3:最も可愛い最も偉そうな最も頼れる背中
さらさら書いたので後で直す可能性大です。
追記:ちょっと直しました。ホリアスのところです。
茶髪です。
「ついたー!」
ホルカットの街、到着である。
馬車からサッと降りると街の様子を伺う。魔王軍が近辺をうろついてるとは思えないほど賑わっている。
ここの名物はなんと言っても温泉でそれを目当てに彼女もここに来ているのだ。
旅好きの彼女らしい理由である。
本来なら彼女に会うのはもっと先だし、警戒心の強い彼女が好奇心に負けて俺たちに付き添ってくれるのは普通なら難しいだろう。
だが、何も心配することはない。
ほら先生も頷いてる。
猫みたいな生物はうむ、と深く頷いている。
先生は右肩でスラっとした立ち姿を披露している。
しかし丸い。
「先輩、それでどこに行くんですか?」
馬車からトタッと降りた後輩が隣に並んだ。
「ホルカットの街といや温泉が有名だが、今回はそういうわけじゃねえしな」
勿体ない、とホリアスが呟く。
ホリアスはよっこらせ、と言いながら降りてきた。
おじいちゃんか。
しかし、足取りは軽やかである。
「いや、今回のお目当ての人は温泉目当てでここに来るような人だ、温泉に浸かってたら多分会えるだろ」
「アルレイさん、その方はどんな方なんですか?」
馬車からゆったりと降りてきたトーレラ。
「自信家でよく喋る人で白髪で髪は多分短くて、いつもだいたいゆったりした服装をしてる。ローブとか?可愛い女の子なんだけど遠目から見るとあんま女の子っぽくなくて原因としてはちょっと背が高めなのとスカートとか履かないから。喋り方はエレンスみたいな感じ。ちょっと偉そうな感じっていうのかな」
思いつく限り彼女の特徴を喋っていく。
「ふむ、それは多分私のことだろうね」
突然誰かが会話に混ざってきた
「あ、そうそうこんな感じの声のさ」
そちらを向く。
短い白髪にゆったりしたローブ。
背は高めで俺と同じくらい。
顔は可愛らしさがあるものの中性的で男にもこういうやつはいる。
そして手には彼女お気に入りの杖。
「そうそう杖持ってた。言い忘れてたわ」
自分が伝えてなかったことを思い出す。
「そうだね。私は基本的に杖を持ち歩いているよ。」
余裕の感じられる話し方でエレンスとは少し違うが大体同じような喋り方だろう。
「それで?どうして君は私を探しているのかな?」
白髪の少女はその紫の瞳が嵌め込まれた目を薄めてこちらを見ている。
「あの、先輩。もしかして…」
「……」
まさか、会えるとは思っていたけどこんなに早く会えるものだろうか?
というか、俺達の後ろを走ってた馬車から降りてこなかったか、今。
「あんたが最強の魔法使いなのか?」
明るい茶髪が軽快に警戒しながら話しかける。
「最強の、とは誰が言ったか知らないが大層な称号を付けられたものだよ。しかし、私ほどの優れた補助魔法使いは存在しないと言えるだろうね」
ふふん、と胸を張って答える彼女はどこか自慢げだ。
なう、と先生が鳴いている。
「ところでそれは何かな?」
白髪の少女が先生を見ている。
「カタマリ先生だよ」
俺が白いカタマリのような何かにつけた名前を発表する。
後輩の目が冷たい。
そろそろ泣きそう。
「泣いてもいいんですよ?勇者さん」
キューロックさんが何か言ってくるが無視。
「そろそろ泣いちゃいそうです、私」
しくしく、と口で言いながら目の下を人差し指で掬っている。
その嘘くささにトーレラさんですら素知らぬ顔だ。
とはいえ無視はよくないんじゃないか、という視線を感じる。
残念ながら彼女に対する慈悲は読心術をやめてくれない限り発動しないのだ。
「ふむ」
白髪の魔法使いは一つ呟きながら嘘くさい泣き真似をしている人物を見ている。
「君達は魔王を倒しに行くのだろう?なら私も連れて行くといい」
「え?」
彼女の警戒心からして通常この早さでの仲間入りは考えられない。
もっと時間が掛かるものかと思っていたのだが。
例えば、彼女の行く先々の温泉へ後輩を同行させたり。
彼女の好きそうなものを渡してみたり。
彼女に魔法を見せてもらったり。
彼女と一緒に敵に立ち向かったり。
色んなことをしてから彼女は
「そうだな、君たちのことを信用しよう。私を仲間に入れるかい?」
と、もうみんな仲間だと思っていたところで言うのだ。
それが出会ってすぐにだなんて。
