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6:移ろい

前話が短いのでもう一つ新しいのを上げることにしました。

お越しいただきありがとうございます。





宿へと戻ってきた。


「そういや、この体で人を斬ったのは初めてだったな…」

「俺だって人撃ったことなんざ初めてだよ。」

ベッドに腰掛けて剣の様子を見ているとホリアスが声を掛けてきた。

「なんで俺たちだったんだろうな。暗殺者とか居なかったのかよ。」

「言ってもしょうがねぇだろ。殺し慣れてるやつなんて碌なやつじゃねぇだろうしな。そんな奴を人類の希望扱いすんのが嫌だったんじゃねぇの?」

自嘲するように言うホリアスは右手を眺めている。

「そうだな、碌なやつじゃねぇや。」

「おいおい、ぶっ飛ばすぞクソヤロウ。」


茶髪を眺めながらそう言うと右手をこちらに向けてきた。


「やめろやめろ、洒落にならんて。」


慌てて止める。


「んで、トーレラさんはどうだった?」

「まぁ、相変わらず顔顰めてたっけど、一応納得はしてんじゃねぇかな。」

「納得ねぇ…話聞けてないからなぁ、後で爆発しないかなぁ」

「んなこたぁ…ねぇと…思うんだけど…な」

ホリアスは喋っているうちに自信が無くなったのか失速気味だ。


「まぁ、そっちは任せるとして。明日からどこ行くかね…そういやホリアス記憶は?」

「まだだよ、俺を便利屋魔法使いと一緒にすんな。俺は根っからの火魔法使いだよ。」

「それ聞いたら怒りそうだなー。」


頭の中で「便利屋?ふむ、私に頼り過ぎは良くないだろうね。」とどこか自慢げに話す白髪の少女がいた。

さては、怒らないのでは?


