5:敵の殲滅
本日もお越しいただきありがとうございます。
戦闘を書いてたら戦国時代の槍の使い方を知りました。
叩くんですね…てっきり突くものだと…。
ウェポンマスターが持っていた槍は短槍ということでお願いします。
今日の本編は少し短いです。
角族は基本的に俺ら人間と同じで昼に活動して夜に眠るし、夜は彼らとて昼と同じように物を見ることはできない。
だから奇襲をかけるなら夜が基本的なのだ。
なのだが、人間の国に居る彼らは基本的に夜でも魔法を使って周囲の警戒をしているし、暗闇を見通す魔法を使ってくるので普通の人間はあっさり返り討ちに遭う。
しかし、このパーティーなら、大抵のものならば相手取れる。
なら、更に安全策として奇襲をかけこちらに気付かれる前に叩いてしまおうというわけだ。
向こうに少し頭を使う余裕があるならば勇者が出立したという情報を手に入れ既に警戒していると考えるべきなので無警戒ということは考えられないが。
それでも昼からさぁ行きますよ?と攻撃するよりマシだろう。
「奇襲をかける…ですか。」
トーレラさんは眉を顰めながら話を聞いている。
話し合いのため、今は男プラス先生部屋だ。
女子部屋は?と聞いてみたのだが、拒否された。
「えぇ、好きではありませんね。彼らとて人間の住む大地に踏み入った以上、争いが起こらないとは思っていないでしょう。しかし、彼らが本当に人間を殺しに来たのか、まだ、それすらも分かりません。」
「とは言ってもね、話し合いをしたら殺された、話し合いに応じたからその隙を突いて殺した、なんてのは別に珍しくもないからさ。
この国に、今のこの状況で入ってきた時点で敵だと思っていいと思うんだよね。俺は。」
トーレラさんは難しい顔をしているが、誰かの身を危険に晒すようなことをするつもりは俺にはない。
その考え方は嫌いではないが誰かがそれで死んでからでは遅いのだ。
「まぁ、一応武器を抜いた状態で相手の対応を見るとかどうでしょう?」
黒髪の少女は場を取り持つために意見を出す。
「そりゃあ、大抵、武器を抜いた段階で殺し合いになるだろうな。」
呆れたように言うホリアスの意見は概ね俺と同じだ。
「私としては宣戦布告くらいはしてもいいと思うよ。」
重たい空気が流れる中、白髪の少女が声を上げた。
「相手がそれなりの力を持っていたらもうその森は消し飛ばすしかなくなるんだけど?」
「まぁ、森に入ってくるなんて言ったら罠くらい張るわな。既に張ってあるだろうが、より強力なやつをだ。」
森に踏み込む以上は下手に敵対の準備を進められても面倒である。
「だからと言って無抵抗の相手を殺すことになる可能性がある以上、正しくありません。」
しかし、彼女にも譲れないものがあるのは同じ。トーレラさんは難しい顔をしたままだ。
明るい茶髪改め歴戦の茶髪ホリアスは埒が明かないとばかりに大きく息を吐いた。
「アマリア。角族の場所、特定できるか?」
その冷たい青の瞳で白髪の少女を眺める。
「まぁ、できなくはないだろうさ。ただ、相手が障壁を張ってきたら厳しいと思うね。」
白髪の少女は肩を竦めて答える。
「障壁があるってことはそこに居るってことだろ。転移でもされねぇ限り問題ねぇよ。」
「転移の予兆を見逃したら私は魔法使いを引退するよ。」
「んじゃ、アマリアが宣戦布告して森から出て来なけりゃ俺が撃ち抜く、森から出てきても戦おうとしてたらアルレイが斬る。大人しく降伏してきたら…どうすんだ?」
ホリアスとアマリアが話を進めるが森に入ろうとしないなら、こちらには特に異論はないし、降伏してこられて困るのは俺も一緒なので見られても困ると目線を逸らす。
もちろん逸らした先はトーレラさんだ。
「戦う意志がないなら彼らは保護しましょう。天使教会などどうでしょうか?」
「はむ、ほむ、ふむ、いいんじゃないですか?天使教会って別に角族を悪としているわけではないですし、彼らもまた慈愛の対象です。特に何もする気がないというなら天使教会の本部に送っておきましょう。そしてそういうことなら、私が使いを呼びますよ?」
キューロックさんはおでんを食べながら話を聞いている。
俺も欲しい。
「はい、どうぞ?」
キューロックさんがおでんを手渡してくるのでそれを受け取る。
「慈愛…ね。」
慈愛という単語にはちょっと思い入れがある。
あ、これうまいな。
「先輩のお母さん、でしたよね。」
確認するようにメイリーが聞いてくる。
慈愛の子、だなんて大層な肩書を持ったものだと思う。
我が母は慈愛の徒として、天使から恩恵を授かり一つ願い事を、と聞かれた時に子供が欲しいと言ったそうだ。
あ、たまご貰える?
