20:魔の大陸へ
大きく立ち塞がるようにその威容を見せる山々を見上げる。
「……ここに来るのは二度目か」
一人、ポツリと声が出る。
「そうだな、ちゃっちゃと登ってとっとと魔大陸行くか、相棒」
後ろから声がかかったのでそちらを見ると、ホリアスが不敵な笑みを浮かべて山々を睨んでいた。
「そーだな、とっとと行くか。だけど油断は無しでな」
「もちろんそのつもりだぜ」
「ここはここでそれなりに面倒だからな、一回通ったとはいえ、気張ってかないと」
「さて、二人ともやる気があるのはいいが、明日も早い。見張りも立てなきゃだし早く休もうか」
そんな俺たちに後ろから声がかかる。
「それもそうだな、ほら、とっとと行くぞ相棒」
「へーい」
馬車でここに着いたのは夕方だったのでささっと野営の準備をして明日出発することにしたのだ。
「えーと、俺はアマリアと組むんだっけ?」
「まぁ、そうなったな……」
野営中の見張りを考えたとき、真っ先に考えたのはシルを誰と組ませるかってことだった。
俺は割と慣れたが、ホリアスやアマリアだと不安があり、トーレラは論外だったのと、
俺がアマリアと組みたかったので、
キューロックさんと組んでもらうことになった。
「大人しく魔王と組んどけよな」
「えー、最近魔王と話過ぎな気がするしそうなるとキューロックさんとアマリアが一緒とかになりそうじゃん」
「何か問題あるのか?」
「問題が起きそうだから回避した」
「まぁ、そう思うなら別にもう何も言わねーけどよ」
「トーレラさんの相手がホリアス以外にできたらよかったんだけど」
「いや、そんなことねぇと思うぞ?」
「いや、割と大変なんだって、アマリアもちょい辛いって言ってたし」
「そういうもんかな……」
「恋は盲目ってな。ま、じゃあ最初は俺とアマリアで見張りするから寝といてくれ」
「任せた」
軽くハイタッチして、別れる。
パチパチと焚き火の音が聞こえる。
「アルレイ、君はさ……」
ポツリとアマリアが語り出した。
「なに?」
「……やっぱり何でもないや。それより明かりに釣られてやってくる獣達がいるかもしれない、眠たいかもしれないけど頑張ろう」
「うん、頑張りますか」
お互いにただ静かに周囲を警戒する。
「そういえば獣除けの魔法とかないの?」
「無くもないが、この辺りに出る害獣はそこまで強力でもないからね。それにそういう魔法はそれなりに魔力を使うんだ。魔力消費の多い魔法を使うと遠くからでも分かる、角族が寄ってきても困るだろう?」
「なるほど」
「ほら、私は今言った通り魔法を使わないから君の出番だ」
明かりに釣られてやってきたのだろう。
何匹かの狼がこちらを見ていた。
刀に手を当て、離した。
勇者育成機関を出るときに持っていた剣を使うことにする。
先頭を走っていた狼がこちらに飛びかかる。
すれ違うようにして喉を突き、後続に投げ飛ばす。
後は攻撃を避けて頭部付近へ突きを入れることを繰り返した。
「お疲れ、そろそろ交代の時間だ。私が起こしておくからアルレイは先に寝てていいよ」
「ん、ありがと。んじゃお先に」
「おやすみ、アルレイ」
「おやすみ」
その後は、横になるとすぐに睡魔が襲ってきたので特に苦もなく眠ることができた。
トラブルがあって起こされるような事もなく
銀髪ロリに叩き起こされるまでゆっくりと眠り続けた。
白い獣がひとつ、ふたつ。
「あー、もう、鬱陶しいのう!」
それを殴り飛ばす銀髪の魔王。
「まぁ、しょうがないよね。角族と違って山の中走り続けるわけにもいかないし、遭遇回数は増えるよね」
「いや、角族だって走り続ける奴は稀じゃよ?何?お主の角族のイメージって化け物かなんかなの?」
「あ、そうなんだ。そういうもんかと思ってた」
「んなわけあるか!そんな奴ばっかなら人族攻めるのに苦労せんわ」
「それもそうか」
話しながらこちらも獣に対応する。
