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アザランの花  作者: 神山 りお


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23/38

*23 仇敵(前編)



「ジャック。何処に行くんだ?」

 その頃、息子ジャックは剣を振り回し遊んでいた。だが、飽きたのか何か思い付いたのか、ゾットの部屋を出ようとしていた。

「賊退治?」

 父にそう訊かれたジャックは、実に愉快そうに返答した。

 妹達は怯えていたが、自分にしたらこんな面白い事はなかった。獣を狩る時よりも、スリルと興奮で頭が沸いていた。

 昂る感情を抑えられないのだ。無闇に人を殺せば人殺し。だが、正当防衛なら人を殺しても罪にはならない。

 しかも、公爵家の息子として賊に立ち向かったと、称賛さえしてくれる可能性まである。なので、楽しくて仕方がなかった。

「自らの手を汚すなど、公爵の名に相応しくなかろう。手下にやらせとけ」

「伯父上をヤった時みたいに?」

 妹マリアは知らないが、ジャックは知っていた。

 父が屋敷の奴等を使って、伯父達を殺害した事を……。

「そうだ。上に立つものは自らの手は汚さん」

「でも、賊を退治したとなれば、息子に箔が付くってもんだろ? 数を減らす手伝いをするだけだって」

「ったく。程々にしろ。お前は跡継ぎだって事を忘れるな」

 ヤりたくてウズウズしている息子を抑える事など、父ゾットには出来なかった。

 気持ちが分かるくらいに、父の性根も腐っていたのである。

「は~い。父上」

 ジャックは許可を貰い、嬉しそうに部屋を飛び出したのであった。




 *・*・*・*・*




「ガイドさん。怖いくらいに上手くいってませんか?」

 屋敷の周りにいた警備隊は、逃げる間もなくほとんどを始末出来ていた。こちらには大した怪我人もいない。 

 余りにも上手くいき過ぎて、不安になった仲間が口を開いた。

「天が俺達に味方になってくれている。そう思うしかねぇよ。今更後には引けない」

 ガイド自身もここまで容易に、屋敷を包囲出来るとは思わなかった。だが、自身の不安は隠さなければならない。

 リーダーである自身の不安は、仲間の不安に真っ先に繋がる。不安を味方に付けるしかないのだ。



 屋敷の周りを包囲すると中の明かりも、チラチラと点滅し始めた。これも、クリスの仕業だとガイド達は感じ、扉や窓から一斉に侵入しようと走り寄る。



「あぶない!!」

 ガイド達が窓ガラスを割り、外から屋敷の中に入ろうとした瞬間―――。

 背後にいた仲間の声が危険を告げた。

 暗闇で誰だか分からないが、仲間の1人が気配にいち早く気付き、ガイド達を守る様に間に入ってくれた様だった。

 そのおかげで気付く事が出来、犠牲者が出なかった。

 


 ガイドは素早く剣を構え態勢を建て直し、仲間の背後に見えた人影に躊躇いもなく斬りかかった。だが、その影は簡単に避けると、後ろに飛び距離をとる。

「ガイドさん!!」

 ガイドの周りに援護に集まった。屋敷に入る事に集中し過ぎて、気配を読めていなかった。そのために仲間が殺られる処だったと想像すると、身体がブルリと震えた。

 殺らなきゃ殺られる。今更ながら初めて知った感覚に、気が付くと身体が震えたのだ。

 そして互いに、まだ誰かいるのかと辺りを見回していた。



「……ガイド。ククッ……そうか、ガイドだったのか」

 暗がりに立つ何者かは、仲間の口にした名前を耳にし面白そうに笑って繰り返す。

 ガイドがその声を不審に思ったその瞬間、チラチラとその男の顔に、外灯の明かりがあたった。



 その時、見えなかった顔が、一瞬だがハッキリと見えた。

「……っ!? その声……まさ……か。バン……タイン!!」

 その瞬間、右目が痛いくらいにカッと熱くなる。

 それは、ガイドが忘れたくとも忘れられない顔であった。自分の右目に傷をつけた男であり、妻のライナを襲っていた男だったのだから。

「へぇ。覚えていてくれたのか、ガイド」

 自分の名を呼んだ彼に満足でもしたのか、さらに愉快だとクツクツとバンタインは笑っていた。

 この異様な状況さえもが、愉しくて仕方がない様である。狂っているといってもいい。

「貴様……何故こ―――」

 ガイドはこの男が何故ここにいるのか、不思議に感じた次の瞬間。何故ここにいるのかが、理解出来てしまった。



「ゾットの手下に成り下がっていたのか」

 ヤツは数年前から姿を消していた。だとしても、死んだとは思えなかった。それが、まさかゾットの下にいて再会するとは……。

「手下ぁ? 馬鹿が。ゾットなんかの手下になるかよ。ただの共存関係だ」

 バンタインは心外だとばかりに、ハンと鼻で笑った。

 使われているつもりはない。むしろヤツを隠れ蓑にして、使っているだけのつもりである。利用するだけ利用して、万が一に何かあれば切り捨てればイイと。

 ゾットもそれは同じに違いない。互いに悪事を働くための隠れ蓑。利害が一致しただけの話。


「共存も手下も変わらねぇ。貴様がお館様を……この屋敷を襲ったんだな?」

 ガイドは剣を強く握り締め、飛び掛かりたい気持ちに歯止めを掛けていた。

 今すぐ斬りかかるより、事実を知る方が先である。クリスを信じていないのではなく、ヤツの口からも聞きたかったのだ。

「額が良かったからな」

 バンタインがニヤリと笑い肯定する。

 金とスリルが欲しいバンタイン。そこにたまたま、アザラン家を襲って欲しいとゾットが金を積んだ。利害の一致である。

 バンタインにしたら、金払いさえ良ければ相手が誰でも良かった。互いに欲しがるモノが上手く填まったたけ。

 ガイド達は真実を知り、仇敵が誰か知り、斬りかからんとギリギリと唇を噛み締めていた。

 自分達が、アザラン家を襲ったと白状したのだ。それも、お金のためだけに……。



「なぁ。こうしねぇか? ガイド」

 バンタインはさもたった今、思い付いたかの様にわさとらしく手を叩いてみせた。その様子は悪びれもなく、実に愉しげである。

「ゾットの命が欲しいんだろ? なら、金を寄越せよ。したら邪魔はしねぇでいてやる。いや、なんならヤってやろうか?」

「ふざけるなっ!!」

 ガイドは怒号を放ち、バンタインのくだらない案を一蹴した。こんな状況だというのに愉しんでいるのだ。頭の血が怒りで沸騰しそうだった。

 アザラン侯爵に手をかけたのは、ゾットの命令と金のため。どの理由だとしても、絶対に許せなかった。

 首謀者でなくとも、共犯者であり強盗犯である。そんな悪党と交渉などヘドが出る。


「アハハハハ――――ッ!!」

 ガイドが怒号を浴びせれば、さらに愉快愉快と高笑いしていた。予想通りの返答だったからである。







 

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