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10:曇った空の下で


私は片翼の天使を聞きながら書きました。




「結局、今メイリーのところに行っても早過ぎるし、今アマリア達がどこにいるのかも分からないし、角族探して戦うしかないのかー。」


アマリア含むホリアスの杖捜索隊は杖を発見したら角族の住む地にそれなりに近い街であるズイシャの街に行くことになっている。

そこに着いたらその街の天使教会に連絡を入れ、天使教会伝にどこかの街に着いた俺たちに情報が届くというわけだ。

馬車に乗り込む前に確認したが特に連絡はないそうなので今どこにいるのかは分からない。


「アマリアさんにどうしても会いたくなったら言ってくださいね?」

キューロックさんが項垂れる俺に話しかけてくる。

「会えるの?」

望みは薄いが藁にもすがる思いだ。

「会話くらいならなんとかしましょう。」

「まじか、何かやる気出てきた。」

彼女のあの語りを聞けるならまだ頑張れる。

「単純じゃのう…。」

銀髪ロリが何か呟いているが無視だ無視。


「それで、クファの街に向かうんでしたっけ?」

「そう、あそこ魔大陸からも近いし角族いるんじゃないかと思ってさ。」


魔大陸とは、角族が魔族と呼ばれていた時代についた角族の住む場所の名前である。

そこは周りを険しい山で覆われている為簡単には入ることができない。


「あー、まぁ、居るんじゃないかのう。」

銀ロリがぼそっと呟いた。

「何か覚えがあるの?」

「いや、儂だってその辺通ったし、そのときにちょっとな。チラッと見た気がするんじゃよ。」

「何でそんなに覚えてないんだよ?」

「んー、今の魔王軍と接触してもあんまりいいことないしのう。割と縮こまって移動してたんじゃよ。じゃからの…」

「対して顔も見てなかった、と。」

「そういうことじゃ。」

「四天王?」

「多分そうじゃないかのう。」

「なら、行く価値あり、だな。」


相変わらず馬車の移動はガタゴト揺られるしかない。

大急ぎなら魔法でも使ったほうが早そうだが、到着と同時に敵にバレるし、疲れた状態で敵と戦うのは極力避けたいのだ。


対して角族は人間の乗っている馬車をそれなりに襲うことがあるので結構大変だ。


勇者でも乗せない限り基本的な移動にはそれなりのお金を払って護衛を雇うことになる。


まぁ、つまり勇者は馬車の御者からすれば高い金を払わなくてもそれなりの護衛がつくという嬉しい役職の人なのだ。

だから俺たちは馬車をよく使うし、御者の人もぜひどうぞ、と言って乗せようとしてくる。お代も必要ないと言ってくる人が多いが、一応払っている。

なんか、イマイチ特別サービスというものを信用できない。



「しかし、暇じゃな…」

「しりとりでもします?」

「それ地獄をみる気がするから俺は嫌。」

肩で頷く先生。

「都合良く四天王でも襲ってきてくれればいいんじゃがなぁ。」

「いや、ただの角族が襲ってくることはあっても四天王が馬車襲うことはないでしょ。」

「そうですねぇ、ただの角族が都合良く襲いかかってくることも無ければ四天王がこの辺りに都合良くいるというのも考えにくいですよねぇ。」


ちなみに、クファの街に行くことを提案したのは俺ではない。

提案された中には他にも色々な街があったが、中でも俺がクファの街に食いついただけだ。

通る道についてはあまり覚えてないのだが、

確かどれも同じ場所を通って目的地の街へ向かうような感じだった気がする。


つまり、何がいいたいかと言うと、

この金髪の女性は今走っているこの場所を俺に通らせたかったのではないか、ということ。


「考えすぎかな。」

「えぇ、考えすぎですよ、勇者さん。」


俺は静かに警戒することにした。


今日の天気は悪い。


「雨が、降りそうだな。」

「そうじゃな。」


ガタゴトと走る馬車。


雨がポツリ、ポツリと降ってきた。


