*24 仇敵(後編)
「俺に言わせりゃあ、お前も俺も同じだと思うがねぇ?」
そう言ってジリジリと間合いを詰めてくるバンタインの背後には、いつの間にかに現れた手下が2人いた。
コイツ等とコチラの警備隊とは、良くも悪くも場数が違う。それに人を斬る事になれているバンタイン達には、遅れを取るのも目に見えている。
時間を稼がれ人が増えれば、コチラは不利になるだろう。
「キサマと何が同じなんだ」
話に乗った振りをしつつ、仲間には散らばる様に指示をするガイド。間合いを取らなければ、バンタイン達の方が上手だ。
「 "主のため" という点では同じだ」
「ふざけるな!!」
ガイドは剣を凪ぎ払い、怒号を放った。
冷静に対処しなければと頭では理解出来る。だが、感情が抑え切れなかった。
どこまでも自分達をバカにし、嘲笑うバンタイン達に怒りで震えていた。仮に "主のため" という点で同じだったとしても、矜持や誇りがまったく違う。
自分は主のためになら、この身を捧げる覚悟があった。ヤツは違う。自分のためになら、主を裏切れるのだ。それを "同じ" という簡単な言葉で括られるのは、どうにも許せなかった。
「アハハハハ!!」
雨が激しさを増してくるなか、バンタインはガイドの言葉に態度に可笑しく笑っていた。
どこまでも相容れぬ真逆な男だと、面白くて仕方がなかったのである。
「アイツは俺が殺る。お前達はゾットを殺れ」
「し、しかし」
「アイツを俺にくれ」
渋る仲間達にガイドはそう告げた。
例え無謀や我が儘だとしても、この男バンタインはどうしてもこの手で始末を付けたかった。
命と誇りを捧げた主達を、手に掛けた男。そして、今も尚、主を馬鹿にする男を……自分の手で葬り去りたかったのだ。
「1人で俺を殺れるとでも思ってるのなら、おめでたい。お前達は金品を集めてネグラに行ってろ」
バンタインは面白可笑しく笑って、手下達に指示をする。
雇い主であるゾットには、早々に見切りをつけた様だった。ゾットを守る事よりも、この状況に紛れ盗みを働き逃げる算段をつけていた。
「「了解!」」
バンタインの手下達は、面白そうに喉を鳴らすと闇夜に消えていった。
バンタインの手下は、雇い主のゾットから金を貰っていたとしても、あくまでも頭はバンタインであったのだ。
ガイドは仲間達に目配せをした。
バンタインの手下を逃がすな……と。アイツ等をみすみす逃がす訳にはいかない。ここにいる盗賊を、1人として逃がすつもりなどないのだ。
ガイドの考えている事を、すぐに理解した仲間達は手下が消えた闇夜に、素早く向かって行くのであった。
―――ガキン!!
「っく!」
ガイドが目配せをしている隙に、間合いを一気に詰めていたのか、気配に気付くと目の前には剣を振り構えるバンタインがいたのだ。
「チッ。バレたか!」
バンタインは舌打ちをしながらも、剣を右へ左へと次々とガイドに向けて斬りかかる。
「相変わらず、卑怯な!!」
ガイドは、バンタインの剣技を交わしながらも、反撃の隙を狙っていた。
体格は互角。力も互角。そうなると、後は体力戦になってくる。だがしかし、経験値だけは圧倒的にバンタインの方が優勢である。
「いざ勝負? っていう馬鹿が何処にいるんだよ。アホが」
鼻で笑いつつも、バンタイン自身も余裕がなくなってきていた。
バンタインの方が剣に重さがあるものの、それを補うくらいにガイドの方が瞬発力があった。長期戦になれば、力任せのバンタインは不利である。
「チッ」
服をピリッと破り、腕に鮮血が流れた。
バンタインの左腕に、ガイドの剣が僅かにかすったのだ。雨のせいで草が湿り気を帯び、一瞬草で足が滑ってしまったせいである。その隙を、ガイドが見逃すハズはなかった。
「糞がっ!!」
バンタインは次々とぬかるみに足を取られ、ガイドからの攻撃をギリギリで躱すのが精一杯になってきた。
その運を味方に付けた、ガイドの鋭い刃先がバンタインを追い詰め始めていた。バンタインは暴言を吐く余裕もなくなる程、徐々に精神的にも苦境に立たされた。剣技も互角なら、隙を見せた方が負けである。
だが、ガイドはそれでも躱すバンタインに、中々傷を負わせる事が出来ない。右端に躱されると、どうしても視界から一瞬バンタインが消えて見えるからである。
「……っ!」
雨で濡れたバンタインの口端が、醜く大きく歪んだ。
ガイドは自分を完全に捉えていないと、気付いたのである。
「プッ」
バンタインはガイドの剣を、身体ギリギリで躱すと、口に入った雨水ごと唾をガイドの左目に飛ばした。
「……っ!!」
ガイドの左目に飛沫が入った。
その瞬間、只でさえ見えずらい闇夜に、見える方の左目が飛沫で潰され視界が完全にぼやけてしまったのだ。
雨のせいか、唾のせいか、左目が異様に染みていた。
霞む右目も、ズキズキと熱をもって痛み出す。だが、ここで目を擦ったら、完全に隙になると判断したガイドは、気配でバンタインを読み取る事にした。
「っ!!」
その判断が間違いなのか、否かは分からないがバンタインの姿が完全に視界から消えてしまった。気配も雨足で、良く読み取れない。右目も強く痛み出したその時――――
「最期だガイド!!」
バンタインの勝ち誇った声が耳に掛かった。
『五時の方向だ、ガイドさん!!』
その瞬間、懐かしい声が頭を掠めた。
―――ザシュッ。
「っがぁっ!!」
声が頭を掠めた瞬間を逃さず、ガイドは後方の剣を躱すと自分の剣を思いっきり凪ぎ払ったのだ。
「キサ……マ……」
気付けばバンタインが、足元にドサリと倒れていた。
その水溜まりには血が混じり始め、血溜まりが広がり始めていた。バンタインの剣を躱したガイドの剣の筋が、バンタインの首から脇に抜けていた様だった。
「俺が……俺が……殺られるわけがねぇ!!」
ヒュウヒュウと息をしながら首を押さえたバンタインは、まだ戦うつもりなのか、剣で自身を支え立ち上がろうとしていた。
「……死んで詫びろ」
それを待つ程、お人好しではない。ガイドは立ち上がろうとしていたバンタインの胸に、迷う事なく剣を突き立てた。
胸に剣が突き刺さるとグフッと血を吐き出し、バンタインはぬかるみにバシャリと倒れた。そして、ビクピクと肩を数回動かすと、目を開いたまま動かなくなったのであった。
それが、アザラン侯爵を殺害した、盗賊頭バンタインの呆気ない最期であった。
『俺がアンタの右目になるよ』
「リスト……」
ガイドはまだドクドクと鼓動を打つ、熱い右目を押さえながら呟いた。
「こういう……意味じゃねぇだろ」
生前、親友のリストは、見えずらい自分の右目になると良く言っていた。だが、それはいつも隣に立つという意味ではなかったのか……。
「意味が違ぇんだよ……リストのアホ」
ガイドは強く強く押さえていた右目から手を離すと、天を仰いだ。
暗い夜空に雨が降る。熱かった右目を冷やす様に、雨が瞳に入り込む。左目は雨で濯がれ、元通りの視界が広がった。
そして……悪かった右目からも、何故か同じ様な景色が広がって見えていた。
「……ア……ホ」
ガイドは震える声でもう一度呟くと、涙を雨で流すのであった。




