14:影は多い
頑張って書いていきましょう。
ということでストックを使いますそろそろ空です。
「それで?彼女はどうでした?勇者さん」
部屋に戻ってきたキューロックさんは第一声がそれだった。
「まぁ、妙な雰囲気の人だと思ったよ」
「妙、ですか」
「そう。ロックさんとは違うけど、人間でもないかなっていう感じ」
「そのロックさんって呼び方気に入ったんですね」
「うん。……後は眩しかった」
「彼女はそういう存在ですよ」
「そーか、まぁ、あんな子が呼び込みするなら店も立ち行くんじゃない?」
「そういうことですね」
「問題は何で彼女がここに呼び込みしにきたかってことだろうけど」
「単なる思い付きと暇を潰しているだけのようです」
「なんだか、それっぽいって思っちゃう感じがあるなぁ」
自由。
「えぇ、そうでしょうね」
キューロックさんは静かに頷いた。
「少し、良くなりましたか?」
キューロックさんがこちらの手元を見てくる。
「あー、うん。それなりに戻ってきた感じはするかな」
手には刀を握っている。
「それは良かったです。明日は早いですよ?」
キューロックさんは静かにティーカップを傾けた。
息を飲む。
「何で?」
「さぁ?予想に過ぎませんから。しかし疲れを残すのはよくありません。さ、早く寝ましょう」
ぽんぽん、とベッドを叩くキューロックさん。
軽く汗を拭いて寝ることにした。
「ねぇ、隣で寝ないよね?」
布団をずらして俺が寝る横に入ってくるキューロックさん。
「いえ、寝ますよ?」
その青の瞳をこちらに向ける。
「……もう、それでいいです」
「はい、何事も諦めが肝心です」
「…もうベッド二つある必要ないじゃん」
その日は何だかいつもより良く眠れた。
「これで私と同じベッドで一夜を過ごしたという既成事実が発生しましたね」
朝から優雅にティーカップを傾けている女性のそんな言葉は一旦置いておく、
「良く寝れたからいいんだけど何でこんな朝早くに起こすの?」
まだ日も昇っていない。
目覚めはスッキリとしていて、既に動く準備はできている。
「この街、どうやら落とすようですね」
キューロックさんは静かに語った。
「それは、角族の大群が来るってこと?」
「そのようです。それなりに遠い距離から転移して、そこから大勢でここに突っ込んでくるみたいですね。四天王も一体確認しています」
「四天王ねぇ」
角族と聞いて真っ先に頭に浮かぶのは黒髪に赤い目をした不気味な男。
「それは四天王ではありませんが、四天王でも注意してかかるその姿勢は嫌いではありません」
さて、どうやらお越しなるようだ。
起こしてもらっていて助かった。
確かにこれは目覚めには相応しくない空気だろう。
「ありがとう、キューロックさん。それじゃあ、行ってくるよ」
「えぇ、魔王も付けておきます。お気をつけて」
「そりゃあ頼もしいね、全く」
扉を開けて宿の外へ歩いていく。
扉を閉めるのも忘れずに。
「やれやれじゃのう。全く何で儂が出なきゃいけないんじゃ……」
ぶつくさ言っている魔王を発見した。
「いいじゃん、エナジードレインとかして完全復活しちゃいなよ」
「そうは言ってものう。完全復活なんかしたら普通に斬られそうで嫌なんじゃよなぁ」
二人揃ってすごすごと歩いている。
魔王軍は正面突破がお好きなようで今のところ気配がするのは一方向からだ。
ゾロゾロと角族の大群が押し寄せてくる。
そういえば、初めに角族の大群が押し寄せて陥落した街はどこだっただろうか。
この街ではなかったような気もするが。
「んで、あれザバッと薙ぎ払えないの?」
「できなくはないんじゃけどな、儂今弱体化しとるの、分かる?」
「ならさっさと突っ込んできてよ」
