表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アザランの花  作者: 神山 りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/38

*36 永久



 穏やかだったアザラン侯爵の、奥底に沈む激昂を肌で感じた。その姿は、何もしていないガイド達でさえ動けなかった。

 最初で最期に、温厚なアザラン侯爵の初めて見せた、強い信念がそこにはあった。




 『お父様』




 ーーその空気を破る様に、シュレミナが父の袖を引っ張った。




 何かに気付いたのか、窓をチラリと見て促したのだ。

 勿論、誰かを助けるために動いた訳ではない。時間が迫っていると感じ知らせるためだった。

 袖を引くシュレミナを見たアザラン侯爵は、表情をガラリと変え優しく微笑み返した。

 




『ファイル様』

 主人の表情が戻り、縛が解けた様な気がした執事長のナザックは、同様にチラリと窓の外を見て声を掛けた。

 窓の外は白みかけていた。もうすぐ夜が明けるのだろう。

 それは別れの合図の様に感じた。各々の別れが近付いている事に、皆は自然と気付き別れを惜しむ。



「お館様」

 今度こそ永遠の別れが訪れると、ガイドは肌で感じていた。

 だが同時に、引き留めてはいけない事も察している。

『ガイド、皆。今までありがとう。そして、シュレミナとクリスを救ってくれて感謝する。お前達は私の誇りだ』

「「「お館様」」」

「私達も、あなたに仕えていた事を誇りに思います」

「私達の永遠の主人です」

「いつか、また逢いに行きます」

 皆は涙を拭い、笑顔を見せた。最期は笑顔を見せたかったのだ。

 泣いて別れるのは、あの時だけで充分だった。

 今までの気持ちを皆は言葉として、アザラン侯爵に感謝を伝える事が出来た。いなくなって改めて、アザラン侯爵達の偉大さを感じていたのだ。

 ずっと感謝の念を伝えたかったのだが、今やっと皆は伝える事が出来清々しい気分だった。



『さぁ。お前達は帰りなさい。後始末は主人の役目だ』

 アザラン侯爵はパンパンと笑顔で皆を促した。

 これがアザラン侯爵達の、本当の最期なのだ。

『お父様。見送っても?』

 シュレミナがガイドの隣に立ち見上げていた。別れを惜しんでいるのは、皆一緒である。

『俺も行くよ。俺の可愛い姫』

 アレンがやっと帰って来たシュレミナを、大切そうに抱き上げた。もう、何があっても決して離したりはしない。

『ファイル様も最期のお見送りを』

 ナザック達が笑顔で玄関に促した。



『お前達は良いのか?』

 アザラン侯爵は皆を見渡した。

 ゾット達の縛が解けてしまうから、全員で見送りは無理だった。だが、最期の見送りになる。出来るだけ後悔のない最期にしたかったのだ。

『私達はもうしました』

『お館様達で見送ってあげて下さい』

『どうせ、いつかは会えますしね』

 光りの魂だった使用人達は、別れの挨拶をするためなのか姿を現していた。姿が見えるか見えないかくらいの、霞みかかった姿。

 ガイド達は、懐かしい面々に自然と笑みが溢れていた。



「またな。リスト」

『元気でガイドさん』

『バイエル、ガイドをよろしく』

「わかってるよ。ナザック」

 皆は最期になる挨拶を、思い思いでしていた。

 後ろ髪を惹かれない者はいない。だが、住む世界が違うのだ。以前の様に、この屋敷でずっと一緒には無理なのだ。

 ならば今度はせめて、笑顔で別れようと心に決めていた。



 ガイドやバイエルは、思わずゾット達に目線を落とした。血色はなく土色をしている。諦めているのか、叫ぶ事も出来ない様に何かされているのか、ガイド達には分からなかった。

 しかし、それでいい。知る必要はないのだ。ゾット達がこの後どうなるかなんて、最早どうでもいい事だった。

 ガイド達にはすでに終わった事。アザラン侯爵がすべて終わらせてくれるだろう。



『ガイド、ライナさん。レミちゃんによろしく』

 入り口でアレンに抱えられたシュレミナが、優しく微笑んでいた。あの明るく元気なシュレミナに戻っていた。

 それが、どうにも嬉しい。

「ありがとう、姫。あなたに逢えて良かった」

 ライナは溢れる涙を、必死に堪えながら笑った。泣くのは今ではない。シュレミナには笑顔で別れを告げたかったのだ。

「姫。私はーー」

 護れなかったと、ガイドは今もなお無念しかなかった。

 寂しく1人で逝かせてしまったと、胸が詰まっていた。



『ありがとうガイド。あなたに救われたわ』

 ガイドの気持ちが痛い程分かるシュレミナは、彼の言葉を遮っていた。

 確かにいつ自分が死んでしまった事も、分からないくらいに辛かった。でも、結果的には救われたのだ。囚われていた魂は彼等によって救われた。それでいい。救ってくれた彼等が、自分を想って後悔する必要はないのだ。

『クリスとレミを……シュレミナを救ってくれてありがとう』

 リリースはアザラン侯爵の脇に立ち、皆にニコリと微笑んでいた。娘とクリスを救ってくれた皆に、最期の感謝の気持ちを告げたのである。

『ガイドさん。皆ありがとう』

 シュレミナの傍にいるクリスが、笑顔で別れを告げた。

 彼もまた、自分を探し救ってくれた彼等に感謝していたのだ。見つけてくれなかったら、今もずっと永遠の闇をさまよっていただろう。

『皆、元気で、またね』

 アレンは涙を浮かべる皆に、笑顔を浮かべていた。

 自分達が救えなかった2人に、やっと会えた事が嬉しかった。最期に大切な仲間に別れを告げられた事が、素直に嬉しかった。



 お互い皆、これが本当の別れ。だが、不思議と寂しくはなかった。いつかまた会える事を知っているから……。

 次々と屋敷に消える皆を見送ると、シュレミナを抱えたアレンが最期に屋敷に戻って行った。

 それを最期に確認した執事長ナザックとダイクドが、会釈をすると両脇から扉をゆっくりと閉めていた。




 その閉まる扉の隙間から、最期の最期に見えたのはーー




『ガイド~。皆~がんばれ~!!』

 あの時と同じ、皆に "贈る" 激励。

 アレンの腕に抱えられたシュレミナが笑顔で、手を振っている可愛い姿であった。





 ……それが、アザラン家の本当の最期であった。





 そして……ガイド達の長い長い復讐が、終わりを告げた瞬間でもあった。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