「となると…行く場所に困るんだよなあ」

頭に浮かんでくるのは剣を振りまくっている頭のおかしな爺。


「四天王あたりは急だしなぁ、その辺に雑魚湧いてねぇの?」

「いやいや、今日の奴らがうようよ居ても街は滅ぶから。」


さっき相手した奴らは強さ的にせいぜい四天王の直属配下クラスだろう。


「と、なると?」

うーん、と悩んでいるホリアス。


「刀作って貰おうかなぁ。」

「刀?……あー、なんか確かに、そういやお前が両刃の剣使ってんの変だな。」

「うーん、使えなくはないんだけど、これ叩き斬ることが主な用途だしさ。振り方が違うからなんとも言えないっていうかね。2本目くらいなら持っててもいいんだけど。」

手に持っている剣を眺めながら答える。


「ホリアスも杖持つでしょ?トーレラさんも杖?いや…」

「あいつは杖ってより何かしらの魔法が込められた指輪か首飾りだと思うんだよな。どうせ杖なんざ殴ることにしか使わなさそうだしよ。」

「ならそれはお前が買うとして。うちの後輩何持つのかなー。」

「結局、手持ち揃えることにすんのかよ?」

装備品の話しかしない俺にホリアスがツッコミを入れてくる。


「まぁ、その道中で俺は体鍛えられるし…お前は?」

「いや、俺も魔力流してりゃなんとかなるからな。問題あいつらだろ。」

頭に浮かぶのは黒髪の少女と金髪を三つ編みにした少女。圧倒的に戦闘経験が足りない。


「流石に今日のは数に入れらんないだろうからなぁ。そういや、記憶戻ってないのに戦うのは十分なのかよ?」

「あぁ?…いや、お前剣の振り方忘れんのかよ?」

「忘れねぇわ。初日違和感凄かったし。」

思い出すのは剣を振り、気が付いたら練習が終わっていたあの日。


「というか、お前はもう大丈夫なんだな?」

確認するように聞いてくるので軽く頷いておく。

「流石に十分だよ。むしろメイリーに相手させといた方がよかったのにって後悔してる。」

「お前の後輩な。実際どんくらい強いんだ?」

「魔法使って全力で戦ったとして剣で戦ってた俺と互角くらいだったかなぁ。確か。」

彼女と打ち合っていた日々を思い出す。

遠い昔の話のようだ。

「そりゃ今のお前と比較してってんじゃないよな?」

ホリアスは額に手を当てた。

「まぁ、流石にそれはない。」

「だよなぁ…」

俺も剣を眺めるのをやめてベッドに転がった。

戦闘において、トーレラさんは前に出る必要がないのである程度は問題ないが、メイリーはこのままではただの荷物より酷い。

もちろん彼女がいることによって戦闘以外は格段に楽になるのだが。

俺の気持ちとか。


「それなら彼女は私の知り合いにでも預けておこうか。武器を集めている間に彼女ならある程度は技術を盗んで帰ってこれるだろうさ。」


白髪の少女はどこから話を聞いていたのかフラリと現れるとそんなことを言った。


「知り合いって、魔法剣士ってこと?」

「そうだとも。少々変わり者だが…君の師ほどではない。」

「俺の師というと……まぁ、あの人が何人もいたら世界に魔王なんて存在しなくなるから…。」

腕試しと言って先先代の魔王を二人で斬り倒してくるような人だ。

「まぁ、そうだね…では、彼女は預けるということでいいのかい?」

思い当たることがあったのか笑みとも呆れとも取れない微妙な表情をするアマリア。


「それがいいんじゃないのかなぁ。」

「…お前も大概過保護だよな。」

茶髪の男は深くため息を吐いた。


真夜中、静かな部屋の中、三人で頭を捻っていた。










翌朝。

黒髪のポニーテールを揺らす少女を探して部屋を出る。まだ眠い。


「先輩。」

固い声が後ろから届く。


振り向くとそこには確かな強い意志を感じる緑の瞳があった。






「それで、私をパーティーから外してください、ね。」

黒髪の少女の言ってきたことは単純だ。

そして元より考えていたことでもある。


「先輩にも分かっていると思います。今のままじゃ一人護衛しながら歩いているようなものだって。私はまだ未熟です。以前までの先輩ならそれでも私が居た方が安心でした。

でも今の先輩の隣に私が居るのは不安しかないんです。人質ぶら下げてどうぞ取って下さいって言ってるようなもんです。」

黒髪の少女の顔色は優れない。

俺は一呼吸置いた。


「まぁ、そうね。だから、鍛えてもらってきてね。」

「……鍛えて、もらう?」

「うん。アマリアさんの知り合いに魔法を使う剣士がいるんだって、ちょっと変わってるらしいけど。」


「……私、先輩の隣で…」


黒髪の少女は俯いている。


俺は何も言わない。




「私!先輩の隣で戦えるようになります。だから、隣、空けといて下さい!」

顔をパッと上げるとハキハキとそう言った。


その顔には暗い印象は見られない。


「楽しみにしとく。」

「えぇ、スーパーエリート後輩の帰還を泣き喚きながら祝って下さいね!」

「そりゃ、一大事だよ。」

彼女はニッコリと笑って真っ直ぐこちらに手を出してきた。


柔らかく、しかし、確かに握手を交わす。


涙は再会まで取っておくことにしよう。




…自分でもちょっと泣き過ぎな気がする。












「では、私はメイリーを知り合いに届けてくるよ。」

白髪の少女はこちらにゆらゆらと手を振っている。


場所は宿の出入り口付近、一応邪魔にならないように横にズレているが。


「先輩!私、しっかりやってきますから!先輩もしっかりお願いしますよ!」

ブンブンと手を振る我が子。

間違えた。

黒髪のポニーテールをブンブン揺らす少女。


「おう!任しとけ!」

左手を握り締めぐっと上に掲げる。


二人はこちらに背中を向けるとスタスタと歩いていった。


長めの黒いポニーテールはしばらく見れそうにない。









俺達はしばし別行動だ。

メイリーは俺達が自分の武器を揃えるまで修行の日々。

アマリアはメイリーを送り届けたらホリアス達と合流すると言っていた。

ホリアス達、というのはホリアスとトーレラさんはアマリアが合流するまでこの街に残り、合流したらホリアスの杖、及びトーレラさんの道具を集めるそうだ。


ホリアスの杖は俺が魔王を討伐せん、として師匠に弟子入りして、半ば無理矢理追い出された時にはもう既に持っていた物なのでどうやって手に入れたのかは知らない。

本人もまだ思い出せないようなので勘で行くと言っていた。一応この辺だろうという目安があるようだ。


俺はキューロックさんとカタマリ先生と共に自分の刀を作ってくれる刀工を探しに行く。

もしくは既に持っている刀を売ってくれるといいんだが。


パーティー編成の基準は魔王に襲われても死なない、だ。


メイリーの方が不安だが、そこはアマリアの目を信じることにしよう。


俺としては、アマリアと一緒がよかったのだが、茶髪に過剰戦力だ、と言われてしまっては仕方ない。

茶髪は近接戦闘にすこぶる弱いのだ。


…アマリアは補助魔法で身体能力を馬鹿みたいに底上げするので別に距離はあんまり関係ない。

むしろ、俺はあんまり相手したくない。

単純に速すぎて辛い。







「さて、では行きましょうか。勇者さん。」

風で金髪を揺らす美しい女性がこちらに手を伸ばしてくる。


「ういうい、結局一人だもんなぁ。」

仕方なくその手を取って馬車に乗り込む。


「一人ではないですよ?勇者さん。」

「そうだね、俺には先生がいるよ。」


なう、と頷く右肩のネコのような何か。


「あと、謎の女性。」

「キューロックです、勇者さん。」




馬車にガタガタ揺られながら、勇者さん勇者さんと声をかけてくる女性に時折返事をしながら、目的地に到着するのを待った。


お読みいただきありがとうございました。

筆者はポニーテールよりストレートが好きです。

でも手入れ大変そう…

ショートも好みです。

…あれ、全部?

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