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「あ、勇者さん、それ取ってもらえますか?」
目の前に置いてある何か高そうな料理をキューロックさんに渡す。
「先輩、これ食べました?結構美味しかったですよ」
メイリーが俺の目の前に何か高そうな肉料理を持ってくる。
現在、パーティー会場で高そうな料理達に囲まれて、何か気品のある人達に挨拶したり、
勇者代表のエレンスの演説を聞いたり、
慣れないことしかしていないので俺は非常に困っていた。
「帰るのか?」
「約束は果たしたからな」
赤黒い使いを倒した後、黒髪の男の側に角族の女性が現れると彼と一緒にその場から消えた。
「約束ね……」
彼がこの好機を逃してまで守らなければならなかった約束とは一体なんだったのだろうか。
町に戻り天使教会の人達から侵略者が殲滅されたのだと聞いた。
誰だか知らないが、大規模な侵攻が始まってからまだ二週間も経っていないだろうに、仕事の早いことである。
その存在がずっと人類の味方であってくれるなら、これ以上心強いことはないだろう。
その日はその町で宿を取ってゆっくりと休むことができた。
翌日、人族の代表である国長さんから、人族存亡の危機を脱したことを祝うからパーティー会場に来て、という感じの内容の連絡があった。
徒歩で。
転移魔法はそんなに簡単に使える魔法ではないし、馬車は御者が居ないため動かせないとか言われてしまっては仕方なく徒歩で行くしかないと思っていた。
当然のようにキューロックさんが町の外に立っているのを見るまでは。
それからキューロックさんにアマリアを呼んでもらって、彼女に転移で会場まで送ってもらい現在に至る。
「あ、これ全然美味しくないの。葉っぱじゃ」
「当然のように居るのは何故?」
頭に何かの角が幾つか付いたカチューシャを付けた銀髪の少女はお皿に取った野菜を食べながら苦い顔をしている。
「儂だって功労者じゃろ。ならここで飯食ってることはおかしくないじゃん」
「どうやって入った」
「金髪がどうにかした」
「キューロックさん……」
「それにこの角の飾りイカすじゃろ?木を隠すなら森の中、角を隠すなら角の中ってな」
「いや、理解できないから」
「そんなこと言ってー。実は触ってみたいんじゃろ?」
「そんなことないでーす。むしろ角より髪の方が気になりまーす」
「いや、別に何も変わっとらんけど?
………はっ、お主もしや儂の艶々の髪が気になってしょうがなかったとか? いやー、モテる女って辛いのー。ピンクの奴に男のあしらい方でも聞いとくんじゃったな」
「全然違うし姉様の髪は眩し過ぎて目を瞑ってしまうほどに輝く明度が高くて彩度の低い赤色だから」
「早口で何言ってるのか分からんかったけどお主が気持ち悪いのは分かった」
「姉様にかかれば男なんてイチコロなのさ……」
「会話にならん」
じゃの、と言って新たな料理を探しに行った銀髪少女。
一人で料理を食べていても暇なので誰か居ないか探しに行くことにする。
そこでふと沢山の人に囲まれた金髪の少女と茶髪の少年を見つけた。
嬉しそうに、楽しそうに笑う二人は、本来は見れなかったはずのもので、そう思うと何だか目頭が熱くなった。
「彼らはこれから忙しくなるだろうね」
声がかけられた方を見ると特に手に何も持っていない白髪の少女がいた。
「まぁ元々あいつら研究会の人だし、ポンと会えるような感じにはならないよね」
「……そうだね」
ぼんやりと二人の男女を見ている彼女は何処か嬉しそうにも見えたし、そうでない風にも見えた。
「じゃあね、アルレイ。会いたくなったら会いに行くよ」
「まだパーティーは続くみたいだけど、もう行くの?」
「離れられなくなっても困るからね。それにもう会えなくなるわけじゃないし、そんな顔をされても困る」
「そう言われてもなぁ………んー、寂しくなったら探しに行くよ」
「探されても困るのだけれど。しょうがないからこれを渡しておこう」
そう言って彼女は以前キューロックさんがアマリアと会話するのに使っていた薄い板を取り出す。
「使い方は彼女に聞くといい」
スタスタと、白髪の少女は人混みに消えていった。
「行っちゃったなぁ」
「行っちゃいましたね、勇者さん」
「うわ、居たのキューロックさん」
「今来たところです」
「そっか、今来たとこね。………もしかして待ってた?」
「はい、お待たせし過ぎかもしれません」
「そんなに?まぁ確かに二人分は後だけど」
「回想シーンを含めるなら更に後です」
「いや、そこはみんな平等だから」
「仕方がないので許します」
「許されました、と。……それで、キューロックさんもどっか行くの?」
「そうですね」
「……そっか」
会った当初は気味の悪い人、いや人なのか怪しいところだけど。
まあ、そんな感じの存在だった。