風が木々を揺らしている。


嫌な気配だ。


この気配には、覚えがある。


「ふむ、なるほどのう。儂は出んぞ。勝手にしろ。」

銀の髪を揺らす魔王は目を閉じて静かに語った。


刀を握る。


馬車から飛び降りることにした。



肌に当たる雨が冷たい。


ガタゴトと馬車は俺を置いて走っていく。


目の前には短い黒髪の男。

その額からは二本の角が生えている。


「久しいな、勇者よ。」

暗い、声がした。


「何でお前がここに?」


「一つ、邪魔なものを潰しておこうと思っただけだ。」

重たい声がする。


思い出すのは魔の大陸、その最奥。


「第一勇者…」

邪魔なもの。彼にとって邪魔な存在とは彼の目的を阻止しようとするものだ。


彼は俺のことは勇者と呼ぶ。

彼は第三勇者のことを目に留めていない。


「そう、呼ばれているらしいな。…おかしなものだ。あの程度の男が人類の希望だとはな。」


「お前が邪魔したんだろ。」

そうでなければ彼がこの世界を救っていた。


「邪魔?違うな、あの程度で消えるなら元より無いに等しい光だ。」


男はその手に一振りの剣を握った。


「…それで、何のようだ。」


「貴様に会ったのは偶然だ。」


その手に持った剣を振り下ろしてくる。


手に持った刀でそれを往なす。


「挨拶のつもりか?」

男の赤い瞳を睨みながら言葉を返す。


剣を振った。


相手からも剣を振られ弾き返される。


「そうだな、貴様の腕が鈍っているようなら、ここで潰しておこうと思ったのだが。」


剣を振った。


間合いの外へと逃げられる。


追って剣を振る。

刃を合わせることで防がれる。


「変わらんな、勇者よ。」

薄く笑う黒髪の男。


お互いに剣を振った。


互いに剣が弾かれる。





男の背後から炎の玉が飛んでくる。


剣を振る。


火の玉は斬られ、消えた。


「また、いずれ相見えるときが来るだろう。」

「お前とは二度と会いたくないな。」

クツクツと押し殺したような笑い声が響く。


火の玉の向こうに、男の姿はなかった。



雨が強く振っている。


刀を軽く振った。

そして鞘に納める。


風が強く吹いて髪を揺らしていた。












馬車はまだ追いつける距離にありそうだ。


息を吸って、吐き出す。


空気が冷たい。


体が冷え切るまであとどれくらいだろうか?


地面を蹴った。


風が強く体に当たり、雨粒も同じようにぶつかる。


しばらく走っていると馬車に追いついた。


金の髪に青の瞳を携えた女性がこちらに手を振っているのが見える。


その馬車に飛び乗った。


「お疲れ様です。勇者さん。」


タオルを手渡してくる金髪の女性。


「ここに来る必要あったかな。」

「えぇ、これで彼が第一勇者のところに行くのが遅れます。」

「もう二度と会いたくないんだけどなぁ。」

髪をごしごしと拭いてだいたいの水気を落とす。

「こちらもどうぞ。」

新しいタオルを渡してくる。

ついでに着替えも。

周りを見るが銀髪ロリとキューロックさんしか居ない。


適当に鎧を外し服を脱いで体を拭き、キューさんが持ってきてくれた服に着替えた。


それは先程来ていた服とほとんど一緒で、側から見ると濡れた服を乾かしただけのようにも見える。

しかし濡れた服は鎧と一緒に乾かしている。

彼女の謎は、そろそろ解明できるのかもしれない。


「そうなるといいですね。」

小さく笑う金髪の女性は今日も優雅にティーカップを傾けていた。


馬車で飲むの?それ、揺れない?


「ちょっと飲みづらいんですよね…」


「…馬鹿なの?」

可哀想な金髪の女性を、俺はしばらく目を細めて見ていた。


魔王、考えていたのより3倍くらい強くなりました。

恐るべし片翼の天使(設定の緩さのせいです。)

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