それもカタマリ先生を見た後に。
「すごいな先生」
俺が感心したようにそういうと。
先生は、な、と短く鳴いた。
「私のおかげなんじゃないですか?勇者さん。」
キューロックさんは、ほらほら、どうぞ褒めてください、とでも言わんばかりにドヤ顔だ。
「えっと、その、自己紹介からしましょうか?」
有能な後輩が居なければ俺は自己紹介すらできなかったというのだろうか……
「そうだね、まず私から名乗ろう。
私の名前はアマリア。補助魔法を得意としているよ」
一歩前に出て朗々と挨拶をする白髪の少女アマリア。
「俺はアルレイ、第二勇者をやってい…ます。それでそこの茶髪がホリアス。ポニーテールがメイリー。金色の三つ編みをしたお淑やかな雰囲気の女性がトーレラさん、回復魔法の使い手で大体の傷は直せる。それこそ即死じゃない限り。そこのやつはキューロックさん。さっきも言ったけど肩に乗ってるのはカタマリ先生。
よろしく…お願い…ね?」
「先輩、格差がどうとか剣士とか言わないのかとか色々と言いたいことはありますが、まず一番に語尾に困らないで下さい」
ポニーテールの後輩はなんだか残念そうな顔をしている。
「そうだね、その自己紹介は私でもどうかと思うよ……」
アマリアは苦笑いだ。
「いや、髪で紹介するのは分かりやすくていいと思うんだがな、お前毎回思うけど、トーレラの扱いだけ違くね?」
「そうですね、なぜでしょう?」
茶髪は俺の挨拶に割と好意的で、トーレラさんは自分の紹介が長かったことが不思議なのか首を傾げている。
というか二人ともいきなり仲間になるこの白い女の子の存在を不思議に思ったりしないのだろうか?
いや、二人のことなので後で説明しろよ?ってことなのかもしれない。
「まぁ、なんだ」
自分の頭を掻くと先生が落ちかねないので先生の頭をぽふぽふと叩く。
先生は目を閉じて鬱陶しそうにしている。
「今後は明るい茶髪と黒髪のポニーテールと呼ぶことにするよ」
「明度の情報しか加わってねえな、それ」
「可愛い後輩くらい付けてもバチは当たりませんよ?」
二人とも不服そうだ。
ポニテガールに至っては唇を尖らせている。
ぶーぶー、という不満の声が聞こえる。
「勇者さん、とうとう誰も私の不当な扱いを気にしてくれなくなりました」
なんか言ってる。
「よし、温泉行こうか!」
「唐突だね…」
アマリアは相変わらず苦笑。
「俺の扱いも変わってないんだよなぁ」
茶髪は口では不満そうだが浮足立ってることから温泉が楽しみなのだろう。
「温泉…実は私まだ体験したことがなくて、楽しみですね」
トーレラさんは見るものをほっこりさせる優しい微笑みを浮かべている。
「この辺りの食べ物の情報は既にチェック済みです」
手にメモを持ったキューロックさんは食い意地が張っている。
「食い意地?いえ、これも立派な情報収集です」
「じゃあこの辺の住民から害獣を見なかったか聞いてきてよ」
害獣とはその名の通り人間の害となる動物のことだ。魔法なんかを使うものも居るので結構深刻な問題なのだ。
今回は自然に発生したものではないが。
「ほう、報酬は?」
さぁ出発と歩いていこうとしたキューロックさんがチラリとこちらを見る。
「温泉卵」
「私を食いしん坊キャラにしたいんですね…まぁ、いいでしょう。ついでに関係改善もよろしくお願いします」
「考えとくよ」
「ええ、では」
そう言ってスタスタと歩いていくキューロックさん。
「んで、どこ行きゃいいんだ?」
ホリアスが聞いてくる。
この辺りには詳しくないのだろう。
「とりあえず有名なところとしてはベラートの宿だろうけど、部屋空いてなさそうだから」
あそこはいつだって予約待ちである。
このご時世多少は空いてるだろうが、流石に当日は厳しいと思われる。
「それならビリーの宿はどうだろうか?少しランクは落ちるがこの街では人気があるし、人気があると言っても朝に行けば部屋を取ることができるらしいからね」
アマリアはどこから仕入れてきたのかこの街の外ではあまり聞かない、しかしそれなりに人気の宿の情報を持っているようだ。
日はまだ昇ったばかりだ。
始めにいた街からこの街まで結構な距離があり、移動にも他の街を跨いで来ているのでここに着いたのは勇者育成機関を出た日の次の日だ。
よって、まだ朝。
「んじゃそこにするか」
