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アザランの花  作者: 神山 りお


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19/38

*19 密談



 ーー決行日は決まった。



 ーー3日後の夜。



 それは雨季とも云えるこの時期の中で、もっとも濃い霧が発生しやすく、雨が降れば雨風が酷くなる日だった。この10数年、晴れた記述がまったく無い日。



 そして……アザラン侯爵家が襲われた日であった。



「ゾットと同じやり方でやろう」

 それが、皆の決めた "やり方" だった。

 手口が同じなのはリスクもある。だが、そうする事でヤツ等は嫌でも思い出すだろう。これが、ゾットや自分達に対する復讐だという事を……。

 だから、リスクを承知であえてやるのだ。

 お前達がした事は、どれだけ残忍で非道だったか。思い知らせるために、同じ日、同じやり方でやるのである。



 勿論。少しばかり付加はつける。



 クリス達が引っ掛かったみたいに、逃げ道がある様に見せかけて、裏口にも潜ませ一網打尽にする。

 抜け道が、新しく造られてあるのも承知している。そこにも罠は張ってある。わざと追い込んで使用人1人として逃がさない。

 何故なら皆。シュレミナを助けようともせず、加担した連中だからだ。そこに同情の余地はないと判断した。



「灯りはどうする?」

 仲間の1人が訊いた。

 アザラン侯爵家には、あの惨劇の後にゾットが増やした外灯が点々と配置されている。いくら濃霧や雨風が酷くても、灯りは漏れる。1つ1つは小さくとも、それがヤツ等の目になる。

 侵入が早くバレてしまえば、計画は頓挫しかねなかった。

「僕がどうにかする」

「どうにかするって……どうやって?」

 ガイド元隊長が眉を潜めた。

 あの数を1人でどうするのだ……と。



「細工がしてある」

「細工?」

「この時の……ために……ね?」

 皆は、そう言ったクリスの表情を見て背筋がゾクリと凍った。何故ならば、そう言った彼の微笑みは、湖の奥底。仄暗い微笑みだったからだ。

 彼がこんな表情を見せるとは、誰も想像したりはしなかった。幼さが残る少年の、屈託のない笑顔はどこにもなかったのだ。



「……灯りはクリスに任せる。それが消えたのを合図として侵入する」

「「「……分かった」」」

 誰一人として、彼が出来ないとは疑わなかった。そう思わせるには充分過ぎる程の、微笑みだったのだ。

「ガイドさん……皆」

「なんだ?」

「人を殺す覚悟は出来ている?」

 クリスは無表情に冷たく、ゾッとする様な声で訊いた。計画から外れるのなら、最後の好機だと念を押しているのだ。

 まだまだ、幼さが残る少年が……である。



「……覚悟は出来ている」

 生唾を飲み込んだガイド元隊長達。そうでもしないと、クリスの異様な雰囲気に飲み込まれそうだった。

「「「指輪に懸けて」」」

 あの花をモチーフにした指輪を皆は掲げた。

 それは……クリスに……クリスを通してアザラン侯爵に、この復讐を捧げている様だった。



「そう。なら、僕が言う事はないよ」

 クリスはそう一言。今度は年齢通りの屈託のない笑顔を見せた。

 皆の強い決意に満足でもしたかの様だった。



 ガイド元隊長は皆に襲撃の策を話しながらも、内心複雑でしかなかった。素直で可愛いらしかった彼は、ここまで変わってしまった。

 それは……あのゾットのせいであり、皆を護れなかった己のせいなのかもしれない……と。胸を痛めずにはいられなかったのだ。




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