うん、ありがとう。
慈愛の徒とは、心から多くのものを愛して、優しさを持って接した人間に、天使が目をつけ、その恩恵を与えた存在で、基本的には天使教会で丁重に扱われている。
まぁ、詰まるところ拉致監禁なんだが、本人の意志で天使教会へ行くことが確定するので無理強いはしていないらしい。
そもそも、天使の恩恵を受けた人間は超常の力を発揮するので無理強いとかするだけ無駄である。
そして天使の恩恵を受けた人間は天使教会で一定以上の権力を持って生活することになるのだ。
ほい、これ、さっき受付で売ってたコーヒー牛乳。
まぁ、そんな感じで人類の希望とまではいかないが人類の心の拠り所である慈愛の徒を母に持った俺は生まれてこの方苦労という苦労は肩書の重さくらいしか感じてこなかった。
昔は母親が眩し過ぎて嫌になったものだが今はそんなに悪く思っていない。
というか、会ったら分かるのだが、雰囲気が凄いのだ。
あぁ、この人が慈愛か。っていう感じがする。
嫌いになんてなれるはずもなく毎週送られてくる母からの手紙は慈愛の子という肩書が嫌になったときだって欠かさず読んでいた。
…返事は書いてないが。
後で返事書いとこうかな。
キューロックさんは美味しそうにコーヒー牛乳を飲んでいる。
「あー、とりあえずそれで問題ないだろ。」
「あぁ、それで俺は問題ない。」
微妙な空気を打ち破るように言うホリアスに心の内で感謝しつつ返事をし、他のみんなの様子を見る。
「異論はないとも。」
白髪の少女は目を瞑って頷いた。
「私もそれで大丈夫です。」
黒髪の少女は先程の謎のやり取りを白い目で見ていたのか、無表情で頷いた。
「えぇ、彼らの正義を確かめましょう。」
彼女は目を瞑ってから、息を吸って吐き出すとその目蓋を開いた。
その目は力強く迷いは見えない。
「じゃあ、行こうか。」
もう一度全員の顔を見てから、一呼吸置いて、声を掛けた。
「おでん、私も貰っていいかな?…うん、ありがとう。」
白髪の少女は特徴を獲得した金髪の女性からおでんを貰っている。
「あ、私の分もありますか?…ありがとうございます。」
黒髪の少女も食いしん坊さんからおでんを受け取っている。
「いまいち緊張感ないんだよなぁ。」
「まぁ、お前が途中でおでん食ったのが主な原因だと思うけどな。」
一人でボヤいてると後ろからホリアスが声をかけてきた。
その瞳は金髪を三つ編みにした少女を見ている。
彼女は難しい顔をしたままだ。
「さて、それじゃあ彼らに警告をするとしよう。」
白髪の魔法使いは軽く杖を振った。
「警告する、我々は魔王を討ち滅ぼさんとする者。すぐに森から出て降伏したまえ、さもなくば君たちを敵と認識する。…だいたいこんな内容だよ。」
白髪の少女はそう言うが、特に何か起きた様子はない。
だが、少し時間が経つと森の中から何かがそれなりの勢いで接近してくるのを感じた。
「確か三体って言ったよな。」
ホリアスは凍てつくような瞳で森の奥を見ている。
「あぁ、一体奥に残っているね。」
白髪の少女がそう言うや否や、ホリアスは右手を真っ直ぐ前に出した。
「向きを教えろ、合わせる。」
ホリアスは右手をピタリとその場に静止させて動かない。
アマリアは彼のその右手をチラリと見ると目を瞑った。
「左に2.7度、下に1.0度…ってところかなぁ。」
アマリアは目を開くとちょっと自信がなさそうにそう言う。
彼は右手を少し動かすと掌から火の玉のようなものを出しそれを大きく上に移動させるとそこから細い線のようなものを打ち出した。
その線は段々と強く輝き、そしてすぐに消えた。
「うむ、問題ないよ。反応が一つ消えた。
ついでに言うと森への被害も少なめかな。」
白髪の少女はそう言うと杖を軽く振った。
「アルレイ、ここの守りは任せるといい。君には補助を掛けておくよ。」
「やっぱ体が微妙なんだよなぁ。」
茶髪の少年は手を開いたり閉じたりしながら接近してくる二つの気配の方を見ている。
草木の揺れる音が聞こえる。
もう、すぐそこに居るのが分かる。
剣の柄を軽く握って息を吸う。
息を吐いて柄を強く握る。
体が軽くなったように感じる。彼女の魔法だろう。
一体、木々の間から飛び出してくる。
二体目は動きが遅いようで、まだ出てくる様子はない。
相手の武器はなんだったか、長剣だったような細剣だったような気もする。
相手はこちらに気づいていなかったかも知れないが、あれだけ殺気だっていて降伏しにきましたってことはないだろう。
首が落ちていく。
視界の端に光の線が見えたと思うと奥からしていた気配が消えた。
まぁ、降伏してくる角族なんて、いるとは思ってなかったけど、もしかしたら魔王軍とは関係ないのかも、くらいには思っていた。
ドサリと、首のない体が倒れる音を聞いた。
敵は居なくなった。
お読みいただきありがとうございました。
しばし、お付き合いください。