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アザランの花  作者: 神山 りお


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25/38

*25 愚鈍



「どうなってるんだ?」

 屋敷の大広間に、先に着いたバイエルと数名は眉を潜めていた。

 大広間から出てきた賊は倒した。その死体は表側の玄関に転がっている。だが、殺したのは賊だけだったハズである。なのに、何故使用人の女達の死体が、すでに床に転がっているのかが理解出来なかった。

「ガイドさん達か?」

 誰かが言った。実は自分達よりも先に着いていたと思ったのだ。

「いや。そうだったとしても。太刀筋が違う……こんな斬首刑みたいなやり方はしない」

 悪人だとしても女だ。牽制もせずバッサリとはやらないだろう。あの人はそういう人である。

「なら……」

 誰が、と声を発したその時――――




「来たな。賊共が!!」

 階段から駆け降りてくる男が1人いたのだ。

「この屋敷の主が嫡子。ジャック様がお前達の相手をしてやる!!」

 ゾットの息子ジャックが、逃げもせずに立ち向かって来たのだ。

 それも、多勢に無勢である。余程の腕に自信があるのか、馬鹿かのどちらかである。

「「「……」」」

 絶対に後者だと判断したバイエル達は、目配せをしジャックの隙を付き上に向かおうと合図した。




 ―――10分後。




 屋敷の大広間では、警備隊のバイエルが1人である男と対峙していた。勿論、この屋敷の嫡男ジャックである。

 しかし、誰が見ても力の格差は歴然。無駄な殺生を好まないバイエルは、相手が疲れて投降するのを、ただただ待っていた。

「この俺様の剣を避けるとは……やるな!」

 力量を知らないジャックは、相手が加減している事に全く気付かないでいた。

 むしろ、勝手に好敵手だと思い込んでいる。痛々しいにも程がある。

「……」

 お子様の剣技を見せられ、同格と見なされ、辟易としつつもバイエルは無言無表情を貫く。相手をするこちらが恥ずかしくて、苦笑いも出なかった。

「はん。これも避けるなんて、キサマ敵ながら中々やるじゃねぇか!」

 それがいけなかったのか、更に誤解しイイ気になっていく相手。全く当たらない=自分が格下、とは微塵も感じないらしい。

 なんなら、先程からジャックの横を何人かの仲間が横切り、2階へ続く階段に向かっていた。「遊んでんなよ」という生暖かい視線を受けながら、バイエルが相手にしてやっている事も分かっていなかった。



「……った!! ンで避けンだよ!!」

 そんな事を露とも知らないジャックは、自分の剣先が相手に何1つ当たらないのに至極憤慨していた。

 だが、これだけ相手をしていても、手加減されているとも弄ばれているのも気付かない。当たらないが自分も避けられている。互角だと勘違いしていた。

「……」

 おめでたいヤツだな……と内心笑うバイエル。

 避けてるのではなく、剣技がなってなくて当たらない……と、わざわざ教えるのも馬鹿馬鹿しいと、ますます適当にあしらっていた。




『あ~あ、成長してないね。ジャック』




「うるせぇんだよ!!」

 ジャックは耳にふと聞こえた嫌な声に、よそ見をしてしまった。剣の稽古ではなく、仮にも賊との戦闘中にである。

「あっ」

 バイエルはヤバイとばかりに、慌てて剣先の方向を変えたが……勢いがついてしまい当たってしまった。まさか、こんな時によそ見をするとは想定外である。

「ってぇぇぇっ!! 俺様の腕が―――っ、腕が―――っ!!」

 ジャックは途端に剣を床に落とし、右腕を押さえ大声で泣き叫ぶ。

 よそ見をしたせいで、彼の右腕が斬られてしまったのだ。赤々とした生暖かい鮮血が、ポタポタと床に落ちていた。

 そして、今現在進行中で戦っているのに、怪我をしたと武器を放り投げ、痛い痛いと絶叫していた。



「ぎゃゃあぁぁ~っ!!」

 バイエルはこれ幸いと、恥ずかしいくらいに泣き叫ぶジャックの腕を捻り上げ、後ろ手にロープで一気に縛り上げた。

 子供だからと、一応配慮してやっていたのだが、ホトホト疲れたのだ。オマケに致命的な怪我でもなく、ただのカスリ傷なのに大袈裟なくらい、ビービーと号泣している。

 比べるのも失礼だが同じ侯爵の嫡男でも、アレンとこうも違うとは呆れてモノが言えない。自分が手を下すのも馬鹿馬鹿しいと捕縛する事にした。




『カスリ傷くらいで……』




「うるせぇ!! 黙りやがれ!!」

 また聞こえた嘲笑に、ジャックは腕の痛みを忘れ怒鳴っていた。

 何処の誰が話しているのかは分からないが、自分を馬鹿にした言葉に憤慨していたのだ。

「うるさいのは、てめぇだろ。一体さっきから誰と話している!?」

 バイエルは眉に皺を寄せていた。

 ジャックは自分とではなく、虚空を見て何かと話をしている様に見えたからだ。精神でも病んだのかと、うるさい以前にゾッとする。




『それが痛みだよ。ジャック? 少しは理解出来たかな?』




「黙れ!! 黙れ!!」

 ジャックは耳障りな声に、腕の痛さを忘れ何度も叫んでいた。

 この声が自分にしか聞こえていないと、気付いていなかった。何処かに隠れた誰かが、自分を嘲笑っているのだと思っているのだ。



「お前が黙れ」

 気が触れたと判断したバイエルは、ジャックの頸を手で払い気絶させたのであった。




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