茶髪は部屋が取れないことよりも折角温泉が名物の街に来たのに温泉に入れないことを心配しているようで早く行こうぜ、と体全体で表現している。
「後輩?」
「いいのでは?」
後輩はそこでいいだろうと言っている。
どうでもいいのかと思って顔色を伺ってみたが、それなりに楽しみにしているらしく、口元には小さな笑みが見える。
「じゃあアマリア、場所分か…ります?」
「いつも通りでいいよ。その方が話しやすいんだろう?」
アマリアはたどたどしい言葉遣いが気になったのか薄く笑いながらタメ口を許してくれる。
「ありがと、こっちの方が楽なんだよね」
「どういたしまして。それでは案内しよう。付いてきたまえ」
目を閉じてニコリと笑うとスタスタと歩いていく。
もう一度黒髪のポニーテールの調子を伺う。
緑色の瞳と目が合う。
ぱちり、と瞬きをする。
「置いてかれますよ?先輩」
こちらに声をかけると、トトトっと横を抜けていく黒髪の少女。
ポニーテールがふわっと目の前を通っていった。
その時見た横顔はやっぱり楽しそうだった。
「温泉がそんなに楽しみか、ういやつめ」
なーう、と先生が鳴いている。
早く行けと仰せだ。
白髪の少女を遠目に眺めながら黒髪の少女の後を追った。
「ふー、いやー、いい湯だよなぁ」
魔法使いにしてはそれなりに鍛えられた肉体をしているホリアスが横で温泉に浸かりながらゆったりとくつろいでいる。
まだ陽の高いうちなのが理由なのか、魔王軍が原因なのか今は俺と茶髪しか居ないので、貸切状態だ。
男湯と女湯に分かれているので近くに見える塀の向こうには桃源郷があるのだろう。
いや、幻想郷?
「黄金郷とかあった気がする」
「なぁ、アルレイ」
青の瞳がこちらを見ている。
その顔はいつになく真剣だ。
「俺たちどこかで会ったことがあるような気がするよな」
「いや、そういう話じゃねぇんだが……あー、いや、まぁ、そういう話でもあんのか?」
ガシガシと頭を掻きながら何か考えているようだ。
「…会ったこと、あるの?」
「ん?んー、いや…なんかな。初めて会った気はしねぇんだよ、お前ら。あいつにも聞いてみたんだが、そんな気はしねぇって言うしよ。気のせいか、とも思ってたんだが、何か知ってるか?アルレイ」
「あいつってトーレラさん?」
「あぁ、あいつはあいつだな。あー、あいつで思い出したんだが最近なんか変なんだよなぁ」
「変って?」
「なんか、あいつが可愛く見える」
困ったような顔でこちらを見てくるホリアス。
こっちも困ったような顔で見返す。
が、
我慢の限界だ。
隣の後輩には絶対に気付かれる声量で笑った。
「おいおい、そんな笑うことじゃねぇだろ。ま、確かに俺があいつを好きだなんて話、変なのは分かってるけどよ?いくらなんでもそこまで笑うこたぁ…………なぁアルレイ」
更に困ったような顔をしていたホリアスだが、急に真剣な表情に戻ってこちらを見てくる。というか詰め寄ってくる。
俺は眉を顰めた。
別に距離が問題なのではない。
確かに男が近寄ってくるっていうのはゾッとしないが。
「なぁホリアス」
「何だ」
いつになく表情は真面目だ。
「いや、相棒」
「おう、だからなんだってんだよ」
焦れったそうにこちらを見てくる青の瞳。
その顔はどんどんと驚きに変わっていった。
「お前、今なんて言った?」
湯から上がる。
彼はまだそこにいる。
「なんとなく分かっただろ?相棒。
なら行こうぜ。俺たちにはやることがあんだよ」
彼はまだそこにいる。
しばらくその場は静寂が支配した。
息を吸って吐く。ただそれだけの単純な作業。
彼が行ったのはそれだけだったように感じるが、俺は咄嗟に気を引き締めた。
ザバッ、という音と共に隣に茶髪の男がやってくる。
「分かんねぇよ。分かんねーけど。やんなきゃいけねぇことがあんのは分かった。…あとな」
こちらを向くその男の顔は冷たく、見慣れた顔とはいえ少し背筋が寒くなった。
「ちったぁマシになったみてぇだが、もっとテメェの後輩に頼るなりなんなりでもっと人を使っていけ」
ぴた、ぴた、と前を歩く男の姿は
いつになく逞しく、
いつも通りの迫力があって、
「俺とお前が居るなら今度こそ大丈夫だろ」
張り詰めていた気が少し緩むくらいには安心感があった。
お読み頂きありがとうございました。
ウェポンマスターちゃん書きたい…
追記、下手くそか?!下手くそなのか?!上手いこと書けないですね……