*31 葛藤(後編)
「ガイドさん?」
ガイド達が大広間に着くと、バイエル達が集まっていた。
食堂の裏に隠れていたと思われる、妻アマンダ、娘マリアを引き摺り出し縛り上げていたのだ。
これで、ゾットの家族を含め、屋敷にいた使用人達全員がここに集められた事になる。抵抗していたバンダインの手下共は、そのほとんどが屍となり果てた。しかし、抵抗しない者についてはココ1ヶ所に集められていたのだ。
「ガイド!? あなた達だったの!? こんな事をして後でどうなるか分かっているの!? 皆を絶対に極刑にしてやるわ!!」
この状況下でも、威勢が残るアマンダが金切り声で叫んでいた。
自分達をこんな目に合わせて、処分が下されないと思っているのか。今からでも遅くはないから、縄をほどけと叫んでいたのだ。
「黙れ!!」
バイエルはアマンダの頬を、力任せにひっ叩いた。
小さな悲鳴を上げて、アマンダ床に倒れた。
「きゃあぁぁ!! 野蛮人!! 身の程を知りなさいよ!!」
母を叩いたバイエルや、助けない皆にマリアはそう叫んだ。
だが、バイエル達に睨まれグッと口をつぐんだ。流石のマリアにしても、バイエル達の形相が怖かったのだ。
「マリア……シュレミナ姫を閉じ込めた地下室は何処だ?」
ガイドはマリアの襟首を、力任せに引っ張っていた。
地下室といっても、何ヵ所とある。場所の確認と、シュレミナを本当に閉じ込めていたのかを、当事者の口から聞きたかったのだ。
「今更……そんな事を聞いてーー」
「何処だ」
マリアはそんな事を、今更聞いてどうするのか訊きたかった。だが、それを許す雰囲気は一切ない。質問にだけ答えろと、襟首をさらにギリギリと絞められていた。
「し……使用人用の食堂脇にある……扉から下に行けるわよ」
どうせ死んでるのに……心ではそう呟きながら、マリアは苦しそうに答えた。
黙っていれば殺されると判断したのだ。地下室に入れたのは父や母。ガイドは放る様にマリアを床に投げ捨てると、堪らず走り出していた。
「いったぁ!! 私は何も……何もしてないわよ!!」
投げ捨てられてもなお、虐めたのは使用人達。自分は無関係だと、立ち去るガイドの背に叫ぶのであった。
*・*・*・*・*
マリアが言った様に、20畳程の使用人の食堂の脇に背の低い扉が1つあった。鍵は扉の脇に掛かってあり、ガイドはそれを使って震えながら、カチャリと開けた。
「……っ」
開けた途端に、ツンとした臭いが鼻を抜け、纏まりつく異様な空気を肌に感じた。
肥料やカビの様な、嗅いだことのない臭いがツンと辺りに漂う。袖で口を塞がないと、えずくキツい臭いだった。
「こんな場所に姫が……」
バイエルもその異様な雰囲気に、眉を深く寄せた。
背後に念のためと剣を構えたバイエルが、堪らず鼻や口を押さえる。
もしかしたら、ゾット達の罠かもしれないと付いて来たのだ。指示は出してはいなかったが、入り口にも仲間達がいつでも援護出来る様に待機していた。
「……」
扉のすぐ先には下へと延びる階段がある。異様ではあるが、何故か恐怖は一切感じなかった。ゆっくり覗くと下は真っ暗で何も見えない。ガイド達が意を決して1歩ずつ踏み出すと、何故か壁にある小さなランプがチカチカと辺りを照らし始めた。
それはまるで、奥へ来いと呼んでいる様であった。
バイエルは少しビクリと肩を揺らしていたが、それくらいではもう、ガイドは驚かなかった。
心臓が痛いくらいに、ドクドクと鋼を打ち始める。恐怖心からではない。知らない方がいい事実がそこにある……それが、胸を強く締め付けていたのだ。
カツンカツンと妙に響く、石畳の階段を降りるにつれ、さらに重い空気が身体にまとわりつき始めていた。湿気の様な靄が、服をじっとりと湿らす妙な感覚だった。
それでも立ち止まる事はなく、階段を十数段程降りると、目の前には覗き窓もない、厚い木の扉があった。
足元には、小さな扉があるだけの扉。だが、ガイド達には牢獄に見えていた。囚人を収容する部屋にしか見えなかったのだ。
「こんな処に、姫が閉じ込められて……」
"いた" とも "いる" とも言わなかったバイエル。
"いた" と強く言えない何かが、心を支配していた。
「開けるぞ」
バイエルに言ったのか、自分に言ったのかガイド自身も良く分からずに口に出していた。
何かを発っしていないと、この扉を開けられなかったのだ。
ガイドはカラカラに渇いた口を噛み締め、扉に掛かる閂をゆっくりと持ち上げた。
閂は錆びているのか、ガリガリと扉を擦れる様に持ち上がる。
ここまでして、何故閉じ込める必要があるのか、ガイドには分からなかった。だが、シュレミナを思うと怒りと哀しみで、目頭が熱くなっていたのである。
ーーギギッ。
閂を外すと、ガイドは重い扉をゆっくりと開けた。
そこには、何もない事を願ってーー




