*28 錯乱
「何を……何を言ってやがる!!」
「この期に及んで、適当な言葉で錯乱させるつもりか!?」
使用人の女達から、そんな言葉を聞いた男達は、ふざけるなと声を荒げた。
シュレミナ姫には今朝、ここに来る前に会っていたのだ。なのに、死んでいるなんて馬鹿げた話を誰が信じる。
だが、動揺する男達の耳には、次々と信じがたい言葉が入ってきた。
「て、適当で、こんな事が言える訳ないでしょう!?」
「あの娘は……シュレミナは……何年も前に死んでんだよ!!」
「食事のせいか……寒さのせいかは知らないけど……確かに死んだんだよ」
「「「嘘をつくんじゃねぇ! 信じられるか!!」」」
男達は口々に言う使用人の言葉に、堪らず怒声を上げた。
先程まで会って言葉まで交わしたシュレミナが、亡くなっているとは到底信じられないのである。以前の様な血色や覇気さえ見えなかったが、確かに言葉を交わしたし姿をこの目で何度も見ている。
使用人達が何故そんな、くだらない事を言い始めたのかが理解出来ない。
「嘘じゃないって!!」
「外鍵の地下室から1人で出られる訳もないに、生きてる訳がないじゃないか!」
「生きていたなら、あの死体は一体誰のなのよ!!」
「死者が生き返ったとでも言うの!?」
「「「いやぁーーーーっ!!」」」
使用人の女達はあり得ない男達の言葉に、半狂乱になっていた。
死んだハズのシュレミナに、この男達は会ったという。嘘をついている気配もなく、使用人達は恐怖で怯えていた。そんなに自分達の言葉を信じたくないのか、それとも恐怖を与えたいのかと、錯乱し激しく動揺していた。
信じても信じなくてもいいから、自分達の目で確かめてくれと強く言ったのだった。
*・*・*・*・*
一方で屋敷ではガイド達が困惑していた。
ゾットが言う驚愕の言葉に、頭が混乱していたと言っていい。
「クリスが死んでいる……だと!?」
錯乱でも起こしたのかと、ガイドはゾットを放し問い詰めた。
死への恐怖でオカシクなったのか、自分達を錯乱させて助かる算段でもしているのかも分からない。
「アレはもう何年も前に、バンダインの手下に殴り殺されている」
手下達は隠したつもりかも知らなかったが、ゾットは屋敷の裏庭に、何かを埋めているのを書斎の窓から見ていたのだ。
死体を直接見た訳ではないが、その日から一切姿は見なくなったし、裏庭が臭うともっぱらの噂だった。マリアの手前、知らない素振りを見せていただけで、すべてを知っていた。
「キサマ……何を言って」
ガイドは信じられないと、ゾットの胸ぐらを掴んでいた。
なら、今まで会っていたクリスは、一体誰なんだ。死んでいたのなら、会話どころか姿を見る事など、あるハズもないのだ。
「嘘ではない。クリスもシュレミナも、とうに死んでいる」
「姫もだと!? いつまでくだらねぇ嘘をつくんだキサマは!!」
ガイドは再びゾットを殴っていた。
助かりたい一心でつくにしても、最悪な嘘をつく意味が分からないのだ。命は助からないと悟ったゾットが、せめて一思いに死にたいと、自分達を怒らせたいのだろうか。
ガイド達に動揺が走っていた。口から出任せだと言いたいのに、何故か強く確信が持てなかった。
「ガイド……さん」
仲間達も "あり得ない" と何故か否定出来なかった。
それ処か、心臓が異様な速さで鼓動を打ち始めていた。実際会っていたのに、何故か疑心が蠢いていた。
ゾットが、何故そんな嘘をつく意味が分からない。ついている様にも見えなかった。ガイド達も、困惑しかなかったのだ。
「ガイドさん!!」
そんな時だった。裏庭から侵入していた仲間達が、顔面蒼白の表情で部屋に入って来たのは……。
「ガイドさん実はーー」
シュレミナ姫が……と言いかけ口をつぐんだ。
ガイド達の異様な表情に眉をひそめたのだ。ゾットが口から血を流し足元に転がってはいるが、その事より何かがあったと語っている顔だった。
「どうした? 言ってみろ」
ガイドは自分の動揺を隠し、ゾットの言葉を頭から振り払って言った。
異様な表情でいたのは、ガイド達だけではなかった。後から来た仲間達もそれは同様だったのだ。
「……それが」
「それが?」
「この女達が……姫は死んでるって……」
そう言って連れて来た使用人の女を、1人ドサリとガイドの前に差し出した。
俄に信じがたい話だが、あれから何度と聞き混乱をしていたのだ。
「……」
ガイド達にゾワリとした嫌な汗が、身体を濡らし始めていた。
ゾットだけでなく、使用人達までとなると偽りとも言えなくなってきたのだ。口裏を合わせるにしても、何処かおかしい。
「ガイドさん?」
ガイド達の反応に、違和感を覚えたのだ。
ガイドに馬鹿を言うんじゃねぇと、怒号を浴びせて欲しかった。嘘をつくなと言って欲しかったのだ。だが、そんな返答処か眉根を深くひそめただけだった。
「ゾットも……そう言っていたんだよ」
黙り込んだガイドに代わって、他の仲間が答えた。
血色は悪く微かに震える声だった。
「なっ。どう……いう事なんだよ!?」
ゾットからもそんな話が出ていたとは思わなかった者達も、奇妙な話に青ざめ震えが身体を走り抜けていた。
「クリスは……裏庭に埋められている」
ガイドは動揺を抑え、無機質な声を出した。




