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アザランの花  作者: 神山 りお


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22/38

*22 混沌 



 屋敷の中では、侍女達数名がパニックを起こしていた。原因も分からずチカチカと点滅するランプ。

 外では、いつもある外灯の灯りが次々と消え、様子を見に行った者は帰って来ない。不安が恐怖を呼び、気の弱い者が錯乱し始めると、それは伝染病の様に皆の心に感化していった。



「あの娘!! きっとあの娘の呪いだわ!!」

 誰かが、震える様にそう言うと、皆の背中にゾワリとしたモノが走った。

 心当たりのない者がいないからだ。小さいモノから大きなモノを含めれば、女の使用人達は何かしらをやっていた。直接とまでも言わなくても間接的になら、女の人達は全員関与していたのだ。

 その一言で、皆の目に怯えの色が見え始めていく。その言葉がきっかけで、やらかした事を思いだしていたのだ。

 ただのすきま風が背中に吹いただけでも、恐怖を感じ徐々に気が触れ始めていた。

「そ……そうよ!!」

「虐めたから……私達が虐めたから……」

「あの娘を虐めたから、私達に仕返ししに来たんだわ!!」

「あっあたしは何もしてないわよ!!」

「あたしだって直接には……アンタはご飯に塩を入れてたじゃない」

「そういうアンタは、砂利を入れてたでしょ!!」

 自分の罪はうず高く棚に上げ、自分の罪は小さいモノだと弁解する。悪いと思い謝罪しようていう気は、頭を微塵も掠めず罪の擦り付け合いを始めていた。




 ―――ヒュッ。




「キャアァァァ――――ッ!!」

 呪いなどではなく、ただのすきま風が彼女達の背に吹きかかると―――

 ―――それは狂気に変わる。

 1人が悲鳴を上げると、皆の精神に感化され広まっていた。何も見てもいないのに、フワリと風でカーテンが揺れるだけでも、異様な叫び声や、ツン裂く様な悲鳴が次々と上がっていた。




 ――――――ザシュッ。




 だが、そんな異様な叫び声を一気に冷ます様な、血飛沫が急に使用人達の視界を埋めた。

「うるせぇんだよ!! 黙りやがれ。呪いなんかあるか!!」

 騒ぎ出した侍女達を首を、警備隊の男が次々と斬り落とした。

 血飛沫を上げゴロリと落ちる首。それを見た侍女が声を上げようとすれば、男はまたその首を落とした。

「てめぇらの耳障りな声で、侵入者の気配が分からなくなるだろうが!! 死にたくなけりゃあ。黙っとけ」

 わぁきゃあと騒ぐ使用人達を、警備隊の男を実力行使で黙らせた。

 ただでさえ、雨や風の音が激しくなり侵入者の位置が分かりにくい。そこにきて、女の騒ぎ声まで混ざれば、いよいよ分かりづらくなるからだ。

 使用人達は、その男の恐ろしい剣幕に押し黙り、悲鳴が出そうな口を強く押さえた。侵入者も怖いが、この男の方が使用人達にしたら脅威だった。



「ひっ」

 そこへ逃げるために階段から降りてきたマリア達が、大広間のその惨状に顔をしかめた。血生臭い臭いと、まだ温かそうな血溜まり。そして……見知った使用人の首が転がっていたのだから。

