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アザランの花  作者: 神山 りお


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31/38

*31 葛藤(後編)



「ガイドさん?」

 ガイド達が大広間に着くと、バイエル達が集まっていた。

 食堂の裏に隠れていたと思われる、妻アマンダ、娘マリアを引き摺り出し縛り上げていたのだ。

 これで、ゾットの家族を含め、屋敷にいた使用人達全員がここに集められた事になる。抵抗していたバンダインの手下共は、そのほとんどが屍となり果てた。しかし、抵抗しない者についてはココ1ヶ所に集められていたのだ。



「ガイド!? あなた達だったの!? こんな事をして後でどうなるか分かっているの!? 皆を絶対に極刑にしてやるわ!!」

 この状況下でも、威勢が残るアマンダが金切り声で叫んでいた。

 自分達をこんな目に合わせて、処分が下されないと思っているのか。今からでも遅くはないから、縄をほどけと叫んでいたのだ。

「黙れ!!」

 バイエルはアマンダの頬を、力任せにひっ叩いた。

 小さな悲鳴を上げて、アマンダ床に倒れた。

「きゃあぁぁ!! 野蛮人!! 身の程を知りなさいよ!!」

 母を叩いたバイエルや、助けない皆にマリアはそう叫んだ。

 だが、バイエル達に睨まれグッと口をつぐんだ。流石のマリアにしても、バイエル達の形相が怖かったのだ。




「マリア……シュレミナ姫を閉じ込めた地下室は何処だ?」

 ガイドはマリアの襟首を、力任せに引っ張っていた。

 地下室といっても、何ヵ所とある。場所の確認と、シュレミナを本当に閉じ込めていたのかを、当事者の口から聞きたかったのだ。

「今更……そんな事を聞いてーー」

「何処だ」

 マリアはそんな事を、今更聞いてどうするのか訊きたかった。だが、それを許す雰囲気は一切ない。質問にだけ答えろと、襟首をさらにギリギリと絞められていた。

「し……使用人用の食堂脇にある……扉から下に行けるわよ」

 どうせ死んでるのに……心ではそう呟きながら、マリアは苦しそうに答えた。

 黙っていれば殺されると判断したのだ。地下室に入れたのは父や母。ガイドは放る様にマリアを床に投げ捨てると、堪らず走り出していた。

「いったぁ!! 私は何も……何もしてないわよ!!」

 投げ捨てられてもなお、虐めたのは使用人達。自分は無関係だと、立ち去るガイドの背に叫ぶのであった。





 *・*・*・*・*




 マリアが言った様に、20畳程の使用人の食堂の脇に背の低い扉が1つあった。鍵は扉の脇に掛かってあり、ガイドはそれを使って震えながら、カチャリと開けた。

「……っ」

 開けた途端に、ツンとした臭いが鼻を抜け、纏まりつく異様な空気を肌に感じた。

 肥料やカビの様な、嗅いだことのない臭いがツンと辺りに漂う。袖で口を塞がないと、えずくキツい臭いだった。

「こんな場所に姫が……」

 バイエルもその異様な雰囲気に、眉を深く寄せた。

 背後に念のためと剣を構えたバイエルが、堪らず鼻や口を押さえる。

 もしかしたら、ゾット達の罠かもしれないと付いて来たのだ。指示は出してはいなかったが、入り口にも仲間達がいつでも援護出来る様に待機していた。

「……」

 扉のすぐ先には下へと延びる階段がある。異様ではあるが、何故か恐怖は一切感じなかった。ゆっくり覗くと下は真っ暗で何も見えない。ガイド達が意を決して1歩ずつ踏み出すと、何故か壁にある小さなランプがチカチカと辺りを照らし始めた。

 それはまるで、奥へ来いと呼んでいる様であった。



 バイエルは少しビクリと肩を揺らしていたが、それくらいではもう、ガイドは驚かなかった。

 心臓が痛いくらいに、ドクドクと鋼を打ち始める。恐怖心からではない。知らない方がいい事実がそこにある……それが、胸を強く締め付けていたのだ。



 カツンカツンと妙に響く、石畳の階段を降りるにつれ、さらに重い空気が身体にまとわりつき始めていた。湿気の様な靄が、服をじっとりと湿らす妙な感覚だった。

 それでも立ち止まる事はなく、階段を十数段程降りると、目の前には覗き窓もない、厚い木の扉があった。

 足元には、小さな扉があるだけの扉。だが、ガイド達には牢獄に見えていた。囚人を収容する部屋にしか見えなかったのだ。

「こんな処に、姫が閉じ込められて……」

 "いた" とも "いる" とも言わなかったバイエル。

 "いた" と強く言えない何かが、心を支配していた。

「開けるぞ」

 バイエルに言ったのか、自分に言ったのかガイド自身も良く分からずに口に出していた。

 何かを発っしていないと、この扉を開けられなかったのだ。

 ガイドはカラカラに渇いた口を噛み締め、扉に掛かる閂をゆっくりと持ち上げた。

 閂は錆びているのか、ガリガリと扉を擦れる様に持ち上がる。

ここまでして、何故閉じ込める必要があるのか、ガイドには分からなかった。だが、シュレミナを思うと怒りと哀しみで、目頭が熱くなっていたのである。




 ーーギギッ。




 閂を外すと、ガイドは重い扉をゆっくりと開けた。

 そこには、何もない事を願ってーー






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