山に入ってから襲いかかってくるのは白い狼のような獣で雪が積もってようが斜面だろうが変わらぬ速度で走ってくるのが特徴だ。
「もうそろそろ半分ですし、皆さん頑張りましょう」
トーレラさんが後ろから声をかけてくれる。
「まだ半分かぁ」
「こっからは下りが多くなるし更に辛いの」
「お婆ちゃんを心配しようと思ったけど普通にこっちも辛いわ」
「お婆ちゃん言うな!年長者として敬うならもっとちゃんと敬え!」
「注文が多いなぁ」
「2個しか言っとらんじゃろうが!」
わいわい騒ぎながら山を下っているとキューロックさんが近くに寄ってきた。
「どうかした?」
その顔は真剣だ。
「彼が、動き始めました」
彼
キューロックさんが真剣な表情をしなければいけない程の存在で尚且つ俺に真っ先に伝えるような、俺に縁のある存在。
そして、今やっと動き出しそうな重い腰を持った存在といえば、
「え?老害?」
「はい、先先代の勇者です」
かつて、先先代の魔王を二人で打ち倒し、その後は静かに隠居していた、消えたはずの勇者。
その後、先代魔王が暴れているところに現れ彼女を斬り倒した爺。
爺の仕事が雑だったのか、彼女が頑丈だったのか、先代魔王は力を失ったものの消滅はしなかった。
前回、増え過ぎた人類を減らすために一人で暴れ回り人族の多くを殺した歩く災害。
「え、もしかしてこのままじゃダメだったの?」
「はい、第一勇者を助けに行ったことであの町にはほとんど被害が出ませんでしたから。
あまりにも角族の被害が少なかったのが問題なんでしょう」
「爺は何が目的なの?」
「第二勇者の殺害もしくは人族の大量虐殺です」
「えーと、何で俺?」
「貴方が魔王を倒す可能性が一番高いからですね。魔王さえ居れば人族は角族の恐怖を知ります」
「なる……ほど?んー」
頭を抱えて転がりたくなったがやめておく。
「それで老害はこっちに来るの?」
「来ません。魔王城で待つようです」
「一番面倒くさい……」
「それほどに第二勇者パーティーは警戒されているということです」
「おーい、何か嫌な言葉が聞こえた気がするんじゃが?」
顔色の悪い銀髪ロリを視界に収めつつ無視する。
「とりあえず、老害の相手は俺か師匠以外に任せたくない。魔王の相手はアマリアとシルで何とかなるか?魔王城付近の角族は相棒とトーレラさんに任せるとして、エレンスとアビターンが居てくれるといいんだけどな……」
「アマリア、相棒!」
「何かな?」
「どうした?」
「人族最悪の老害が出る!場所は魔王城らしいからそのつもりでいてくれ」
「おい、老害ってーと。あの爺か?」
「先先代勇者が出るのか……」
「そういうこと。一応報告だけしとく、詳しい話は山を降りてからにしよう」
「了解」
「了解した」
二人の表情は少し硬い。
恐らく今の自分はそれ以上のしかめっ面をしているだろう。
トーレラさんが不審そうにホリアスに詰め寄っている。
銀髪ロリは顔面蒼白である。
「ねぇ、儂帰ってもいい?」
「ダメ、むしろ俺が帰りたい」
「なら一緒に帰らん?儂別にリベンジとかどうでもいいからさ。角族の有利な世界が訪れるならもうどうでもいいからさ、ね?」
「はいはい、現状勇者さんが死亡する可能性はそれなりに低いですから。頑張りましょうね」
「よーし、何かやる気出てきたわ」
「ねぇ?儂は?」
「勇者さんより低めですかね」
「うっし、いやー、軽くリベンジしちゃおっかなー」
「その場合死亡確率は跳ね上がります」
「いやー、やっぱり平和が一番じゃよな!」
「帰りたい……」
「勇者さんのその後の気持ちはシロナガスクジラのように重かった……」
「その説明必要?」
「いえ、何となく気分です」
お読み頂きありがとうございました。
この妄想はもうちょっと続きます。
我ながら色々と設定が足りてないと思うので、とりあえず連載終了とできるところまで書けたらもう一度書き直してみようかなと思っています。