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24:爺に次ぐ爺


しばらく角族達の妨害も少なく、ただ魔王城へと走り続けるだけの時間が流れた。


というか魔王城と言っても前回は城内へ入ったところに魔王が居たので城の中を走り回る必要は特になく、無駄に広そうな内部を堪能することもできなかった。

今回も同様の場合は城内への突入が即最終決戦へと繋がるだろう。


あと少しで城門、というところで寒気がした。


剣を振る。


そこには、同じように剣を振ってきていた一人の爺が居た。


「退いてもらえると助かるんだけど」


口を開くも応えはない。


彼は刀を戻し、後ろに跳ぶと重たい口を開けた。


「私の目でも見えん状況になった。状況が同じであるなら貴様を殺せばそれで終わるはずだ、貴様の目には何が映る?」




「……見えたのは過去何があったかだ。以前のあんたの目に何が映ったのかは大体聞いたけど今回も同じなのか?」

「この状況、貴様を殺して終わりではないだろうな。天の使いも何やら慌ただしい」


会話が成り立つ気がしない。


「俺を殺す気がないなら退いてくれないかな」


爺の姿が見えなくなると、視界の左下から刀が伸びてきた。


剣を振る。


「私が出られるのもこれで最後になるだろう。新たな希望、その力を見せてみろ」


振るわれた刀はこちらから合わせた刀によって止めることができたが、すぐにその姿を隠す。


気配を探るが捉えることができない。


後ろから足音がするが誰もいない。


右から刀が伸びてきたように感じたがそこには何もなかった。


刀を振る。

正面から刀が振り下ろされていた。


頭部より少し上のところで抑えることに成功する。


が、刀にかかる力が消えて今度は左から刃が迫ってきた。

刀から右手を離し、腰に下げた両刃の剣を抜きながらそれに応じる。


また爺の気配が消えた。


そこでやっと、シルとアマリアが既に近くに居ないことに気がつく。

恐らく先に魔王城へ入ったのだろう。


右手に持った剣を納める。

同時に爺が正面に現れ、頭部に突きを繰り出してくるので首を右に逸らしつつ屈んで前進し、左腕で彼の胴に肘打ちを入れる。


彼が後ろに飛んで衝撃を減らしたので追って刀を振る。


彼からも刀が振るわれたがその結果、彼の態勢が不安定になった。


息を吸って、吐く。


剣を振る。


そのとき彼のその姿に猛烈に違和感を感じて刀を振りながら後ろに跳んだ。


チン、と音が聞こえる。


これは恐らく納刀の際に起きる音だろう。


目の前の爺を見ると、まるで自分は刀を振り終わったとでも言うかのように静かに立っていた。


カラン、と音が聞こえる。


何の音だとそこに目を向ければ半ばで折れた刀が落ちていた。


握った刀を見れば刀身が半分以上失われている。


「嘘やん」


「なるほど、中々良いものだった。これならば問題はあろうがどうとでもなるだろう」


爺は自らの仕事は終わった、とばかりに姿を消した。


残ったものは折れた刀と両刃の剣、そして置き去りにされた哀れな少年


「そう、アルレイ君に爺の奇行は理解できないのだ」


一人でポツリと呟く。


「刀折れたし、どーしよこれ。両刃で行くしかない感じ?」


恐らく、あのとき後ろに跳んでいなければ斬られていたのは自分自身だったのだろうが、無くなった刀身を見ると悲しくなる。



「あー、ちょっと遅かったみたいですね……」


背後から声がかかる。


聞き覚えのある声に振り向くとそこには黒髪を一つに纏めて後ろに流した可憐な少女が居た。


前方で、カチャ、という音がするので前を向くと腰に何本かの刀を下げた一人の爺さんが折れた刀身を持ち上げて観察していた。


「う」

「う?……うって何ですか先輩」


息が詰まる。

無理矢理呼吸をする。


「小僧、その柄寄越すんなら一本くれてやっても良いぞ」


そう言って腰に下げた刀を見せる。

その中には以前魔王討伐のときにお世話になった一振りがあった。


サッと握っていた柄を渡し、以前お世話になったその刀を指差す。


「これか。……ふむ、今のお前に相応しい刀と言えるだろう」


ニヤリと笑う爺さんから刀を1本貰い足早に下がって後ろのポニーテール少女の側に寄る。


「あ、シジールさんが笑った」

「面白いもんが見れたからな」


今もまだ顔に笑みが浮かんでいる爺さん。


「儂は行くぞ」

「はい、ここまで送って下さってありがとうございました」


ペコリと頭を下げる少女に軽く手を上げてそのまま去っていく爺さん。


しばらくその後ろ姿を眺め続ける。


「えーと、お待たせしました!後輩帰還です!」


「おかえり。……あの人がメイリーの師匠だったりする?」

「いえ、違います。魔大陸に向かう途中で会ったんですけど、良い人ですよね」

「………そうね」


じーっと顔を覗かれる。


「ほら、先輩。折れた刀の代わりも手に入りましたし、いざ魔王討伐です!」

「……………そうねー」


空を見上げて深呼吸。


パチンと両頬を叩いて気分を入れ替える。


「冷静に考えると魔王相手にアマリアとシルっていい勝負どころか決着着くのでは?」

「ほ、ら!早く行きますよー先輩!」


ぐいぐい引っ張ってくる後輩にされるがまま魔王城へと進んだ。


「二人が強いとはいえ相手は魔王だからなぁ。確かに第二形態とかありそうだし心配か」


「引っ張られてないでちゃんと走る!れつごー!」

「ほいほい、れっつごー」


魔王討伐へ行くとは思えない緩やかな気持ちで城門を潜った。


「にしても師匠、相変わらず頭おかしいって……」


放った言葉は誰の耳にも届かないで欲しいとだけ思った。


頑張ります

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