4:仲間との再会
お越しいただきありがとうございます。
3話を少し手直ししました。
何言ってるか分からないかもしれませんが、アマリアさんが説明するまで待ってやってください。
「で?結局どういうことなんだよ、アルレイ。」
三つ取った部屋のうちの一つ、男プラス、カタマリ先生ことネコのような何かの部屋で、貫禄すら感じさせる男は部屋の端にある椅子に座り、コーヒー牛乳の入った瓶を片手に持ちながらこちらをその青の瞳で射抜いてくる。
ちなみに俺は今フルーツ牛乳的なやつを左手を腰に当てながら飲もうとしていた。
大人しく軽く瓶を傾けるだけでやめておく。
「まぁ、簡単な話だ。…あの世界は無くなった。いや、正確に言うならこの世界に侵食された。」
「消えて無くなったわけじゃねぇんだな?」
「そう、あの世界の情報を元にこの世界は構成されている。」
「だからアマリアは簡単に俺らの仲間になった、と。…あのヤロウ気付いてやがったな。」
「まぁ、お前がその様子ならとっくに気付いてるんだろうさ。というか、実際どんな感じなんだ?」
「どんな感じって言われてもな…お前も同じじゃねぇのかよ。」
「あー、まぁ俺は特別措置受けてっからなぁ。」
思い出すのはあの特徴のない女性。
特徴がないのは外見だけのように思えるが…
「あぁ?あー、あの女か。」
思い当たることがあったようで、なるほどな、と呟いているホリアス。
「んで、まぁ、俺の感覚だったな。
…そうだな。まぁ、なんていうか既視感っていうのか?お前らとは会ったことがあるような気がする。この街には来たことがあるような気がする。あの白髪の女にも覚えがある。
あとは…違和感みてぇなもんだ。体が重く感じたり、妙に魔力の流れが良かったり、使った覚えのない魔法の使い方を覚えてたり…魔法ばっかだな。」
「魔法以外でいうと…まぁ、トーレラが…まぁ、あれだな。あとは……分かんね。」
彼が考えている間に手に持っている牛乳瓶の中身がチャプ、チャプと音を立てている。
「説明してもらってあれだけど、あんまり容量を得ないな。まぁ、なんとなくは分かったけど。後でアマリアに聞いたらちゃんとした答えが聞けそうなんだよなぁ。」
「悪かったなぁ、魔法使えば覗けそうではあるんだがどーもこういうのは苦手でな。まぁ、そのうちやっとくからお前はアマリアにでも聞いとけ。」
彼はグイッとコーヒー牛乳を呷ると席を立った。
「瓶返して適当にどっかフラついてくる。急用はねぇな?」
「特には、後でこの辺にいる角族を相手しなきゃいけないだろうがそれなら全員集まってからの方がいい。」
角族とは魔王軍を形成している種族のことで頭に角が生えていることから、人族、つまりは人間、である俺たちと比較してそう呼ばれている。
外見的特徴の差異はそのくらいだろう。
腕が4本生えてるやつもいるとか、体の大きさが人間10人分とかそういうのも聞くが例外は何にだってあるということだ。
ジロリ、と青が鋭くこちらを向いた。
「お前な、絶対一人でやろうとしてたろ?」
「そりゃあ、仲間が居なかったらしょうがないだろ。」
ブン、と牛乳瓶が投げつけられた。
咄嗟に左手で受け取ったことにより、瓶は割れずに済んだ。
「いや、アマリアにちょっと話聞いてから行こうとはしてたんだって、後は後輩。」
厳しかった目つきが少しだけ緩和したような気がしたが、
「なんで選択肢に俺が入ってねぇんだよ。」
彼の右手から打ち出された水の球により、それは勘違いだったようにも思えた。
ちなみに水球は躱したらちゃんと開けてあった窓の外へ出ていった。
「よく見てんなぁ。」
「見えてんのはお前もだろ。…まぁ、いいや、何かあったら呼べよ?お前が何か斬りあげたら見える位置にはいるようにするからよ。」
「りょーかい。」
両手の牛乳瓶を揺らしながら返事をする。
