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アザランの花  作者: 神山 りお


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30/38

*30 葛藤(前編)



「……な……に」

 何を言っているんだよクリス。

 ガイド達は喉を詰まらせた。心臓が止まった様な苦しさで、息も出来なかったのだ。




『 "僕" 』




 クリスは、再びそう呟くと悲しそうに笑った。




「な……何の冗談なんだよ!? んな訳ないじゃねぇか!!」

「お前はそこにいるだろ?」

「それは、犬かなんかの骨なんだろ!!」

 そう……土から見える白いモノ、それは骨だった。

 それを、"自分の" だと笑うクリスにガイド達は、口々に何を言うのだと問いていた。

 いや、クリスにではなく自分達に、言い聞かせる様に叫んでいたのだ。クリスの悪い冗談だと、叫んだのだ。

 だが、叫べば叫ぶ程に頭が冷え、心が震えていた。

 土から見える白いモノは、形からも犬の骨には到底見えない。細い骨は人の手に見えたし、半分しか見えない丸いモノは頭蓋骨だと分かる。分かってしまった。



「見つけてくれて、ありがとう」

 クリスはお礼を言うと、悲しそうに微笑んでいた。

 否定も肯定もしなかったが、それはまるで認めている様だった。

「何を言っているんだ。クリス」

 ガイドは、震えるその手でクリスの肩に触れた。

 悪い冗談は止めろと、ポンと軽く叩くつもりだった。




 だが――――




 ガイドの右手は、クリスをすり抜け空をきっていた。

「「「……っ!?」」」

 それを見た仲間達は、目を見張りドクリと心臓が止まっていた。

 ガイドの右手が、クリスの頭を捉える事はなく、目の前ですり抜けたのだ。

「う……そ……だ」

 目の前で起きた出来事が、ガイドは信じられなかった。

 事実、今朝までクリスに触れられたのだ。なのに、何故今は触れられないのだと、震える手を伸ばしクリスを抱き締めた。

 しかし、抱き締めた感触は全くなく、ただ、ふわりとした冷たい空気が身体を抜けていっただけだった。




『ガイドさん、皆。来てくれてありがとう』




 そうクリスの声が聞こえると、クリスの姿は霧の様に霧散し見えなくなってしまった。そして……辺りには、痛いくらいの静けさだけが残ったのであった。




「ク……リス」

「クリス!!」

「「「クリス――――――ッ!!」」」



 ガイド達はそれでも信じられず、辺りを捜しクリスの名を何度と呼んだ。

 霧が見せた幻想だと思いたかった。近くにいてふざけて隠れていると捜したのだ。しかし、叫べば叫ぶ程に悲しいくらいの、虚無感が襲っていた。彼は……蝋燭の火が消える様に消えたのだ。

 



「これが……これがクリスだなんて……信じられるかよ!!」

「誰か……使用人か誰かの……」

「そうに決まってる!! クリスはいたんだ、いたんだよ!!」

 気付けば仲間達が、泣きながら叫んでいた。

 信じたくないのに、何故か無性に胸が詰まり、涙が溢れて止まらなかった。クリスはいたんだと、誰かに言って欲しかったのだ。



「……シュ……レミナ……姫」

 ガイドがか細い声で、ポソリと呟いた。

 無意識だったといってもいい。ゾットはシュレミナも死んでいると言っていた。それが、頭を霞めたのだ。

 まさかとは思う。だが、今起きていた事実に目を背ける事も出来なかった。



「姫」

 ガイドはぬかるみに足をとられながらも、屋敷に走り出していた。あれがクリスだとしたら、シュレミナは?

 頭が急激に冷えていった。考えたくもない事実に、恐怖で身体が震えていた。あれが、本当にクリスだとしたら……シュレミナは……シュレミナはどうなのだと。

 今朝までクリスと皆で、楽しく笑顔で話していた。そのクリスが死んだという。ならば……同じ様に……。



 考えたくもなかった。家に帰ればきっとまた笑顔で「おかえりなさい」と言ってくれるに違いない。

 "確かめるな" と身体が警鐘を鳴らしていた。

 見なければいい。そうしたら、このままシュレミナは家にいるのではないかと、心が叫んでいた。




 でも……それでいいのか?




 ガイドは屋敷に向かいながら、葛藤していた。

 もし、もしも……。

 彼女が亡くなっているのであれば、いつまでも地下室に1人で閉じ込めて置いていいのだろうか?

 助けて欲しい、出して欲しいと願うのではないのか?

 埋められていたクリス同様に、出して欲しいと願うのではないのか?




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