*19 密談
ーー決行日は決まった。
ーー3日後の夜。
それは雨季とも云えるこの時期の中で、もっとも濃い霧が発生しやすく、雨が降れば雨風が酷くなる日だった。この10数年、晴れた記述がまったく無い日。
そして……アザラン侯爵家が襲われた日であった。
「ゾットと同じやり方でやろう」
それが、皆の決めた "やり方" だった。
手口が同じなのはリスクもある。だが、そうする事でヤツ等は嫌でも思い出すだろう。これが、ゾットや自分達に対する復讐だという事を……。
だから、リスクを承知であえてやるのだ。
お前達がした事は、どれだけ残忍で非道だったか。思い知らせるために、同じ日、同じやり方でやるのである。
勿論。少しばかり付加はつける。
クリス達が引っ掛かったみたいに、逃げ道がある様に見せかけて、裏口にも潜ませ一網打尽にする。
抜け道が、新しく造られてあるのも承知している。そこにも罠は張ってある。わざと追い込んで使用人1人として逃がさない。
何故なら皆。シュレミナを助けようともせず、加担した連中だからだ。そこに同情の余地はないと判断した。
「灯りはどうする?」
仲間の1人が訊いた。
アザラン侯爵家には、あの惨劇の後にゾットが増やした外灯が点々と配置されている。いくら濃霧や雨風が酷くても、灯りは漏れる。1つ1つは小さくとも、それがヤツ等の目になる。
侵入が早くバレてしまえば、計画は頓挫しかねなかった。
「僕がどうにかする」
「どうにかするって……どうやって?」
ガイド元隊長が眉を潜めた。
あの数を1人でどうするのだ……と。
「細工がしてある」
「細工?」
「この時の……ために……ね?」
皆は、そう言ったクリスの表情を見て背筋がゾクリと凍った。何故ならば、そう言った彼の微笑みは、湖の奥底。仄暗い微笑みだったからだ。
彼がこんな表情を見せるとは、誰も想像したりはしなかった。幼さが残る少年の、屈託のない笑顔はどこにもなかったのだ。
「……灯りはクリスに任せる。それが消えたのを合図として侵入する」
「「「……分かった」」」
誰一人として、彼が出来ないとは疑わなかった。そう思わせるには充分過ぎる程の、微笑みだったのだ。
「ガイドさん……皆」
「なんだ?」
「人を殺す覚悟は出来ている?」
クリスは無表情に冷たく、ゾッとする様な声で訊いた。計画から外れるのなら、最後の好機だと念を押しているのだ。
まだまだ、幼さが残る少年が……である。
「……覚悟は出来ている」
生唾を飲み込んだガイド元隊長達。そうでもしないと、クリスの異様な雰囲気に飲み込まれそうだった。
「「「指輪に懸けて」」」
あの花をモチーフにした指輪を皆は掲げた。
それは……クリスに……クリスを通してアザラン侯爵に、この復讐を捧げている様だった。
「そう。なら、僕が言う事はないよ」
クリスはそう一言。今度は年齢通りの屈託のない笑顔を見せた。
皆の強い決意に満足でもしたかの様だった。
ガイド元隊長は皆に襲撃の策を話しながらも、内心複雑でしかなかった。素直で可愛いらしかった彼は、ここまで変わってしまった。
それは……あのゾットのせいであり、皆を護れなかった己のせいなのかもしれない……と。胸を痛めずにはいられなかったのだ。