「ちょっと!! その絨毯はアシーネル産の高いヤツなのよ!? 幾らしたと思っているのよ!!」

 普通なら悲鳴を上げても、おかしくはない状況を惨劇を見て嘆く事よりも怒りを露にしたアマンダ。

 ゾットの妻は使用人が死んだ事よりも、その血で汚れた絨毯の心配しかしていなかった。

 特注品の高い海外製の絨毯だったのだ。それを、よりにもよって血で汚れされたのである。すげ替えの利く使用人の死より怒りしか湧かなった。

 挙げ句にその首や身体を、誰が処分するのだと怒鳴り散らしていた。

「おっ奥様!!」

 階段から降りて来たアマンダに、使用人達はすがった。

 怖くて怖くて仕方がなかったのだ。侵入したらしい賊の存在よりも、今は警備隊の連中の方が脅威だった。

 この恐怖から、どうにかして欲しいとアマンダにすがりついたのである。

「怖いのなら何処かに、隠れていなさい」

 アマンダとマリアはチラリと使用人達や、転がっている死体を横目に食堂の奥へと足早に向かった。

 怯える使用人の女など、自分には関係がないからだ。むしろ、自分の助かるコマになれば良いと思っていた。

 だから、当然一緒に隠れる気も、助ける気もないのだ。



「おっ……奥様。私達も!!」

「はぁぁ!? 使用人ごときが同室になんてあり得る訳がないでしょう!? 他に隠れなさいよ!!」

 娘マリアが呆れた様に、ピシャリと言い放った。

 この隠し部屋は、自分達のモノである。使用人が同室なんて絶対にあり得ないと強く否定し、すがる者達を追い払う。

 それどころか、隠れる人が増えれば増えるだけ気配が漏れ、自分達の身に危険が及ぶかもしれない。

 同じ所に隠れるなど、何があろうがあり得ないのだ。

「そ……そんな事をおっしゃら―――」

「地下室に隠れればイイでしょ!」

 それでもすがりつく使用人達に、嘲る様にマリアは言った。

 あそこも、ある意味隠し部屋みたいなモノだ。外部の者が知らない部屋には違いないのだ。

「っ!?」

「ちっ地下室って……いやぁ!!」

「あの娘のいた所なんて嫌!!」

 マリアが言った一言により、再び恐怖が襲い始めた使用人達が騒ぎ、悲鳴に似た声を上げた。

 確かに地下室は隠し部屋みたいなモノだ。だが、あの娘がいた部屋になど、入りたくもなかった。



「だから、ギャアギャアうるせぇんだよ!!」

 今度はキンとわざとらしく、剣を鳴らしてみせた警備の男。

 先程から言っているのに一向に黙らない事に、イラついていたのだ。そこにアマンダやマリアがいなければ、この剣で切り裂いていただろう。

「あなた達、斬るのならなるべく外でやって頂戴。それと、賊を殺った人数に対して対価を取らすから、しっかりと始末しなさい」

「「「了解!!」」」

 アマンダの対価という言葉に、警備隊達は士気が上がった。

 賊等を恐れる自分達ではない。むしろ、久々の獲物に血が沸いたくらいであった。

 正当な理由で人を傷つけられるのだ。こんな都合の良い話など滅多にない。そして対価もある。彼等には、スリルと遊びの延長みたいなモノであった。



「ふん。人殺しなんて、外道の遊びだわ」

「シッ。その上に私達があるのよ。機嫌を損ねる事は言わないで頂戴」

 マリアが蔑む様な目を彼等に向け、ボソリと漏らしたので母アマンダはやんわりと注意しておく。

 万が一にでも彼等に聞こえて、機嫌を損ねてしまえば、害がこちらに及んでしまう。力や剣技で勝てる訳がないのだ。

 機嫌を取っていた方が正解なのである。

「知ってるわ。でも、服が血で汚れるじゃない。血は落ちにくいのよ?」

 マリアはふて腐れた様に言った。

 兄が狩りで獲ってきた獣の血液が、1度お気に入りのドレスに付いた時はショックと衝撃で身体が震えた。

 しかも、何度となく使用人達に洗濯させたものの、結局は染みになるばかりで落ちなかった。あんなのは御免だと顔が、ついつい渋くなる。

「汚れたら買えばいいのよ。あーでも、あの絨毯は特注だから替えはないのよね。まったく、汚いったらないわ」

 アマンダは、血で汚れた絨毯の心配ばかりで、使用人達の心配などしていなかった。

 死んだのであれば、新しい使用人を雇えばいいと思っているからである。使用人達に替えはある。だが、自分達には替えはない。

 自身の心配しかないのであった。





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