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アザランの花  作者: 神山 りお


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27/38

*27 錯綜(後編)  



 バンタインが最期を迎え、他の仲間がゾットの元に向かっていた頃ーー



「ここからなら……」

 ゾットが数年前に作らせたという新しい逃げ道には、使用人数名の声が聞こえた。

 ここは、裏口とは別にゾットが新しく作らせた抜け道。万が一のため用で、普段は馬小屋に見せかけている。その小屋の裏から街へと、遠廻りだが行ける畦道だった。

 知っているのは、1部の使用人のみ。この使用人達も、たまたま見つけていただけ。そして、彼女等も万が一のためにと、他の誰にも教えてはいなかった。

 知る人物が増えれば、それだけ見つかる確率が上がるからである。そうなれば囮がいなくなると、教えてはいなかったのだ。



「ゾット様も酷いわよね。こんな抜け道を作ってあるのなら、教えといてよね!」

「まったく、あの家族ったら皆、自分の事だけなんだから」

 使用人達は、ボソボソと文句を言いながら逃げていたのだ。自分達も、自分の事だけしか考えずにココへ来ているにも関わらず、文句を言っていたのである。

 降り始めた雨で、この声もかき消されるとでも思っているのか、怖さを緩和させるために話しているのか、微かに笑う声さえも混じっていた。



「お前等だけには言われたくねぇって、ゾットも思うな」

 只でさえ視界の悪いこの闇夜に、話までして注意が散漫していたため、ここで待ち伏せされていたとは梅雨ほど思わなかったに違いない。

「「「……ひぃっっ!!」」」

 突如目の前に現れた黒ずくめの賊に、使用人達は叫び声を飲み込んでいた。

 戻ろうとしても、背後にも賊がいて逃げられない。知らぬ間に囲まれていたのである。

「逆らえば殺してイイって言われている。大人しく捕まるか殺されるか、好きな方を選べ」

 賊と思われた男は、腰に下げていた荒縄をスルリと取った。

 勿論、この使用人達を捕縛するためである。



 使用人の女達は互いを見ると、何か目配せをした様に動き出す。

「ねぇ。見逃してくれよ?」

「お金や宝石の隠し場所なら教えるし。見逃してくれたらーー」

「あたし達を好きにしてもイイからさぁ」

 自分達の魅力や価値を、それなりに知っている使用人達は、賊だと思い込んでいるガイドの仲間に媚を売り始めていた。

 雨でしっとり濡れた髪を耳にかけ、きっちり止めてあった胸元のボタンを外していく。

「ねぇ。お願い……見逃して?」

 艶っぽい声を出し、男達にはだけた胸を押しあて、さわさわと身体をまさぐり始める。男を挑発するのはお手のものだったのだ。



「そうだなぁ」

 知っていてわざと誘われた振りをして見せる男。

 上目使いで艶っぽい瞳。舌を巧みに使って舐める、ぷくりとした唇。そして、片方の手を握られ胸元に押しあてられれば、いつもの自分達だったら、このまま一緒に闇夜に溶けたかもしれない。

 だが、今の彼等には誓いがあった。使用人を1人として逃がすつもりなど端からないのだ。



「シュレミナ姫を助けていたら、逃がしていたかもな」

 男はニカリと笑っていた顔を一気に無表情に変え、彼女の腕を後ろ手に捻り上げた。

「いったいっ!!」

「野蛮な事はやめて!!」

 次々と使用人達は締め上げられ、悲痛な叫びを上げていた。まさか、色仕掛けが全く効かないとは思わなかったのだ。

 それも賊らしき男は "シュレミナ" と言った。何かが違うと悟ったのである。



「幼子を地下牢に閉じ込める方が、よっぽど野蛮だろうよ!!」

「てめぇ達も、同じ目に合わせてやろうか!?」

 男達が一斉に捲し立てれば、使用人達はやっと只の賊ではない事に気付いたのだ。

 そして、話振りからして、前アザラン侯爵の関係者だと知り、顔面蒼白に変わっていた。まさか、復讐しにくるとは思わなかった。

 来たとしても、バンタイン達がどうにかすると信じていたのだ。



「あ、あれはゾットさ……ゾットの命令で仕方なく!!」

「た……助けようとは思っていたのよ!?」

「だけど、ゾットやアマンダには逆らえなかったのよ!!」

「そうよ!!」

「「「あたし達は悪くない!!」」」

 使用人の女達は一様に口を揃え、ゾット達が悪いと罪を押し付けた。只の1人として、謝罪や贖罪の言葉はなく、自分達も仕方がなかったと涙さえ見せ同情を求めたのだ。




 ーーバチン!!




「ふざけんな!!」

 それは無意識だった。

 いつまでも助かるための言い訳しか言わず、黙らない使用人の1人の頬を、気付いた時には力一杯に叩いていたのだ。

「助けを呼ぶ事くらい出来たハズだろうが!! なのに……なのにてめぇ等はーー」

 叩いた手を男は強く握りしめ、ギリギリと爪で肉を抉っていた。たった1人で暗い地下牢に、閉じ込められていたシュレミナの事を思うと、辛くて悲しくて強い憤りしかなかったからだ。

 悔し涙が目尻に溜まる中、どうしても許せないと男が再び手を振り上げた。




 ーーその瞬間。




 ーー信じられない言葉に、皆の息が止まった。




「だって……だって……まさか」




「あのまま死んじゃうなんて思わなかったんだよ!!」






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