8:大いなる魔の王
毎日来てくださっている方が居るのを知り嬉しくなったので2本目です。
俺が倒れたのと、山を登って時間が経っていたのもあって爺さんが家に泊めてくれた。
あの爺さんの料理が普通に上手いのがなんだか不思議だったが、不思議そうに食べていると後ろからバシバシ叩かれた。
いや、美味しゅうございました。
それと、爺さんから渡された刀は驚くほどよく斬れて、そしてとても扱い難かった。
「うへぇ、こりゃ、俺に渡すもんじゃないなぁ。」
爺さんから刀を受け取った俺はそれの調子を確かめながら山を降りている。
そういえばアビたんはどんなものを作ってもらったのだろうか。
「ダメなんですか?勇者さん。」
「ダメっていうかね、死ぬほど使い難い。
斬りたくないものまで斬りかねない。」
斬れすぎる刀は何かを間違わせるには十分だ。
「魔剣?」
アビたんが首を傾げている。
可愛い。
「そんな感じかなぁ。確かにこんなもんできたらあの爺に振らせてみたくもなるよ。」
斬れすぎる刀とどんな鈍刀であろうと斬ってしまう爺。
側から見るとただの悪夢である。
しかし、あの人なら多分この斬れすぎる刀でも自在に斬り分けるのだろうと思う。
「こういうもん作るから試し斬りとか言って魔王が斬られるんだよ…」
「魔王?」
アビたんが首を傾げながら聞いてくる。
可愛い。
キューロックさんの目線が冷たい。
「そう、先先代の魔王、知ってる?」
「2人組に倒された。」
「そう、それが師匠と老害…じゃなかった先先代の勇者。」
「嫌い?」
「嫌いっていうか…大のためには小を切り捨てる、を地で行く人だからさ。尊敬できる部分はあるんだけど、だからってそれやる?って人なんだよね…。」
「そう…。」
黒髪の少女は少し目を伏せた。
「まぁ、今回は大丈夫なんじゃないかな。」
「今回?」
「そ、多分大丈夫だと思うよ。」
「えぇ、実際、彼は動いていません。」
それまで黙っていたキューロックさんが話に混ざってくる。
「おぉ、マジか、それだけでも十分過ぎるほどには楽だなぁ。」
脳裏に浮かぶのは一振りの刀を持って命を斬り裂いていく男。
「あれを止めろってのは本気でキツいからなぁ。」
「その時は勇者さんの肉体をあの時の物に上書きしますよ?」
「それは助かるんだけどさ……ねぇ、ちょっと待って、聞きづてならない単語が聞こえた気がするんだけど?」
「……さぁ?どうでしょうね。」
小さく笑う金髪の女性。
「おいおい、実行犯見つけちゃったよ…」
「私が一人だとは思わないことです。」
「えぇ、このキューロックさんを止めても第二第三のキューロックさんが?」
「キューロックがやられましたか…」
「なんか始まった?」
「ふふふ、奴は我ら四天王の中でも最弱です…」
「後三体は居るかな。」
何か、とても違和感のある何かが二つ。
「……人間如きに負けるとは四天王の面汚しですね」
「もう人間ですらないのね…」
一つは知らない気配、もう一つは覚えのある気配。
「アルレイ、あれ。」
キューロックさんとくだらないような重要なような話をしているとアビたんが進行方向を見ながら武器を構えている。
今構えているのは槍だ。
そこには街が見えておりその手前で二つの存在が何かを話している。
その二つの存在はフードのついたローブを着ており、そのフードを深く被っているため、その顔を窺うことはできない。
その覚えのある気配は……
「アルレイ?」
黒髪の少女が語りかけてくる。
同じ黒髪、あの日を思い出した。
でも、今日は違う、ここに居るのは彼女じゃないし、俺はあの日のままじゃない。
息を軽く吐いた。
スタスタとその存在に歩いていく。
剣を振った。
首が飛んだ。
しかし、そいつはこちらを見ている。
飛んだ首は知らない気配の方だ。
そいつは目を見開き、一歩下がると即座に右手に魔力を纏わせ突きを繰り出してきた。
そこに刀を合わせる。
「おいおい、おいおいおいおいおいおい、お前!あの爺の弟子か!弟子なんじゃな!」
銀髪を激しく揺らしながら体に魔力を纏わせ、左手、右手と思わせ左足と連撃を繰り出してくるその存在。
「先代魔王」
その名を呟く。
「あぁ、そうじゃよ!儂じゃけど!儂なんじゃけどな!これやめない?ねぇ、儂何も悪いことしないよ?!」
顔に大粒の汗をかきながら話しかけてくる魔王。
その姿は銀髪のロリ。
その赤い目をキラリと光らせながら必死に無害を主張してくる。
「そうだな。」
息を吸う。
「ひぃっ、障壁障壁障壁障壁ぃ!」
彼女は後ろに跳びながら自分の体に何か施している。
剣を振った。
「ぎゃぁぁぁ!斬れた!薄皮持ってかれたぁぁぁぁ!」
息を吐いた。
「待っ、待った、待てって、待って本当に!お願いじゃからぁぁぁぁ!」
泣き叫びながら後ろに飛び、魔法を使っている様子の魔王。
剣を。
「アルレイ?」
後ろから声が掛かった。
剣を振った。
「わぷっ!」
空中に浮いていた魔王が地面に落ちる。
息を吸った。
「なぁ、待てって、本当に儂もう何もしないからぁあ!」
もう涙で顔がぐちゃぐちゃになった銀髪ロリ。
「魔王を仲間に入れる勇者、それも面白いですね。」
俺の右肩に手を置いたキューロックさんが右手に何かを持っている。
俺の目には見えないが手の形からして本か何かだろうか?
「先代の魔王さん?助けてあげましょうか?」
「儂にできることならするから!儂を助けて!儂にはまだしなきゃいけないことがあるんじゃぁぁぁ!」
地面に落ちてもがく魔王。
「えぇ、契約成立ですね。」
ニッコリと笑うキューロックさん。
「…え?ちょ、おま、お前、一体なにも———」
パタリ、と倒れる銀髪の少女。
息を吐いた。
「で、これどうなんの?」
金髪の彼女を見る。
「そうですねぇ、まぁ、仲間にしちゃいましょうか?もう人間は殺せませんし。」
ポツリと語る金髪の女性。
「殺せないだけ?」
「ええ、問題ないでしょう?」
「まぁ、問題ないけどさ。貴女の謎は深まるばかりだよね。」
大きく息を吸ってからため息を吐いた。
「謎の多い女性ってなんだか魅力的だと思いません?」
ふふ、と微笑むキューロックさん。
「得体の知れない、の間違いじゃないかなぁ。」
彼女から目を逸らした。
今日は快晴。
雲一つ無い、いい天気だ。
書くたびにキューさんが可愛くなっていく?
そんなことは…ないはずです。
お読み頂きありがとうございました。
銀髪ロリ魔王。字面が強いので好きです。