彼はとつ、とつ、と部屋を出ていった。
「ふむ、それで私に話があるんじゃないかな?先輩。」
「アマリアさんの真似をしない。紛らわしいから。」
「え?そうですか?そんなことないと思いますけど…」
牛乳瓶を食堂に返しに行くとポニーテールを揺らす少女に出会った。
「本当はアマリアさんに会おうと思ってたのにっていう顔をしていますね、先輩。」
話をしよう。ということで男プラス先生部屋にやってきた。
特に他意はない。
「それどういう顔なのか説明してほしいよ。」
しかし事実である。
本当はアマリアと話して、彼女が分かっているならば、ホリアスと話していた内容の確認をしたかった。
まぁ、このポニーテールを弄った後でもいいだろう。
「で、先輩。本当はどういう理由でアマリアさんを仲間にし、これからどうするつもりなんですか?」
彼女の顔は比較的真剣だ。
しかし今日は既に彼の顔を見てしまっているので真剣の度合いが足りないような気さえする。
はぐらかしてしまおうか。
「あの、先輩?」
詰め寄って顔を寄せてくる黒髪の少女。
小さく尖った鼻に、長い睫毛に縁取られた緑の瞳。
唇は小さいがそこにはちゃんとした肉感があり、しっかりした魅力がある。
「近い。」
そう言って黒髪の上に左手を置いて右手を彼女の首の後ろを通すようにして、
途中でやめた。
「あの?先輩?」
言葉は先程と同じだが、その表情はどこか呆れが含まれている。
サッと彼女から離れると部屋の隅に置いてある椅子に座った。
彼女は部屋の中央に置いてあるベッドに腰掛けることにしたようだ。
「カモン!アマリア!」
この場は静寂が支配した!
「いや、入ろうかとは思っていたが、その呼び方はないだろう?」
やれやれ、と肩を竦めながら部屋に入ってくる白髪の少女。
「あれ、アマリアさん?」
後輩は彼女の気配に気付けなかったようで驚いている様子だ。
「トーレラさんは?」
姿の見えない彼女がどこに居るのか聞いてみる。
「ホリアスの様子が変だ、っていう予感がしたんだってさ。」
「いや、予感ってなに…」
相変わらず行動の読めない人だ。
それでホリアスを探して宿を出たそう。
まぁ、今のあいつならすぐにトーレラさんと合流するだろうし、彼女の心配はする必要がない。
「で、アマリア?」
「一応膜のようなものをこの部屋に張ってみたよ。効果があるかは分からないけどね。」
「それって遮断する感じ?」
「いや、普通に歓談しているように見える感じかな。」
「うわ、意味分かんないなその魔法。」
「褒めたまえよ。このような魔法普段使うことなどないのだからね。」
「え?え?先輩方?」
ポニーテールはきょろきょろと辺りを見回している。
魔法を扱うことのできる彼女だが、その気配を感じることはできなかったんだろう。
「いや、突然ですまないね。しかしこの世界に何かしらの影響を与えた存在がいる以上自分がイレギュラーな存在であると明かすのは極力控えた方がいいのではないかと思ってね。」
申し訳なさそうに力なく微笑むアマリア。
ポニーテールの少女はますます訳が分からないという顔をしていたが、途端何かを悟ったように押し黙った。
「あの、先輩の様子が変わったのってそのせいですか?」
「うん。」
「なるほど…あの、私ここに居ない方がいいですか?聞いてても話分かんなさそうですし。お邪魔でしょうから。」
何か思うところがあったのかベッドから腰を上げて部屋を出ていこうとするメイリー。
その顔からは何の感情も伺うことができない。
「いや、ここに残りたまえ。どうせ彼は君に説明するだろうから、今私の幾分か分かりやすい説明を聞いていった方が有意義というものだろう。」
彼女はそういうとこちらをチラリと見た。
「はいはい、説明は苦手ですよ。」
顔を顰めながら返事をする。