でも今となっては言葉にせずとも勝手に心情を読み取ってくるので、隠し事のできない相手としてそれなりに心良く思っていた。
いや、プライバシーが全く守られていないということには目を瞑っているが。
まぁそんな彼女も天使教会から第二勇者パーティを助けるためにやって来たのだから、魔王討伐が終われば元の仕事に戻るのだろう。
「じゃあ、元気でね」
「はい、お元気で。……ところでなんですけど勇者さん?」
「うん、何?」
彼女は何だか真面目な顔をしている。
その顔を見て、俺は嫌な予感がした。
「確かに私は今からここに置いてある食材を調べてきますけど、別にこれから天使教会の本部に戻ったりはしませんよ?」
「え?」
えーと、つまり。
「はい、これからもよろしくお願いしますね、勇者さん」
んー、なるほど。
これからも内心を打ち明けるまでもなく、勝手に心中お察ししてくる人が近くにいるわけか。
「それでは、私はこれで」
タタタッと取り皿両手に持って走る女性は、次なる料理を求めて消えた。
「うーん、嬉しいような嬉しくないような」
さてと、そろそろこれで終わりだ。
最後に彼女と話そう。
パーティー会場で、一人ポツンと佇む女の子、みたいな感じで彼女が居たらとっても見つけやすかったのだが。
残念ながら彼女は周囲の人達の中に紛れて、あたかも自分も周りの人達と縁があるという風に隠れていた。
人混みの中を、人にぶつからないように気をつけながら歩く。
彼女がこちらに気が付いたようでくるりとポニーテールが回って、緑の瞳が見えた。
「よっ、メイリー楽しんでる?」
「先輩程ではないですけどね。料理は食べたことのないようなものしか並んでませんし、ちょっと隣の人に話しかければ聞いたことのないような話が聞けます」
「へー、そうなんだ。っていうか俺そんなに楽しそう?」
「はい、私のことを置いてエレンスさんに話しかけに行ったりアビちゃんに話しかけに行ったりミーフィスさんに話しかけに行ったり、とにかく色んな人と話してて楽しそうでした」
「あー、そーね。置いてったわ」
「はい、置いていかれました」
「ごめんね」
「ちゃんと埋め合わせてもらいましょうか」
「そうですね」
俺は彼女の手を取って人混みを抜け、
そのままの勢いで会場を出ることにした。
「わわ、急ですね」
「忘れ物とかあった?」
「いえ。それに料理にも飽きてきたところでしたし、ちょうどよかったです」
「ならよかった。行く場所何だけど、どこ行きたい?」
「先輩が行きたい場所で」
「それ難しいんだよなぁ」
行きたい場所?
「うーん、花畑とか?」
「へぇ、先輩にしては悪くない行き先ですね」
「悪くないって……えーと、今咲いてるのって何かあったかな」
「はい、それならお任せを、こっちですよー」
「えっ、結局メイリーに連れてってもらう感じ!?」
「先輩が行きたい場所とは言いましたが先輩に連れて行ってもらうとは言ってませんから!」
今度は彼女が手を引いて、目の前で楽しげに走っていた。
「しょうがないなぁ、まったく」
「そんなこと言ってー、先輩は素直じゃないですねー!」
「ありゃ、それは良くない。素直に行こう素直に」
だって、この光景は、全部受け入れるには余りにも眩しい。
「ほら、素直な先輩の本音が聞きたいです!」
「よし、やっぱりそうやって笑ってる方が可愛いぞ後輩!」
「そういうのじゃないでーす!」
「そんなこと、言われてもなぁ」
段々と走る速度が上がっていく。
「さぁ、お花畑にレッツゴーです!」
「れつごー、れつごー」
「先輩テンション低いですよー?」
「れつごー!れつごー!」
繋いでいない方の手を高く上げて。
「そうですそうです、ノリ良く行きましょう」
ニコニコと笑う彼女の後を追った。
エンディング:もう一度君と
ここまでお読み下さり本当にありがとうございました。
本編はこれで終わりとなります。
今作を書いてみて一番思ったことは設定とプロットは本当に大事ってことですかね。
本来なら魔王はちゃんと魔王討伐で死んでいるはずだったんです。
ですが書いてみたらかなりの強キャラとなり、このように生存ルートで終わりました。
ちなみに先代魔王こと銀髪ロリ魔王ことシルもアルレイに斬られて死んでいるはずでした。
いや、もう設定関係ないじゃん、と思った方。
私もそう思います、本当に何してくれてるんですかね。
でも銀髪ロリに関しては書いていて本当に楽しかったのである意味正解だったかな、と思います。
繰り返しになりますが次作の舞台は現代にしようと思っています。
ちゃんと設定やプロットを組んでから投稿しようと思いますので少し期間が空くことになると思います。
それまでは作者の息抜きのような感じで何か書いて投稿していこうと思っています。
長い後書きになりましたがここまで読んで下さりありがとうございました。
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