29:舞い降りる恐怖
勢いだけで書き切りました。
やっちゃった感が拭えません。
息を吸って、吐く。
刀を抜いて、振るう。
刃はまだ通る、しかし、段々と倒し難くなってきたように思う。
目の前の敵を倒し、周りの様子を確認して、援護が必要そうなところがあれば声をかけて参戦する。
到着してから既に二日、この場所で戦っている。
まだリーダーさん達に余裕があるのを見るとこちらも励まされる。
メイリーも特に無理している様子は無いし一見順調に見える。
まだ敵の増援が来ても何とかなっているが、これから先、更に対処に時間がかかるようになれば敵の増援に対処しきれなくなり、休む暇も無くなるだろう。
何とかその前に住民の避難が終わればいいのだが……。
ちなみに、避難方法は魔法研究会の魔法使い達による転移魔法である。
魔族でも簡単に連続で使える魔法ではないので馬車を使っての移動よりは時間がかかっているが、それでもかなりの早さで住民の避難が行われている。
今回のことが無事に終われば彼らには莫大な研究費用が各国から贈られることだろう。
住民の避難が完了した場合、俺たちはまだ住民の避難が終わっていない町の援護に行くことになるらしい。
リーダーさんも流石に休ませて欲しいもんだと嘆いていた。
というか俺もここが最終決戦場だとばかりに思っていたし。
剣を振る。
今のところ斬るつもりで振った刀で使いを確実に倒せているのが救いではある。
動きが止まったのを確認してから周囲を見回す。
天使教会の人達が使い二体を相手に戦っていた。
敵の数が増えてきたので俺とメイリーは一人二体を同時に相手して天使教会の人達は一つの班ごとに二体を相手にしている。
メイリーは既に一体を倒して残り一体を相手にしている。
空を見上げればどこか遠くに何体かの使いが降ってきているのが見えた。
万が一、町に落ちてくるものがあった場合は天使教会の人達の中でもかなり大きな武器を持った人達がそれを穿つ。
そして落ちてきたものがまだ避難していない住民に当たらないように障壁を張るのだ。
ドタドタと地面を走ってくる使い達が見える。
増援が来たので休んでいた班の人達が動き出す。
リーダーの人が俺とメイリーに休憩の指示を出したので下がって休むことにする。
倉庫番の人に飲み物と食糧を貰ってベンチに腰掛ける。
「お疲れ様です、先輩」
「お疲れー」
両手に飲み物などを持ったメイリーが隣に座った。
本来ならここで彼女の食事シーンでもゆったり見たいところなのだがあんまりふざけてる場合じゃないので真剣に休憩しつつ、片目でメイリーの食事シーンを見守る。
結局見てるけれども、まぁ休憩のうちということで自分で自分を納得させた。
こくこくと、飲み物を飲んでから、パクリと食べ物を口にする黒髪の少女。
息を大きく吸って吐いた。
自分がまあまあ疲れているらしいことを確認する。
視界に映る少女は静かに汗を拭いながら休んでいる。
飲んだり食べたり、黒髪の少女を眺めたり、武器の手入れをしたり、軽くではあるがきちんと休むことができた。
リーダーさんが参戦の指示を出しているので刀を握って戦場へ歩き出す。
剣を振って、剣を振り抜いて、剣を振り下ろして、剣を振り上げて、剣を突き込んで、
今見える最後の使いを斬り倒した後、誰かの叫び声が聞こえた。
が た
なんて言っていたか。
なん りょう しま た
避難が完了しました?
リーダーさんが撤退の指示を出している。
やっぱり住民の避難が終わったんだろうか。
剣を振ってメイリーの相手していた使いを斬り倒し、一緒にリーダーさんのところに行く。
「お前ら、よく戦った! 住民の避難が完了したためこれよりこの町を放棄して撤退する!」
町の中心で住民の避難活動をしていたであろう魔法研究会の人達が出てきて転移魔法の準備を始めた。
「増援!増援です!」
見張りをしていた人がこちらに走ってくる。
「数は何体だ!」
「三体ですが一体が他の個体よりも大きく、困難が予想されます!」
ようやく中ボス戦と言ったところだろうか?
「まだ行けるか?」
リーダーさんがこちらを見ている。
隣を見ると同じようにこちらを見つめる緑の瞳があった。
「大丈夫です、他の二体を任せてもいいですか?」
「だそうだ!D班E班、勇者様達の援護に入れ!」
「「了解」」
刀の柄を軽く握ってその場で振った。
「大丈夫そうかな」
「先輩は援護に入って下さっても構いませんよ。私が前に立ちますので」
メイリーがニヤリと笑ってそう言うのでちょっと元気が出た。
「んじゃ、行こうか」
「了解です」
二人で地を駆ける。
使い達が見えてきた。
確かに一体だけ他のやつの2倍くらいの大きさをしている。
D班E班の人達が先行して小さい方を引きつけてくれたので自分達の目標に向けて突っ込む。
刀を相手の外殻に当てながら滑らせる。
「うげ、硬っ」
メイリーも剣を叩きつけるが弾かれている。
「メイリー!ちょっと時間稼いで!」
「今やってます!!」
予想以上に元気な返事が帰ってきたことに驚きつつ呼吸を整える。
金属の擦れる音が聞こえる。
刃が対象を斬る音が聞こえる。
刀が振られた音が聞こえた。
あの人が刀を振って、斬れなかったものを、俺は見たことがない。
俺はあの人の奇跡をなぞるだけ。
剣を振る。
しばらくすると、重たいものが地に倒れる音が聞こえた。
刀を軽く振って鞘に納める。
「先輩、早く行きますよ!転移魔法の準備できたそうです!」
「いやいや、労って?褒めて?倒したよ?俺」
「ほら、早く早く!」
「そんなー」
目の前でぶんぶん揺れるポニーテールを眺めながら引っ張られていった。
「で、何これ?」
「何、と言われてもな。この星の危機なのだから私が戦っていることはおかしくないだろう」
「いやおかしいって」
「私の目的は変わらない。しかし約束は果たさねばな」
闇より暗い雰囲気の男が一人、戦っていた。
いや、今は俺もその隣で戦っているのだが、どうしてこうなった、と言いたい。
角を隠した魔王は人族の住むこの町で当たり前のように雑魚共を蹴散らしていた。
「そもそも何で生きてんだよ……」
もうホント勘弁してほしい。
おかしい、片翼の天使を流していただけなのに……
まぁ、とりあえず大丈夫でしょう。
明日の自分に託します。