「そんな斬り込み隊長みたいな扱いされても困るのう」
どうやらチマチマ相手するしかないらしい。
物量的に街に流れそうな気配がある。
「そうならないように頑張りますか」
刀の柄を軽く握る。
「儂やっぱお主が戦ってるのみたくないから他の方向から敵が来ないか見てくるわ」
「はいはい、まぁ、こんくらいなら一人で何とかなるかなー。四天王来たらよろしく」
「そういうのって勇者が相手するんじゃないのかの?」
「勇者働きたくない。ほら、行くの?別に一緒に戦ってくれてもいいけど?」
「怠惰じゃな…まぁ、儂は後ろから斬られそうじゃからやだ。じゃあの」
手を振ってどこかへ飛んでいく魔王。
多分だけど、別方向から急に侵攻してきたら困るから他のところへ見張りに行ったんだろう。
……多分だけど。
そろそろ第一陣が到着する。
地を蹴った。
抜刀。
走る、返す刀で敵を斬る。
走る、刀を振り抜く。
走る、周りにいた奴らを斬り飛ばす。
走る、走る、走る。
走り続けた。
それにしても、数が多い。
気がついたらロリ魔王がどこかで戦っていた。
やっぱ強いよな、あいつ。
違う方向から敵が侵攻してきているようだ。
ロリ魔王分身しないかな…
ここら一帯を斬り取って、更地にするしかないのかもしれない。
そんなことを考えていると、
「そこ、退いてなさい」
後ろから、声がかかった。
咄嗟に地を蹴り高く飛び上がる。
下を見ると、そこは地獄だった。
ここから侵攻してきていた大量の角族達
それらが全て弾け飛んでいた。
気配を辿るとそこには長い刀を振り抜いた形になっている、ピンク色の髪をした美しい少女。
「これ、刀振って起こる惨劇じゃないでしょ」
つい、声が出た。
「ふぅ、まぁ、ざっとこんなものかしらね」
乱れた髪をかきあげ、後ろに流す輝かしい少女。
「ミーフィスさん、ここ、頼んでもいいですか?」
そこまで駆けていって声をかけた。
「何で敬語なのよ。敬うならもっと早くから敬いなさいな」
クスリと笑って刀を納めるミーフィスさん。
「いやぁ、でもホント凄かったよ」
「えぇ、そうでしょう?それと、ここ、私に任せたいって言ったわね」
彼女はニヤリと笑う。
「言いました」
「なら、ミーフィスさん美しい素敵って言って?」
俺は息を吸って、
「ミーフィスさん美しい素敵!……できれば俺はここに居たい」
と、全霊の気持ちを込めて言った。
「ふふふ、いいわよ、ここは私に任せないな」
彼女は輝く笑顔で頷いた。
「じゃあお願いします」
一言だけ告げて地を蹴る。
ロリ魔王が戦っているのがチラッと見える。
拳の一振りで数人の敵を爆ぜさせ、蹴り抜くことで周囲の敵を吹き飛ばす。
どう見ても快調であり、段々と力を取り戻しつつあるようだ。
地を蹴った。
そこに三体、男が一体、女が二体いた。
男は何か魔法を準備し始め、
女はその手に持った長い槍を持ってこちらに突っ込んできて、
もう片方の女は二本の短剣を持って俺の後ろに回り込んだ。
まず、槍を持った女がその槍をしならせて先端を叩きつけてくるので下がって回避。
後ろから短剣を振るってくる女がいるので
刃を合わせて防ぐ。
短剣の方を蹴り飛ばし、更に後ろに下がって
降ってきた槍を回避。
一呼吸入れ、剣を振り、
その槍を斬り落とす。
槍女の後ろから飛んできた円錐形の氷の塊を避ける。
槍女は俺から少し離れるとその先端の無くなった槍から新たな先端を発生させた。
男はまた魔法の準備をしているようだ。
短剣女が後ろから迫ってくる気配がする。
息を吸った。
剣を振る。
狙うは短剣女の首。
前から槍女が槍の先端をしならせてこちらの首を狙ってきた。
剣を止め、しゃがんで回避する。
