*30 葛藤(前編)
「……な……に」
何を言っているんだよクリス。
ガイド達は喉を詰まらせた。心臓が止まった様な苦しさで、息も出来なかったのだ。
『 "僕" 』
クリスは、再びそう呟くと悲しそうに笑った。
「な……何の冗談なんだよ!? んな訳ないじゃねぇか!!」
「お前はそこにいるだろ?」
「それは、犬かなんかの骨なんだろ!!」
そう……土から見える白いモノ、それは骨だった。
それを、"自分の" だと笑うクリスにガイド達は、口々に何を言うのだと問いていた。
いや、クリスにではなく自分達に、言い聞かせる様に叫んでいたのだ。クリスの悪い冗談だと、叫んだのだ。
だが、叫べば叫ぶ程に頭が冷え、心が震えていた。
土から見える白いモノは、形からも犬の骨には到底見えない。細い骨は人の手に見えたし、半分しか見えない丸いモノは頭蓋骨だと分かる。分かってしまった。
「見つけてくれて、ありがとう」
クリスはお礼を言うと、悲しそうに微笑んでいた。
否定も肯定もしなかったが、それはまるで認めている様だった。
「何を言っているんだ。クリス」
ガイドは、震えるその手でクリスの肩に触れた。
悪い冗談は止めろと、ポンと軽く叩くつもりだった。
だが――――
ガイドの右手は、クリスをすり抜け空をきっていた。
「「「……っ!?」」」
それを見た仲間達は、目を見張りドクリと心臓が止まっていた。
ガイドの右手が、クリスの頭を捉える事はなく、目の前ですり抜けたのだ。
「う……そ……だ」
目の前で起きた出来事が、ガイドは信じられなかった。
事実、今朝までクリスに触れられたのだ。なのに、何故今は触れられないのだと、震える手を伸ばしクリスを抱き締めた。
しかし、抱き締めた感触は全くなく、ただ、ふわりとした冷たい空気が身体を抜けていっただけだった。
『ガイドさん、皆。来てくれてありがとう』
そうクリスの声が聞こえると、クリスの姿は霧の様に霧散し見えなくなってしまった。そして……辺りには、痛いくらいの静けさだけが残ったのであった。
「ク……リス」
「クリス!!」
「「「クリス――――――ッ!!」」」
ガイド達はそれでも信じられず、辺りを捜しクリスの名を何度と呼んだ。
霧が見せた幻想だと思いたかった。近くにいてふざけて隠れていると捜したのだ。しかし、叫べば叫ぶ程に悲しいくらいの、虚無感が襲っていた。彼は……蝋燭の火が消える様に消えたのだ。
「これが……これがクリスだなんて……信じられるかよ!!」
「誰か……使用人か誰かの……」
「そうに決まってる!! クリスはいたんだ、いたんだよ!!」
気付けば仲間達が、泣きながら叫んでいた。
信じたくないのに、何故か無性に胸が詰まり、涙が溢れて止まらなかった。クリスはいたんだと、誰かに言って欲しかったのだ。
「……シュ……レミナ……姫」
ガイドがか細い声で、ポソリと呟いた。
無意識だったといってもいい。ゾットはシュレミナも死んでいると言っていた。それが、頭を霞めたのだ。
まさかとは思う。だが、今起きていた事実に目を背ける事も出来なかった。
「姫」
ガイドはぬかるみに足をとられながらも、屋敷に走り出していた。あれがクリスだとしたら、シュレミナは?
頭が急激に冷えていった。考えたくもない事実に、恐怖で身体が震えていた。あれが、本当にクリスだとしたら……シュレミナは……シュレミナはどうなのだと。
今朝までクリスと皆で、楽しく笑顔で話していた。そのクリスが死んだという。ならば……同じ様に……。
考えたくもなかった。家に帰ればきっとまた笑顔で「おかえりなさい」と言ってくれるに違いない。
"確かめるな" と身体が警鐘を鳴らしていた。
見なければいい。そうしたら、このままシュレミナは家にいるのではないかと、心が叫んでいた。
でも……それでいいのか?
ガイドは屋敷に向かいながら、葛藤していた。
もし、もしも……。
彼女が亡くなっているのであれば、いつまでも地下室に1人で閉じ込めて置いていいのだろうか?
助けて欲しい、出して欲しいと願うのではないのか?
埋められていたクリス同様に、出して欲しいと願うのではないのか?




