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26:走れ若人


「魔王、討伐終了」


周囲を見回し、敵がいないこと確認してから刀を納める。


「感慨に浸りたいところだが、急いで外に出た方が良さそうだね」


いつの間にか外へ出て、そこから戻って来た様子のアマリアが声を上げる。


「うー、嫌な予感って当たるんじゃよなぁ」


ぴょんぴょんと飛び跳ねながら面倒くさそうに喋るロリ。


「何かあったんでしょうから、行きましょうか、先輩」

トントン、と肩を叩いてくる後輩に、魔王討伐の余韻とか無いんだろうか?


逞しくなっちゃってまぁ。


「周囲を警戒しつつ、外に出ます!」


拳を上げ、声を張る。特に要らないポーズも取った。


周囲の目が冷たいので、足早に外に出ることにした。


「うわぁ、何あれ?」


空には山のように大きな岩が幾つか浮かんでいる。


空、と言ってもかなり遠い。

その姿には白くモヤがかかっている。


と、それを眺めているとそこから何かがこちらに降って来た。


「何か来ますね」


隣を見るとメイリーが抜刀していた。

シルは魔力を体に巡らせ、アマリアはよく分かんない。


「とりあえず俺も刀の柄に手当てとこ」

「先輩、魔王の後に来る謎のラスボスかもしれないですよ、もうちょっと気合い入れて下さい」

「そんなもの存在してたまるかっての」

「残念ながらその予想は外れかもね」


俺の愚痴のような発言にアマリアが地面に降って来たそれを指差しながら答える。


それは勢い良く地面に激突し、弾けたが、その中から何かが出てきた。


というか、周りを見ると他にもたくさん似たようなのが降ってきている。


「うひぁー、気持ち悪いの」


シルの声で正面のそいつに目を戻す。


まず目に入るのはテカテカと光を反射するその体。

人間のように手と足に器官が分かれているなら手が二つ、足も二つだ。

今は屈んでいるが伸ばしたら俺二人分以上はあるだろうその大きさ。


そして気持ち悪いのはテカテカの体だけではなく、その頭部もである。

恐らく後頭部に当たる部分が長く伸びていて、人間の頭三つ分くらいはある。

更に顔に目や鼻のような器官が見当たらない。

人間なら口に該当する部分はぽっかりと穴が空いているだけである。



しばらく見ているとそれはゆっくりと立ち上がり、二足歩行をした。


「立ち上がりましたけど……斬ります?」


メイリーがこちらに確認を求めてきているが、俺は黙ったままだ。


「こちらをジッと見ているね」


こちらに多分顔、を向けるそれに対してアマリアは同じように見つめ返している。


「いや、絶対敵じゃろ、こんな見た目で、はぁい、私ジェシー、これから仲良くしようね? とか言ってきたら儂怖いもん」


シルは纏った魔力を散らすことなくその気味の悪い何かを見ている。


お互いにしばらく見つめ合っていると、唐突にそれが動き出し、こちらに向かってきた。


その速さは中々のもので並の人間なら確実に逃げられないだろう。


「逃げます!」


声を上げて撤退する。

もちろん隣の戦闘態勢だった後輩はお姫様抱っこで回収。


「……あの、先輩、戦わないんですか?」


腕の中で後輩が何か言っているが一旦無視。


「まぁ、下手に戦ってダメージを負いたくない気持ちは分かるけどね」

アマリアが隣に並ぶ。


「追いかけてきとるぞ、あいつ」

シルは俺たちの少し後ろを走っている。


その更に後ろを見ると四足歩行になったそれがかなりの速度でこちらに向かって走ってきていた。


「後輩ちゃん後輩ちゃん」

「はい、何ですか先輩?私走れますし下ろしてくれてもいいんですよ?」

「まぁ、それもそうなんだけどね。

……改めてお帰り。立派に育って嬉しいです」

それを聞いた彼女はポカンとした表情になった後、こちらに向けていた顔をあさっての方向に逸らし、


「なんか、こんな状況じゃなきゃいい言葉だったのかもしれないですけど。

ホント台無しですね」


そしてため息を吐いた。


「………とりあえずホリアス達と合流しようと思うけど異論は?」

「ないですよ」

「私もないね」

「まぁ、とりあえず儂もそれで」


ということでこのまま走り続けてホリアス達と合流することになった。





走り続けて早数分、同じように気味の悪い何かに追われて逃げている集団を発見した。


「よう、相棒!攻撃とかした?」

「したよ!効いたけど次から次へとキリがねぇから逃げてんだよ!」


「何か怒ってね?」

「怒ってますかね」

「怒ってるね」

「怒っとるの」


