえ。」
彼女は一人一人ジュン達の顔に視線を合わせ、名前を呼んだ。
そして視線を戻し、ジュン達の前へと進んだ。
「武器を持たせた兵は下がらせました。改めて謝罪します。」
「良いだろう。謝罪を受け取ろう。で、お前は何が目的だ?」
ラムザはストレートな質問をスカニアへする。
スカニアは一瞬、視線をマンドナに向けてからラムザへと戻した。
「私は噂を聞きました。欠損者が使徒様に治されている。奇跡を行使されていると。」
「・・・。」
「その噂が真実であるとは思えなかった。しかし試してみる価値はあると思いました。そんな時に今回の話が来た。チャンスだと思いました。」
「で、試してみたと?」
「・・・はい。」
ラムザの顔色が変化した。
「わざわざ呼び出して、人を試すだと?何様だ?」
ブワッとラムザから圧力が発っせられた。
怒気と威圧の混ざった圧力はグンとスカニアとマンドナに襲い掛かる。
「「うっ!」」
圧倒的なプレッシャーを与えているラムザの顔は憤怒の表情である。
しかし、それでもマンドナは一歩前に足を出した。
「お許しください。わっちが発案したモノです。スカニア様は悪くはありません。」
「違うよ。マンドナ。これは主である私の責任なのだよ。」
「ですが!」
マンドナの言葉に弱々しく首を振るスカニアは覚悟が決まっている様子である。
マンドナは激しく後悔した。
ここまで圧倒的な強者であるとは思っていなかったのである。
マンドナも代表者として顔を売ってきたのである。
この闘技都市ライアンにおいて幾度も危ない橋を渡っている。
主であるスカニアの代わりとして、幾つもの危険をクリアしてきたのだ。
だが、ラムザ達はそれらとは一線を画していた。
圧倒的強者である事を理解させられた。
圧倒的強者の前では法やルールなど無意味である。
ましてや一介の商人ではより一層意味をなさない。
死を目前に感じながらも、何とか対応しようとしているだけマンドナは凄いと言える。
「まぁ落ち着こうよ。」
「しかしだな。」
「私達にも理由がある様に、彼等にも理由があるのさ。それだけ臆病にならなければ、この闘技都市ライアンで勝ち抜けなかったということさ。」
ザバルティは落ち着いてラムザを説得する。
ラムザが激高した理由は、上下関係のそれである。
世界一のシャルマン商会が、一地方の商人に呼び出された。
それも本来の目的以外の上に、試すという行為をおこなった。
馬鹿にするにも程があるというヤツである。
しかしザバルティはそこを理解した上で、落ち着こうと言っているのだ。
こんな事で揉めても利益にならないだろうと諭したのだ。
“利益”
商人にとって一番気にする事であり、重要な事だ。
ラムザは純粋な商人では無いので、この利益をないがしろにする傾向があるが、それでも商人の端くれであるという気持ちはある。
そこを諭す説得であった。
『わかったよ。』とラムザは矛を収めた。
ところで、とザバルティは視線をスカニアとマンドナに向けた。
「今回は、こちらのジュンが学園長となる人材を探している。その様な人材は今居ないという事で良いかな?」
「はい。」
「では、ここに居る欠損奴隷を全員買い取ろう。その代わり、学院長となれる存在を探して欲しい。これで良いかな?」
スカニアは一度、目を瞑った。
そして少しして目を開くと頭を下げた。
「・・・わかりました。マンドナ。全員を連れて来なさい。」
「ですが。」
「聞こえませんでしたか?」
「申し訳ありません。直ぐに連れて来ます。」
「頼みましたよ。全員ですよ?抜けが無いように。」
「は、はい。」
スカニアがマンドナに指示を出すとマンドナは慌てたように部屋を後にした。
「未練は無いのか?」
「無いと言えば嘘になるでしょう。」
「わかった。後はマンドナという者が引き継ぐのだな?」
「はい。彼女には全てを教えてあります。この後も上手くやるでしょう。」
「随分と信用しているのだな。」
「ええ。」
爽やかと言える笑顔で答えるスカニアにラムザは視線を外した。
「ちっ。なら今回の事は水に流してやる。」
「ラムザ殿。感謝します。」
その後、マンドナが欠損奴隷たちを全員連れて部屋に戻って来た。
「遅くなりました。こちらで全員です。」
「18名だな。」
「いえ。17名ですが?」
「マンドナ。18名で良いんだ。」
「はい?えっ?まさか?」
「そのまさかだ。私を含めて18名だよ。」
「そ、そんな!どういう事ですか?!」
響き渡る絶叫。
マンドナは必至に翻そうとした。
しかしスカニアは頑として受け入れなかった。
「ここからは、正真正銘マンドナがこの商会のBOSSだ。私はマンドナに譲るよ。」
「しかし!」
「これがマンドナに贈る最後のプレゼントさ。今までありがとう。」
「わかりました。わっちは貴女が戻ってくるまでここを守っています。」
「好きにしてくれて良いさ。それはマンドナの自由だ。」
「はい!長い間ありがとうございました。」
欠損奴隷達18名を乗せた馬車はゆっくりとティックアート商会を後にした。
「あの。僕は必要でしたかね?」
「ジュン殿。私も同じ様に思っていました。」
ジュンとチャンプリンはお互いを慰め合い、意気投合したのであった。
その二人を横目にザバルティとラムザは笑い合った。
次回更新は
2021年10月9日(土曜日)20時
よろしくお願いします。