*37 終焉
空を見れば、いつの間にか夜が明け始めていた。
陽が差し込み始め、眩しさに目を細める。自分達の夜が明けた様な、清々しい気持ちだった。
アザラン侯爵達が亡くなって以来、こんな気分のいい朝陽は初めてであった。
「……終わった……な」
ガイドが独り言の様に呟き屋敷に深々と一礼すると、皆も思い思いに頭を下げていた。
最期の最期まで、侯爵に対する敬意だった。
そして、別れを告げ頭を上げた瞬間ーー
ーー屋敷は炎に包まれた。
何処が発火元かは分からない。だが、何処とは言わず屋敷のあちらこちらから突然、音も無く炎が上がっていたのだ。
それは、終わりを告げる炎の様だった。
ガイド達は、皆、無言でそれを見ていた。
何故? と誰の口からも疑問は沸かなかった。
アザラン侯爵らしい終焉だと思ったからだ。潔くて高潔。彼等らしい幕引きな気がしてならない。
生きているゾット達には業火の炎だとしても、ガイド達にはそれはまるで送り火の様だった。
こんなに屋敷の近くにいても、ガイド達には全く熱さを感じない。高尚さまでも感じる、不思議な……紫色の炎だった。
見る人によっては様子を変える不思議な炎。ガイド達には高潔で優しい送り火に見えた。
だが、何か思うところがある者には、不気味で恐ろしい業火に見えていた。
その高潔な炎は、屋敷だけを燃やし続けていた。強い風が吹こうと周りに移る事も、吹き消える事はなく、三日三晩ユラユラと燃え続いていたのだ。
すべてを焼き尽くさんと、アザラン侯爵達の強い遺志を感じる業火の炎。ゾット達に罰を与える業火の炎だった。
ーーそして、3日後。
火がやっと消えた後には、屋敷があった場所には燃えカスさえもなかった。ゾット達の遺体も何もかもである。普通なら残る燃えカスも、黒く残るハズの跡も、何もなかったのである。
ガイド達はそれも、アザラン侯爵の優しさなのだと感じていた。
屋敷が残っていれば良い思い出も、悪い事も思い出すだろう。そのどちらだとしても、皆の胸を強く絞める象徴になってしまう。
だから、すべてを彼方に持っていってくれたのだ。
『お前達は前に進みなさい』と背中を押してくれた様な気がしたのだ。
心が落ち着きを取り戻した頃、他にも起きていた不可思議な事に皆は徐々に気付き始めた。
屋敷の周りに放置していた、バンダイン達の遺体は跡形もなく消え失せていた事。
ここでバンダインの奇襲に気付いた仲間が、一体誰だったのか誰も知らなかった事。
それ処かクリスを埋葬しようと、裏庭を隈無く捜したが、見たハズの白骨がなかった事。
そして、屋敷が燃えてなくなった跡地には、地下室への道も消えていたのだ。まるで初めからなかったかの様に更地になっていた事。
それを見たガイド達は、唖然とはしたものの次第に苦笑いが漏れていた。
アザラン侯爵らしくて仕方がなかったのだ。後に何も残さない主人らしい終焉の様な気がした。
不可思議といえば、最後にもう1つだけあった。
アザラン侯爵達の、無念を晴らそうと集まった有志達がしていた指輪である。ここに咲く6枚の花びらで2色の花。シュレミナ姫が愛していた花を象ったの指輪。
銀で作られていた筈だった。それが知らぬ間に銀ではなく、全く違うモノに変わっていた事である。
白い花びらはダイヤモンドに、蒼い花びらはサファイアに変わっていたのだ。
ーーそれはアザラン侯爵からの、最期の贈り物の様だった。
ゾット達にすべてをムシリ取られた彼等達に、生きる糧としてくれたのかもしれない……だが、真相は謎のまま。
でも、それでいいのだ。
何も残らなかった彼等にとって、それは、確かに生きる【希望】になったのだから……。