「そりゃあ魔法使いなのに荷物背負って走ってたら機嫌も悪くなるよなぁ!」


彼はトーレラを背負って走っていた。


その近くには同じようにエレンスがパーティメンバーを抱えていた。

エレンスの横で戦っていた剣士や棒使いの人は一人で走っている。


「何?流行ってるのこれ」

「魔力切れらしくてね、私が一番体力があるから運んでいるのさ」


人を抱えて走っているというのに爽やかに応答するエレンス。

運ばれているのは魔法使いの人で申し訳なさそうにしている。


魔力切れとは、体内の魔力で魔法を使う種族が、魔法を使い体内の魔力を使い切ったときに起こる現象で、その影響は、魔力がある程度回復するまで体の動きが鈍くなるというもの。


体が怠くて動きにくいという感じだ。


「トーレラも?」

「違ぇな、こいつはまだ魔力に余裕ある癖に疲れたからおぶってって言ってきただけだ!」

「へー、そんなことあるんだ。珍しい」

「む、違いますよ。ホリアスは戦闘中殆ど動かなかったので体力に余裕があるだろうということで私が背負われているのです」


ホリアスの言葉に反応するトーレラだがトーレラにも体力的な余裕はありそうに見える。


「意中の相手には甘えるタイプとみた!」

シルが何か叫んでいる。


「お、アビたん。元気そうでなにより」

「うん、元気」

「無視された?!」


一人で何匹かの気持ち悪い奴を引き連れて走っていたアビターンがこちらに合流する。


「ところで今後ろにいるのって何体?」

「いちにいさんしいごぅろ………数えない方がいいですね、これ」


抱えられている後輩がチラリと後方を確認するも後悔したように報告してくる。


「んー、んー?どうしようかな……」


打開策は今追いかけてきている奴らを倒して更に現在進行形で降り続けてきている奴も倒し、空中に浮いている岩を叩き落とすこと。


という結論が頭の中で出たが疲れた体でやることでもないので却下する。


「まぁ、とりあえずキューロックさんに押し付けよう」

「……先輩」

「悪くはない案かな」

「んー、儂もそれで」

「とりあえず何でもいいから早く降りろ、自分で走れ!」

「むむ、女の子には優しくするべきですよ、ホリアス」

「そうだね、女性には優しく接するべきだとも」

「……お腹空いた」

「腹ペコアビたん?!」

「あの、うるさいので降ろしてもらっていいですか、先輩」



「なんだか緊張感に欠けるなぁ」

アマリアが楽しそうに呟いた。



更に走り続けること数分、


「あの、どうして私も走ってるんですかね、勇者さん」

「誰も担ごうとしなかったからかな!」

「なるほど、エンディングで走るアニメは名作ですからね。そこを踏襲するとは良い発想です勇者さん」

「本当に意味わかんないこと言うのやめてくれない?!」

「本当にうるさいので私降りますね」

「ダメです」

「なぜ……」



「そんで、キューロックさん。どうすれば良いので?」

「勇者さんがあれを全て斬れば終わりにもなりますが、その場合バッドエンドが見えてますね」

「よし、やらない。で、どうすればいいの?」

「前にも言った通り何とかなるように対策はしてあります」

「お、あれってこのことだったんだ。

それでその対策とは?」

「そろそろ来るはずですよ」

「来る?」


しばらく黙ってそのまま走り続ける。


後ろからはドタドタと追いかけてくる気色悪い奴ら。

近くには何か話し合っているシルとアマリア。

エレンスは相変わらず優雅に走っていて、その仲間達も必死に走っている。


アビたんはキューロックさんがいた休憩場所にあったクッキーを食べている。


「何も来ませんね……」


手の中の後輩がボソッと呟いた。


とりあえずは体力的にまだ大丈夫なのでいいが、このままだと魔大陸の出口、つまるところ山登りをこのペースでやらなくてはいけなくなる。

流石にそれは脱落者が出そうなのでそれまでに何とかしたいところ。


ドタドタ。

ドタドタドタ。


ドタ。




突然、走る音に混じって何かの破裂音が聞こえた。


「後輩、後方確認!」

「えーと、…………………消えました。

全部弾け飛んでます」


隣を見ると他のメンバー達は次々と走るのをやめていた。


俺もゆっくりと立ち止まり後ろを振り返る。


そこにはキラキラと輝くピンク色の髪を靡かせる圧倒的に美しい少女がいた。


「お姉様!!」


「「お姉様?」」

周りの人の発言が重なる。


その少女はキラリと振り向くと、


「また会ったわね、アルレイ」


ふわりと微笑んだ。



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