短剣女がそこに二本の短剣を突き入れてくるので、一本を刀を当てることで逸らしもう一本は拳に魔力を纏わせ横から相手の手を叩いて退かす。
槍女が槍を上から振り下ろしてくる。
短剣女の懐に潜り込み、その体を掴んだ状態で上体を逸らし槍の盾にする。
槍女は槍を下ろさなかったのか、衝撃が無かったのでそのまま短剣女の頭を地面に叩きつける。
上体を起こして、横に振るわれる槍を前転することで避ける。
そこに上から円錐形の氷が降ってくるので斬り飛ばす。
向きを変え、起き上がったばかりの短剣女の顔を突きに行く。
槍女は横に周ろうとしている。
短剣女は刀の軌道をずらすためか二本の短剣を振り上げようとしていた。
突きを止め、刀を上に振り抜き、縦に回転する。
刀を自分の背中があった方向に持っていきながら短剣女の首を狙える位置に入る。
槍女が槍を下から掬い上げるように振るってこようとしている。
剣を振る。
短剣女の左脇から刃を入れ右の首の付け根から刀を抜いた。
そのまま更に縦回転し、下から掬い上げるように迫る槍を上から刀で押さえる。
槍を足で踏みつけてから槍に跨り槍女に近づく、槍女は槍を離しすぐに後ろに飛んだ。
横から大量の円錐形の氷が飛んでくるのでそれを避けながらそれでも体に当たるものを斬り飛ばす。
視界に無手の女を捉える。
女は全身に魔力を強く纏わせた。
一歩、距離を詰める。
男が横から飛び出してきた。
両手を横に広げて俺の前に立つ。
男は何かしらの魔法を使っているようだ。
その首を斬った。
そして、無手の女の気配が消えた。
恐らく転移の魔法を男が使ったのだろう。
刀を軽く振り、鞘に納める。
気がついたら下を向いていたので顔を上げると遠くに大量の角族が迫って来ているのが見えた。
「流石に多過ぎだろ」
一体ここが何だというのだ。
そうまでしてここに何を求める。
得られるものはその死体の数に見合うものなのか。
息を吸って、吐いた。
「俺には関係ない……か」
刀の柄を強く握る。
後ろから覚えのある気配がしたかと思うと、
見えていた角族達が光の線によって薙ぎ払われた。
燃え上がる大地。
耳障りな悲鳴。
どれも、一度経験済みだ。
ニヤリと口元に笑みが浮かんだ。
息を大きく吸って
「遅いんだよ、相棒!!」
「無茶言うな!こっちは全力疾走するアマリアに抱えられて来てんだよ!」
「羨ましい、くたばれ!」
「大変だったって言ったんだよ!羨ましいとか聞いてねぇよ!」
「んで、相棒の嫁さんは?」
「誰だよ!?……嫌、違うからな?そういう感じじゃねーっつの。お前の女のとこに置いてきたよ」
「へぇー、アマリアのとこか」
「お前の認識それでいいのかよ?一応言っとくが金髪の奴な」
「キューロックさんね。了解」
変わらぬ地獄が続く大地を見渡す。
「これ、俺必要ある?」
「お前は俺の護衛でもしとけ。後は緊急時要員だな」
「ういうい」
緩みかけた気を引き締める。
「それにしても本当に数多いよなぁ」
見渡す限りの死である。
ここは魔大陸だったのかと思う。
いや、魔大陸でもここまで角族が大量に地に捨てられてはいないだろう。
「どういう原因があるのか、俺には分かんねーけどな」
茶髪も同じく燃える大地を眺めながら声を出す。
「街に被害が出ないといいんだけどな」
「そうならないようにやるしかねぇよ」
しばらくそうやって、茶髪が角族を薙ぎ払うのを横目で確認しながら周囲の気配を探っていた。
それ以降、状況に大きな変化は見られなかった。
お読みいただきありがとうございました。
50万文字ってある種のボーダーラインなんですかね。
小説、書きます。
一話が読み難くて気に入らなくなってきました。
頑張ります。
追記5/1 少し直しました