「さて、ではまずこの世界に起きたことから語っていこうか。」
「まず、前提としてこの世界は3日前に突如出現した。とは言っても何もないところに現れたわけではなく、前にあった世界を上書きしてこの世界が完成した形だ。
私が観測した限りだが、私には作り替えられる前の世界の記憶が備わっており、この世界の住人として新たに生まれた私の元となっていた。
この世界の住人として生まれた私は3日前の朝、いつも通りに起床し普段通りの行動をしていた。違和感に気がついたのは勇者育成機関という単語を聞いたときだが、それに気がついた後はすらすらと以前までの私を知ることができたよ。
つまりこの世界を変革した何かは以前までの世界の記憶を封じておかなかったということだ。
ということはその何か…呼びづらいね、仮に変革者としよう。
変革者はこの世界を作り上げる上で、以前までの世界ではいけない理由があったにも関わらず以前の記憶を持った私という人物の存在を残した。
そこの勇者君もだいたい同じだろう。
まぁ、何が言いたいかというとそれが失敗だったのか意図的なものだったのかは分からないが意図して行っていた場合、
変革者は魔王討伐後の世界の記憶を持ったある一定以上の水準をクリアしている強者にこの世界の未来を変えることを願っているのかもしれない、ということだよ。」
彼女は歌うように語り出す。
説明を聞いているのだと分かってはいるが、なんだか耳心地がいいのでこのまま寝てしまおうか、とも思った。
うとうとしながら聞いているとどうやら説明は終わったようだ。
聞いたものを、覚えている箇所でまとめると。
・この世界は最近発生した。
・変革者は魔王討伐後の世界で何を思ったのか、この世界に作り替えた。
・お強い人歓迎?、もしかしたらミスだったかも…
だいたいこんな感じの内容だっただろう。
「アルレイ、ちゃんと起きていたのだろうね?」
「いやー、いい声。惚れ惚れするね。いや、もう惚れたわ。」
実際、今の自分にそこまで余裕はない。
何せ感動の再会パート2である。
1日だって彼女の自慢げな声が聞こえないのは不服だったのだ。
「あー、先輩は余裕なさそうなんで。気にしなくていいですよ。」
「そのようだね…」
ポニーテールは呆れ果てている。
白髪の少女も苦笑いだ。
「だいたいの説明は終わったんだが細かい説明を聞いていくかい?」
「はい、先輩には後から私が伝えておきますよ。」
「そうだね、そうして貰えると私としても助かるよ。」
二人の少女が真剣に、それとどこか呆れたように話をしていた。
俺は部屋から離れるともう一度温泉に入っていくことにした。
「とうとう全員揃ったな…」
温泉に浸かりながら独り言ちた。
「えぇ、そうですね勇者さん。」
「あの、ここ男湯なんですが?」
隣を見ると水着を着て温泉に入っているキューロックさんが居た。その手には酒瓶と饅頭が握られている。
「水着を着てもいいなら混浴でも大して変わらないと思うんですが、どう思いますか?勇者さん。」
「その意見には賛成だけど俺はアマリアと入りたいな」
「あら、後輩さんはいいんですか?」
「あいつはあんまり恥ずかしがらないだろうからなぁ。」
「人を辱めて喜ぶだなんてとんだ変態ですね。」
「ありがとう」
「変態と呼ばれて喜ぶだなんてとんだ豚野郎も居たものですね。」
「はいはい、んで?害獣ついでに角族の情報とか入らなかった?」
俺が食べようと思って用意していた温泉卵を食べている彼女に声をかける。
「………美味しいですね。」
「俺の分は?」
「おまんじゅうをあげましょう」
胸の間から饅頭を取り出した。
「…………………美味いな、これ」
取られた温泉卵の分はまた買うとしよう。
「…………角族ですが、街の周辺にある森の奥深くに潜んでいるようですね。住民からその森から、森の奥深くに居るような害獣まで出てくるという話を聞きました。角族を恐れているのでしょう。」
ごくごく、と酒瓶を傾けてから喋りだすキューロックさん。
「なるほどね。そうしてれば普通の人って感じがするよ。」
「おや、早速、関係改善のお申し込みですか。お饅頭にやられましたね。」
お饅頭のイントネーションがおかしい。
それだと、お、で音が下がっている。
「……別に胸から出てきた饅頭に釣られたわけではないんだけど!」
「そうなんですか?アマリアさんのお胸に興味があるようでしたのでそういうものなのかと。」
「え?俺そんなアマリアの胸ばっか見てたの?」
「えぇ、もうそのまま揉みしだかん、という感じでした。あれには私も少々肝を冷やしましたよ。ここら一帯がいつ焦土と化すかと。」
「うわぁ、流石にそれは自分でも引くわ、後で謝っとこう。」
「許してもらえますかね?」
「こういうのは素直に謝るしかないからなぁ、下手にローブが気になっててとか言う方がやばい。」
「そうかもしれませんね」
ふふふ、と笑うキューロックさん。
「他人事だもんなぁ…」
「えぇ、頑張って下さい。」
「気が重いよ…ほんとに」
「…そうですね」
クツクツと笑うキューロックさん。
よし、これは嘘だな。後輩に聞けば分かることだし、そんなに失礼なことをしていたならうちの子が止めてくれるはずだ。
「うちの子…ですか。恋愛対象としては見れないと?」
「…いい加減それやめてくれませんかね」
それだけ言うとお湯から上がった。
「まぁ、私としてはどちらでもいいと思いますよ?」
金色の髪を肩にかけた女性はそれだけ言うととぼとぼと歩く少年の後を追いかけた。
「いや、何の躊躇いもなく俺の横で着替えるもんね。流石にびっくりだよ。」
「見られて困るようなものはありませんからね。」
「確かにどこに出しても恥ずかしくないどこにでもありそうなラインを越えたボディだったよ。」
「そうですねぇ、そろそろこの設定も飽きてきたところですし絶世の美少女とかどうでしょう?」
「飽きた!?ねぇそれ洋服か何かなの?」
「どうでしょうねぇ」
ふふふ、と笑う金髪の女性。
その顔はいつもと同じでどこにでもありそうな顔だが、いつもよりもその顔がよく見える気がした。
「それはこの距離ですし。」
この距離とは、脱衣所に服を置いておく籠が並べられている中、俺の服が置いてある籠がキューロックさんの服が置いてある籠のとなりに置いてあるくらいの距離だ。
それは確かに顔もよく見えるというもの。
「ふふふ、綺麗でしょう?」
「何か怖いんだけどなんで?」
「なんででしょうね?」
首を傾げる金髪の女性。
その顔は既にどこでも居る女性のレベルを超えており目は少し優しげで鼻はそれなりに高く口元には柔らかな笑みが見える。
「うわぁ、気持ち悪」
「酷いですね。実際嫌いではないでしょう?」
「こーゆーのは性格の問題が割とあると思うんだよねえ。」
「そういうものでしょうか?」
金髪の少女は首を可愛く傾げている。
「ねぇ、ほんとやめない?そっちのが気持ち悪いって」
「仕方ありませんね。」
金髪の女性は小さくなった影響でもあるのか体の調子を確かめるように首を回している。
「それでは、私はこれで。」
横を抜けていく金髪の女性はその結んでいない髪をふわっと広げながら出口へと歩いていく。
「確かにあれは美人だよ。」
なうー、と鳴く白いカタマリ。
「うわ、先生居たの?!」
下を向くと右手で耳の裏を掻いているカタマリ先生が居た。
今日も先生は自由だ。
息を吸うと湿っぽい感じとミルクのような甘い香りがした。
お読みいただきありがとうございました。
毎日投稿とかはあんまり気にしてないのでピタッと投稿が止まった時はネタ無くなったな…と思ってください。